DesignCrossイベントレポート #7 寺内 能之さん『インハウスデザイナーに向いている人、向いていない人』
オイシックス・ラ・大地株式会社でOisixEC事業本部クリエイティブ・マネージャーとして活躍されている寺内さん。今回は「インハウスデザイナーに向いている人、向いていない人」と題してお話を伺いました。自社と密接に関わるインハウスデザイナー、その適性を語りました。
食及び食にまつわる社会課題をビジネスで解決する
寺内能之(以下、寺内):よろしくお願いします。オイシックス・ラ・大地の寺内です。
(会場拍手)
はじめに、僕がお話しすることに「正解」も「絶対」もありません。あくまでも僕の一意見としてお話するので、それを踏まえてお聞きいただけたらと思います。そして、皆さんそれぞれが何かを感じていただいて、いつかお役に立てることがあれば嬉しいです。
寺内 能之
オイシックス・ラ・大地株式会社 / OisixEC事業本部
クリエイティブ・マネージャー
ニューヨークの美大を卒業後、日系の新聞社、Webサービス会社などでWeb/グラフィックデザイナーとして勤務。帰国後、NHN JapanにWebデザインチームのマネージャーとして入社。後にブランドチームのマネージャーに。以降、オイシックス、楽天、FiNC(現FiNC Technologies)、Amazon、C Channelなどでデザイン部門やブランド部門のマネージメントに従事。2019年2月、約6年ぶりにオイシックス・ラ・大地株式会社に出戻り、クリエイティブ・マネージャーを務める。
「Oisix」「らでぃっしゅぼーや」「大地を守る会」の3つのサービスがひとつになってオイシックス・ラ・大地となりました。食及び食にまつわる社会課題をビジネスで解決する会社です。簡単に言うと、安心安全な野菜などをネットで販売しているネット八百屋屋と認識していただけたらと思います。
「これからの食卓、これからの畑」が我々のミッションです。食を作る生産者と皆さんのご家庭の食卓をつないで、より多くの人が幸せな毎日を送ることができる食の未来をつくります。基本的に3ブランドともサブスクリプション型のビジネスモデルを採用しています。定期的に購入していただき、生産者の野菜や果物、加工品をお客さまにお届けしています。
今回お話しするのは、「インハウスデザイナーに向いている人、向いていない人」ということですが、向いていない人というより「こういう感じの人が向いているかな」という話をしたいと思います。ちょっとお聞きしたいのですが、この中でインハウスデザイナーの方はどれくらいいますか?
(会場挙手)
では、インハウスではないデザイナーの方は?
(会場挙手)
少ないですね。デザイナー以外の方は?
(会場挙手)
ありがとうございます。では、インハウスデザイナーになりたいと思っている方はいますか?いないんですね(笑)。それでは、インハウスデザイナーとして意識しなければならないことを隣の人と5分間話し合ってください…と言うとシーンとなりますよね、すみません。
(会場笑)
少しの間でいいので、「インハウスデザイナーってこういうことだよな」というのを頭の中で想像してみてください。先ほどお話した通り、正解も常識もないと思うので皆さんが想像したことは全て正しいことだと思います。
「クオリティ」「スピード」「コスト」を意識する
僕が考えるインハウスデザイナーとして意識しなければいけないことは、「クオリティ」「スピード」「コスト」です。クオリティが高くて、スピードが速くて、コスト削減も考えられるデザイナーが、第一線として活躍しているように感じています。
誰かと戦っているわけではないので、ライバルという表現が正しいとは思いませんが、これまでは、切磋琢磨していた相手は同僚や同業者だったと思います。休んだり、業務が変わったり、部署異動したり…と会社に長くいれば自分の価値が上がるチャンスがありました。ただ、これから戦う相手というのは、AIやテクノロジーです。AIやテクノロジーは部署移動や転職をしないので、ずっと戦わないといけない相手だと思っています。
ネットで見た記事によると2019年現在、デザイナーはAIに代替される可能性は低いと言われています。でも本当にそうでしょうか?僕はそれは疑問に思っています。皆さんはすでに、AIやテクノロジーに触れていると思います。身近な例で言えばカメラアプリ。スマホ1台、指1本で誰でも画像の修正をすることができます。
Adobe SenseiもAIのひとつです。例えばPhotoshopにある「コンテンツに応じて〜」などがそうです。2017年のAdobe MAXに参加した方はご存知かもしれませんが、手描きの構成と素材をひとつにまとめて、10分ほどで3種類のポスターを提案した事例があります。僕は最初見たときにすごい衝撃を受けましたが、こういう時代がやって来ているのです。
