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【イベントレポート】プロダクト開発のデザインプロセス -前編-

前編は、KRAFTS&Co.倉光美和氏と、Uzabase CDO/プロダクトデザイナー平野友規によるLTセッションをお送りします。

DESIGN BASEのメンバーが出演し、過去から現在の取り組み、未来への展望など、現場のリアルを語るトークイベント「DESIGN WAVE Vol.4」。
 
本イベントでは、Uzabase CDO/プロダクトデザイナー平野友規とNewsPicksのプロダクトデザイナー鳥居大が、前職クックパッドにて組織横断でデザイン戦略を推進していたKRAFTS&Co.倉光美和氏をお迎えし、「現場目線」でのリアルなデザインプロセスの力とその実践知を探ります。

Speaker


「しくみで考え、しくみで動かす」

旗を立てるために、
再現性の低いことに再現手順を与える

倉光:本日は、私の大好きな「仕組み」の話をします。国語辞典を引くと、仕組みとは「機械や組織などの全体を成している各部分の組み合わせ、構造のことを指す」と描かれています。
 
プロダクトのデザインには、さまざまなデザインの行為があります。たとえば、UIデザインであれば、ユーザーが機械を操作するための仕組みの設計。デザインチームのような組織を作る場合には、製品を開発する集団の活動の仕組みの設計。デザインマネジメントとなると、デザインの問題を定義して解決する仕組みの設計などです。
 
プロダクトデザインをするとき、組織デザインにも踏み込むことがあります。プロダクトデザインも組織デザインも、すべてが仕組み作りです。みなさん『ピタゴラスイッチ』はご存知ですよね。いろんな仕組みが動いて、最後に旗が立つあの瞬間。それが見たくてせっせと仕組みを組み立てています。
 
旗が立つとは、ユーザー、事業会社、社会、自分、みんなにとって「やったー」と思える瞬間を言います。そこまでの道のりを、いろんな仕組みで舗装していきます。具体的には、再現性の低いことに再現手順を与えることが仕組み化だと思っています。

アイデアの有効性を早期に検証する
「ユーザーストーリーシート」

たとえば、 アイデアの有効性を早期に検証する仕組み。これは私が考案したユーザーストーリーシートです。デザイナーが「これを作りたい」とアイデアだけ先に思いついたときに、デザインするときの思考の補助輪としてユーザーストーリーシートを書きます。

このユーザーストーリーシートの仕組みはまず、5行の文章を好きなところから穴埋めしていきます。穴埋めしたあとで、自分で声を出して先頭から読み上げていきます。読んでみて、文章に違和感があれば調整します。
 たとえば、ユーザーストーリーシートというアイデアを思いついたら、ユーザーストーリーシートを次のように埋めていきます。

この仕組みの一番のポイントは、習慣として取り入れやすい点です。テキストしか利用しないため特別なツールは不要、チームメンバーにアイデアの狙いを文章で簡潔に伝えられます。マーケティングの施策にも、社内のオペレーションの仕組みにも使えます。
 

表現したい情報に集中できる「わぶんスライド」

2つ目が、表現したい情報に集中できる仕組みです。これはわぶんスライドといって、日本語で「いい感じ」に見えるFigmaのスライドテンプレート集です。

わぶんスライドは、基本のレイアウトをあらかじめ作ってあります。1920×1080pxの16:9の6カラムで、基本レイアウトの6パターンを用意。それぞれのパターンに対して、画像のあり/なしを選択できます。

ほんの少しの準備で、デザイナーではない人でもすぐに利用が開始できます。そして一番のポイントは、レイアウトが崩れにくい点。各要素をAutoLayoutで配置しているので不要な要素を非表示にするだけでレイアウトが自動で補正されます。
 
基本操作はFigma Communityに公開しているデータをダウンロードして、Noto Fontsを自分のPCにインストール。スライドのタイプや画像のありなしはプロパティで切り替えます。画像を差し替えたいときは、画像をFigmaにドラッグするだけです。
 
この仕組みのポイントは、情報のデザインに集中できることです。都度、スライドテンプレート作りに煩わされることがありません。Figmaは色や設定といった情報のoverrideがしやすく、途中でページの継ぎ足しをしても、左上のアートボードから順番にスライドショーを自動で生成してくれます。

クラウド上にあるのでチームメンバーからレビューがもらいやすく、デザインチームの資産になるのもいいところです。


仕組み化で生まれた時間で
「自分しかできないもの」を作る、試す

うまくいった仕組みばかりでなく、組織にうまくはまらず消えていった仕組みもたくさんあります。ですが、良いしくみには共通点があるように思います。
1つは、口コミでユーザー自身が広めてくれる。もう1つが、設計者が気にかけずとも、ほぼメンテナンスが必要ない状態でよく稼動してくれる。そして、次第にコミュニティや組織のカルチャーになっていくことが多いです。
 
こうして仕組み化を進めたら、仕組み化によって生まれた時間で、自分しかできない再現性のないものを作ること、試すことが大切だと考えています。
 
平野:ユーザーストーリーシートは倉光さんオリジナルだったんですね。この仕組みを生みださなければならなかった当時の背景や状況について聞かせてください。
 
倉光:ふだんの施策の中でできるコンパクトなものを作りたいと考えたんです。ユーザーストーリーシートにはベースとなるフレームワークが3つあります。クックパッドで使われていたフレームワークである「価値仮説」と「EOGS」、もう一つが日本人間工学会アーゴデザイン部会の「構造化シナリオ法」です。
 
それぞれのフレームワークの良いところを活かしつつ、とにかくふだんの施策の中で使えるものが作りたくて、ユーザーストーリーシートを生みだしました。
 
鳥居:うまくいかなかった仕組みにはどんなものがありましたか?
 
