小さなデザイン会社のハイブリッドワーク、またはオフィス移転のお知らせ
2021年11月、ACTANTは渋谷区神山町にオフィスを移転しました。リモートワークによる業務体制を継続しているため、常駐はしておりませんが、新たな拠点で皆さまをお迎えできることを、一同楽しみにしております。
<移転先>
住所:150-0047 東京都渋谷区神山町5-20 ZINE YOYOGI-KOEN 2C
TEL:050-3717-9515
というオフィス移転のお知らせとともに、ACTANTの考えているこれからの働き方を少しだけ紹介します。小さなデザイン会社がどういう戦略をとっていくべきか、小さいからこそ先に変えやすいこともたくさんあるはず。こういったことは、あまり共有する機会もなさそうなので、少しでも参考になればうれしいです。
なぜ移転するのか
2021年末現在、日本ではコロナの感染者数は一旦減少していますが、ヨーロッパでは再び感染者数が増加し、ピークを迎えている国もあるようです。まだまだこれからの状況がどうなるか予測することは難しく、社会が安定したとは言いがたい状況です。
コロナ対応の業務体制での1年半が過ぎ、これからの働き方をメンバー間で話し合った結果、在宅勤務を主にしたハイブリッドワークを継続することとして、ほとんど使うことのないオフィスの規模を一旦縮小することにしました。予測できないリスクに柔軟に対応するためにも、なるべく身軽になっておこうというのが一義的な理由です。
また、コロナの今後の状況ももちろん重要ですが、それとは別に、このスタイルがデザイン会社の働き方として十分機能し、かつメンバーみんなにとっても快適な方法だということもわかってきました。
そもそも、働きやすさの定義というのは、個々人の家族構成や年齢、居住場所によって違います。例えば、子育ての比重が高い四人家族と、DINKSや一人暮らしにとっての理想とする働き方は、それぞれ全く異なるでしょう。保育園の送り迎えをしやすい職住近接も、オフィスで他のメンバーとコミュニケーションをとって気分転換をすることも、どちらも正解です。個々人の身体の差異も大きく関係していると思います。夜型の生活が向いている人、朝方の生活が向いている人にとって生産性や創造性の高い働き方は全く異なるはずです。
ウェブサイトでも述べていますが、ACTANTでは、すべてのメンバーが、自身の能力や創造性を最大限に発揮していけるよう、柔軟でフラットな組織・環境づくりを目指しています。オフィスの使い方に関しても、よくよく考えれば当然導入すべきだったことが、ハイブリッドワークのおかげで実現できている。このメリットは継続して享受していきたいと考えます。
さらに言えば、最近ではオフィス利用の環境負荷に関して、ニュースで取り沙汰されることが多くなっています。オフィスの維持や通勤にかかる炭素排出量。ACTANTの小さなオフィスをさらに小さくしたところで、そうインパクトがあるとは思えませんが、長期的にはそういったことも配慮していきたいと考えています。
クラブハウス型というハイブリッドワーク
先日、とあるプロジェクトで、ポストコロナの働き方に関するリサーチを行ないました。世界中のトレンドを漁っていると、完全リモート派とフルタイム通勤に戻ろう派を極端な2極として、その間のバランスをどうとるか(どうハイブリッドにするか)という議論が盛んなようです。Hassellというオーストラリアの設計事務所が、わかりやすい5つのモデルをレポートしていたので紹介します。
5つ挙げられているモデルのうち、一番上の「As it was」は、コロナ前に戻ろう保守派モデル。一番下は「No office」、フルリモート急進派です。
真ん中の3つは、上から順に、
Turbocharged ABW
固定デスクを減らし、目的に合わせたオフィススペース利用をこれまで以上に促進しようぜモデル。
Clubhouse
集中的な個人ワークは自宅やカフェで行ない、オフィスでは部室のように皆でのコラボレーションしようモデル。
Hub and spoke
セントラルオフィスが都心にあり、サテライトオフィスが住宅近くにいくつかあるから通勤しなくていいよモデル。
それぞれのハイブリッドバランスがうまくまとまっていて面白いモデル化です。なかでもACTANTの働き方に最も近いものは、3つ目のClubhouseモデルです。
