デッサンってWebデザイナーに必要?
メルマガ読者さんからの質問
先日、とある学生さんから「webデザインをするのに、デッサンって必要なんですか?」と真正面から質問されました。
これは、普遍的ないい質問です。デザインのお仕事をされていない方でも、例えば同じ職場にデザイナーがいて「時々彼のモニタをこっそり見てるけどデッサンみたいな絵を描いているところなんて一度だって見たことないよ」と思っているのではないでしょうか。その通りです。デザイナーはモニタ上で(デッサンみたいに)鉛筆ブラシを使って描く場面はまずないことでしょう。
描写力が必須な油絵科や日本画科卒業生のように、毎日アトリエで仕事する訳でもないし、直接に必要なスキルではないように思えます。確かにWebデザイナーは毎日絵を描かないですし、正直な話絵が下手な人も沢山います。しかし変な話、絵を描けないとしてもデッサン力は必要なんです。
デッサンってそもそも何?
正直、デッサンやデザインに興味あってここまで読んでみたけど「デッサンって何?」って真正面から聞かれるとわかんないな〜って人、結構いるかと思います。無理もないでしょう。だってTV番組とかで芸能人に絵を描かせてるバラエティ番組なんかで「デッサン・絵・スケッチ・デザイン」という言葉の理解は全部ごちゃ混ぜに使われていて、そりゃあそんなもの見させられてたらわからなくもなります。そんな方のためにも、ここでデッサンの定義をハッキリさせておきましょう。
ですから、静物デッサンでは、モチーフが静物(ビンとかりんごとか花とか)なので、それらをそのまま紙の上に表現する。石膏デッサンでは、モチーフが石膏なので、それらを紙の上に表現する、、そういうことです。
絵画とかアートになると「こんな斬新な発想を思いつくなんて凄いね!」という褒め言葉が普通ですが、デッサンではそんな発想してもらっちゃ困りますよね(笑)答えはモチーフの中に全部あるので。ただただ自然にそのモチーフをそのままに表現できるか?にかかって来るわけです。
言い換えると「デッサン」って「絵を描くことの土台であり基礎」と捉えたらわかりやすいです。斬新な絵を描きまくっていたピカソや岡本太郎だって物凄いデッサン上手いですから(ググって見るとびびりますよ)
さて、では「デッサンとは目の前のモチーフをそのまま描くこと」ということを前提に、「デッサンってWebデザインに必要なの?」というはじめの質問に、お答えしましょう。
何故webデザイナーにデッサン力が必要なのか?と言えば、前提としてwebデザイナーとして仕事をしていく中で「目の前にないもの」をビジュアル化しなければならない場面が必ずあるということです。(ある、どころかしょっちゅうそういう目に合うわけですけど)
Webデザインをする上でデッサン力が必要である、という理由のひとつとして、まずこのことがあげられます。
デザイン現場でよくある「目の前にないものをビジュアル化する作業」
例えば、あなたが「Studio Picnic 」というデザイン事務所のロゴデザインを依頼されたとします。
基本的にはPicnicという社名は読ませたいので、SONYみたいにすんなり英文字で読めるシンプルなものになるかもしれないけど、デザイン事務所だし、少し変わってる案で「picnic」を連想させる海とか山とかをロゴデザインのどこかに入れよう、なんて思いついた時、
デッサンに自信がないと「海とか山とか描けないな」と思ってこのロゴデザイン案って出しにくくなっちゃいます。
自分の描写スキルに自信ないからひとつのデザイン案が消えちゃうわけで、プロのデザイナーであれば最低でも2つ以上のバリエーション案出さないとならないのに、かなり致命的に痛いなんてもんじゃないですよね。
https://setouchitourism.or.jp/ja/service/product/
これは「瀬戸内ブランド」というロゴのデザインですけど、これなどはロゴの中に瀬戸内の空とか自然が描かれているようで、見ただけで瀬戸内のイメージが湧いてきますよね。具象に根ざしたロゴというのはまあこう言ったイメージです。
ちなみに瀬戸内ブランドは、わざとヘタウマ(死後?)っぽい素朴なニュアンスで描かれてるんで「デッサン力なくても描けそう」って誤解されそうなんでもうひとつ有名どころを例に出します。誰でも知っているこのロゴなどはどうでしょうか?正確に描かれたデッサンを元にデフォルメを最低限加えてシンプルにしていった経過さえ見えてくるような、名作ロゴデザインです。
難しい絵なんてイラストレーターに描かせりゃいいじゃん、なんて言う人もいるかもしれませんが、ロゴデザインなんて基本的にはデザイナーが全て描きます。ですから最低限の画力、雲を雲のように描く画力は普通に必要となります。
ここで、デッサンとは何か?と考えたことを思い出してみてください。そうです、