時代の流れに左右されずに必要とされ続けるデザイナー
AIやテクノロジーの進化により、デザインはデザイナーだけができる仕事ではなくなりつつあります。企業に必要とされるデザイナーでいられるかは、いかに自分の価値を高められるかだと思います。
AIやテクノロジーに負けないために、デザイナーが置かれた現状に危機感を持つこと。そして、さらに重要だと思うのが「自分で考えること」です。自分で考えてデザイン以外の知識・スキルで自分の価値を高めていく。スピードとクオリティを同時に達成できる力やデザイナーならではのノウハウはもちろんのこと、UI/UXの知識、マーケティングの知識、あとは経営課題解決の提案力などデザインの領域を超えた力や知識も身につけないと、これからの時代は厳しいものになると思っています。当たり前のことですが、当たり前のことを当たり前にできることが重要だと考えています。
相手の目線に立つ「思いやり」
そしてプラスアルファで持っていてほしいもの。これは完全に僕の希望ですが、思いやりです。思いやりを持ってほしいと企画側に対して感じたデザイナーは少なくないと思いますが、僕らも思いやりを持ったほうがいいと思っています。
人それぞれの立場や状況、経緯などがあります。それを踏まえて対応する力や相手目線を持ってデザインすることで、ゆくゆくはお客さま目線に立ってデザインできるようになると思っています。
例えばギリギリになって依頼してくる人っていますよね。すごくイラッとする。ただ、ギリギリになってしまった理由がきっとあるはずです。例えば企画者の上司が、無理強いしてタイトになることもあるでしょう。相手の立場に立って考え対応できる意識を持てればと思います。
転職時のポートフォリオも同じだと思っています。担当者はたくさんのポートフォリオを確認していると思います。その人たちがどういうタイミングで見るのか。たくさんあるポートフォリオの中で自分の作品を目に留めてもらうような作品集をどうやって作るか。と考えるのも練習になると思っています。
まとめになります。ちょっと早すぎですかね。でも皆さん、疲れていますよね(笑)。
インハウスデザイナーに向いている人、向いていない人。結局向いていない人となるとネガティブになるので、向いている人を考えてきました。ざっと僕の話を聞いて、例えば同じテーマを与えられた時に自分だったらどういうプレゼンをするかなど、自発的に考えて吸収しようとする方はこれからのインハウスデザイナーに向いていると思っています。
[ 質疑応答 ]
当事者意識が自分の価値を高める
質問者1 :お話ありがとうございました。いかに自分の価値を高めるかというのが気になりました。自分の価値を高めるために、寺内さんが考える大切なポイントなどがあれば教えていただきたいです。
寺内 :僕は何でも興味を持って追求しているところがあります。例えば世の中にデザインされていないものは多分なくて、身の回りにあるどんなものでもデザイナーがいると思うんですね。その時に自分だったらどうするかと考える。例えば電車の広告を見て「自分がこの広告を作るとしたらどんなデザインにするか」と日々考えています。そうすることで、いろいろな知識を吸収して自分のデザインの引き出しを増やすことにつながっていると思っています。
企業のインハウスデザイナーとしては、いかに企業の理解をするか。自分が担当しているサービスをどれだけわかっているか。サービスを使ってくださっているお客さまを理解するか。自分も企画者と同じくらいに考えることが、社内で自分の価値を高めることだと考えています。
質問者2:貴重なお話ありがとうございました。スライドにもありましたが、デザイナーがイラストを描いたりアニメーションができることのほかに、ビジネスサイドやテクノロジーの部分も考えていくことは僕も大切だと思っています。オイシックスさんの中にはそういったデザイナーさんはいらっしゃるのでしょうか?
寺内:デザイナーだけではないのですが、課題を解決するためのロジカルシンキングを全社員が行える体制をとっています。また今年からアートディレクター制を取り入れようとしています。世界観を統一したり創出したりする従来のADの仕事のほかに、課題を抽出して解決するための提案ができる人を選んでいます。まだまだですが、これからそういう人たちがいろいろな知識を吸収してオイシックス・ラ・大地を高めていくと思っています。
司会者:オイシックス・ラ・大地の寺内さんでした。ありがとうございました。
(会場拍手)
Writer : Ryuto Shiraishi(@shirara1234)
Photo : YASUHARU HOSHINO(@Yasuharu_)