倉光:デザイン戦略に関する全社の意見を集めようと、目安箱のような取り組みをしたことがありました。

これは自分の中でユーザーストーリーシートをうまく描ききれないままスタートしてしまいました。集まった意見を何に活かすんだっけ?という状態になってしまって、組織に定着させようと奮闘してくれている部下にも申し訳なくなり、部長だった自分の判断でしくみを終わらせました。

平野:倉光さん、ありがとうございました。 

「UXの神」との対話

鳥居:次は平野さんから「UXの神との対話」というテーマでお話いただきます。

初めて出会った「UXの神」は「ビジョナリー」だった

平野:本日の私のテーマは「『UXの神』との対話」です。

私がUXの神と初めて出会ったのは、株式会社DSCL(旧トライアント)にいた頃でした。全天球カメラのRICOH THETA(リコー シータ)のプロダクト開発でアプリ側のお手伝いをさせていただいたのですが、このとき事業責任者だった生方さんが初めて出会ったUXの神でした。

これは当時のオフィスで撮った全天球写真です。当時私は全天球写真を見たこともなければ、そもそも写真は四角形に切り取られたものだと思っていました。
 
生方さんは非常にビジョナリーなプロダクトオーナーで、こんな世界が必ず来ると言い切っていました。当時はVRやARといった映像体験は認知されていない時代。そんなときに私たちは、ビジョナリーなユーザー体験を生みだそうとしていたのです。デザイナーはとにかく愚直にビジョンを描き続けました。
 
このRICOH THETAのプロダクト開発を通して生方さんから学んだのは、「1番現場に対して向き合っている人の意見を大切にする」ことでした。これが私の原点です。


これはSPEEDAの新機能をリリースしたときのニュースリリースなのですが、「新セグメント比較機能」「KPI比較機能」などよくわからない言葉が並んでいます。これらを見ただけでは、ユーザーが事業領域で何を欲しているのか、本当の意味ではわかりません。
 
当然、リサーチやヒアリング、元ユーザーの方へのインタビューを通して解像度を高めていくのですが、ユーザー体験に確信を持てません。そこで、「いちばん現場に向き合っている人の意見を大切にする」という原点に戻ります。


SPEEDAの開発組織は、この絵のようになっています。この煙はプロダクトオーナー。祈祷師が神を呼ぶようなポーズをしているのがプロダクトマネージャー。それを聞いているのがプロダクトデザイナー、カスタマーサクセス、エンジニアです。
 
Co-CEOでSPEEDA事業責任者の佐久間さんがUXの神だとすると、プロジェクトマネージャーの西川さんが神のお告げを言語化する人。そして私は、言語を造形に変えるプロダクトデザイナーです。

UXの神である佐久間さんはSaaSのプロダクトに詳しく、海外サービスのM&A情報にも精通しています。UIへの造形も深く、誰よりもSPEEDAのリソースを想像している人です。非常にビジョナリーで、自分でアジャイル経営レポートを執筆するほどの実務家でもあります。
 
UXの神は、決してUXのアカデミックな知識に詳しいという意味ではありません。特定のプロダクトのユーザー体験について、1番ビジョンを持っている。これが神の定義です。
 
先ほどの絵でいうと、佐久間さんは煙の部分です。神のビジョンを理解するのは非常に難しいのですが、私たちはひたすら神のビジョンを信じて言語を造形に変えていきます。それが私たちプロダクトデザイナーの役割なのです。


神との対話を実際にどうやっているのか。ツールはslackとギャザーを用いています。このカレンダーの青色が佐久間さんとの対話の場ですね。週2回各30分。この30分をみんなで奪い合います。

神との対話はzoomで行われます。私の場合、神の言うビジョンがよくわからないときはiPadを画面共有して、その場でスケッチを描いたり、アノテーションを書いたりしながら対話を楽しんでいます。

神のビジョンを地上に降ろすのが
地上で暮らすデザイナーの役割

 
最後に、神との対話とは何なのか。形而上・形而下という哲学の言葉があります。形而上は、感性を介した経験によって「認識できない」もの。つまり、超自然的なものです。一方の形而下は、感性を介した経験によって「認識できる」もの。形而上はカタチが「ない」もので、形而下はカタチが「ある」ものです。


 上は想像世界、下は現実世界。天界と地上ですね。神はビジョナリーで天界のほうに立脚しているので、ビジョンを地上に降ろしてくる。ビジョンが形而下に降りてきたときに、地上で暮らすデザイナーがそれを具体化して描くことで天界の理解がスタートし、対話が可能になります。

デザイナーにとって「描き続けること」が神との唯一の対話の手段なのです。
 
倉光:平野さんなどリーダー陣は神の煙を浴びやすい位置にいると思うのですが、ほかのメンバーも佐久間さんとのフィードバック会の場でプレゼンすることはあるのでしょうか。
 
平野:フィードバック会にはエンジニアもいればセールスもいます。基本的には任意参加ですが、デザイナーは全員参加しています。中にはコミュニケーションやプレゼンが苦手なデザイナーさんもいますが、私が知らない機能を担当していることがあるので、積極的に話してもらうようにしています。

前編はここまでです!
中編では、株式会社ニューズピックスのPdM鳥居大氏から
「アンラーンし続けるデザインプロセス」のレポートをお届けします。


ご出演いただいた、KRAFTS&Co.倉光美和さんのnoteはこちらです。


ユーザベースのUIデザインに少し興味が湧いた!という方はぜひサイトをご覧ください。