具象物を元にロゴデザインを作るということは「目の前にないものを描こうとしている」わけで、
目の前のものを描けない人が目の前にないもの(想像して描くもの)を描けるわけがないんです。
webデザイナーのお仕事の範囲
「でもWebページ自体のレイアウト決めていく作業にはデッサン力なんて必要ないでしょう」と言う意見もあるでしょう。確かにその通りです。
ここで、頂いた質問を振り返りましょう。
そう、そもそも「webデザイン」ってどこからどこまでをカバーする仕事なの?という疑問です。
正直ここまで読んでくださってる中でも「ロゴデザインの例ばかり出すけどそもそもそれってwebデザイナーの仕事じゃないし作らないでいいじゃない」って思ってる方もいると思います。
また、webデザイナーの仕事って「デザインからコーディングまでワンストップで完結できる人なんで「そもそも、デッサン力が必要な場面はありません。」なんて言い切る人もいるかもしれません。
でも、それだと少し寂しくないでしょうかね。正直な話、Webページのレイアウトって、大体「このレイアウトにクオリティの高いメインの画像を当てはめれば出来上がるよ」って言うデザインフォーマットの素材がネットを探せば出てきます。デッサン力がどうのこうの言う前に少なくともレイアウトまではほとんど誰にでも出来るのです。(もちろんwebサイト全体のページ構成とか構造的なデザインの難しさはまた別の話とします)
ビジュアル作りの工程が、本当にこれだけで済むなら、まあデッサン力は必要ありませんよね。でも結局メイン画像なんかは、クライアントの意向を取り入れた独自のビジュアルを作る必要が大抵出てきますし(ビジュアル全体を調整する必要だって出てきますし)クライアントから「会社のロゴデザインもお願いします。」なんてお願いされることもよくあります。
メインビジュアルを作る時にも、ロゴ制作のお話と同じことが言えます。目に見えないビジュアルをどんな形であれ絵にしていく時に、全ての絵の基本のデッサン力ある人とない人では明らかに差が出ます。
このことを、ノンデザイナーの方に論理的に説明するのは、ロゴデザインの時より少し難しいですが試みてみましょう。
メインビジュアルを作る時、文字通り「ビジュアル」と言うように「絵」を作ります。前半で書いた通り「デッサン」は「絵を描くことの土台であり基本」です。ですから、デッサンという作業を通じて、描き手は「余白の見せ方」であったり「全体のレイアウト感」など、知らないうちに訓練しているわけです。
そんなわけでデッサンが上手い人は、デッサンを描いたことがない人に比べ、ビジュアル作りの場数は踏んでいるはずです。
デッサン経験のないwebデザイナーの方は多分、ビジュアル制作(絵を作る作業)作業は気が重いでしょう。絵作りに自信がないからです。はじめの一枚、二枚ははじめての体験として面白がるかもしれませんが、三枚目あたりからもう嫌になると思います。
1人しかwebデザイナーがいない仕事の現場なら(経理の人よりは絵作り出来るでしょうから)続けてビジュアルを作ったり、あるいはロゴデザイン作りの仕事さえくるかもしれません。でもデザイナーが二人いてその人がデッサン経験豊富で上手かったとしたら、ロゴデザインやメインビジュアル制作やら、絵を作るスキルが必要な仕事は全てその人にいってしまいます。
あなたに仕事を回す人が、過去のあなたの経歴(何を学んできて何が出来るか)を知らなかったとしても、やはり絵作りにおいての実力の差はすぐにわかるでしょうから、何回かビジュアル作りの仕事をしたとしても、パタっと仕事が来なくなるでしょう。
もし、既存のレイアウトから選んでデザイン・レイアウトを決め(それをデザインと呼び)画像作成からコーディングまでワンストップで終わらす仕事を「webデザイナー」と呼ぶなら「デッサン」というスキルはwebデザイナーにとって不要のスキルでしょう。しかしぼくはその工程だけしかできない人間をwebデザイナーと呼ぶつもりは全く無いんですね。
質問の答え
冒頭の質問に再度戻ります。
「webデザインをするのにデッサンって必要なんですか?」
答え
追記(デザインの本を出版します!)
次回の記事であらためて書かせていただきますが、デザインについての本を出版しました。「センスがないと思っている人のための読むデザイン」という本です。
内容はここで書かせてもらっているようなことで、デザイナーの人もノンデザイナーの人にもデザインのこと、興味を持っていただきたく頑張って書きました。特にタイトルにある「センスがないと思っている人」とはかつての自分であり、「センスは磨くものだ」と励ましてくれた先輩たちに向けて書いた感もあります。4月末に出版予定です。是非読んでいただけたらとここにこっそり告知します。
最後まで読んでいただき有難うございました。
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