こちらがClubhouseモデルの詳細。
写真ではソファが置かれていて、みんなリラックスしています。対面で会うときはコラボレーションやコネクション、ソーシャライズの機会を最大化しましょう、個人で集中して生産性を高めるときは自宅や近所のカフェ等、他のスペースを活用してください、という感じです。日本で例えるなら部室のようなものでしょうか。部室に帰ってきてトレーニングを開始するラガーマンはいないはず(体育会系ではないので真偽の程はわからない)。あるいは、家で知識を得て学校では議論やワークショップを重視する反転授業の発想に近いと思います。
Hassell社が5つのモデルに関してグローバルに2300人にリサーチを行なったところ、Turbocharged ABWかこのClubhouseモデルが一番の人気だったそう。社内メンバーとはリアルにコミュニケーションを取りたいけれど、目的に応じて働く場所を選ぶ自由は維持したいということですね。
新しいオフィスでの働き方
Turbocharged ABWモデルは、オフィスの利用頻度が激減したこの1年半を振り返ると、あまりACTANTにとって現実味のあるモデルではなさそうです。またメンバーはみんな都心近郊に住んでいるので、Hub & spoke機能が必要であれば近所のカフェで済んでしまいます。そのようなわけで、ACTANTでは、自由度が高く、現状にもっとも適したクラブハウス型のハイブリッドワークを推進していくことが良いのではないかと思っています。
集中的に生産性を上げる個人プレーはそれぞれ好きな場所でやっていただき(もちろんオフィスでやっても良いですが)、オフィスは部室のように使ってみんなで楽しく交流しようぜ、というのが弊社のカルチャーとしても向いている気がします。
自宅が狭い場合は頻繁にオフィスに通うもよし、フルリモートワークを選択する週があってもよし。また、定性調査、定量調査、ワークショップファシリテーション、ビジュアルコミュニケーションデザインといった多岐にわたる作業に関しても、どこで何をするかは内容次第で決めれば良い。それぞれのライフスタイルやその時の気分によって、それぞれが責任を持って働き方をマネジメントする、それが基本的なルールです。
●居心地の良いエリアに移転
移転先は奥渋を選びました。渋谷と代々木公園の間ぐらい。駅からは遠いですが、渋谷の喧騒から離れた居心地の良いエリアです。ビストロやカフェ、本屋や植栽屋さんがたくさんあって、クラブハウス的コミュニケーションには困らない。オフィス規模を縮小する代わりに、活用できる周辺のリソースを重視しました。打ち合わせをしたあと一杯だけクラフトビールを飲んで帰ろうというときも、作業の合間にコーヒーを飲んで休憩しようというときも、みんなで美味しい料理を食べようというときも、徒歩10分で選択肢は山程あります。代々木公園には体育館もあって、気分転換やエクササイズのときにも困りません。
●オフィス
サービスオフィスやシェアオフィスではないですが、共有スペースが広く取られている不思議な物件を借りることにしました。共有部には自由に使えるソファやテーブルが置いてあるので、出勤する人数や気分に合わせてフレキシブルに居場所を変えたり、面白い使い方ができそうです。ビルの横にはLUUPのスペースが設置されるようなので、少し遠い駅からのアクセスも容易になりそうです。
部屋に置くものは最小限にして、目的に応じた可変性を高めています。置いてあるのは、3人ぐらいが使えるワークデスク、モニター、プリンター、作業台、3Dプリンター。加えて紙見本や本といった具体的な作業に必要となる資料が少し。現状想定されている活用方法としては、デザインの原寸でのチェックやモックアップづくり、打ち合わせの合間のワークスペース、10人未満のワークショップ実施、というあたりでしょうか。
月一回やっているゼミに関しては、なるべくオフィスに集まって開催しようと話しています。メンバーそれぞれの知見共有や面白そうなメソッドを試す等、通常業務とは直接関係しないナレッジを深める機会です。ahiru storeやsajiyaなど久しぶりに行きたいお店が近所にたくさんあるので、ナレッジというよりもアルコールの比重が多くなっていくような予感がしています。
●バックオフィス
偶然、代表である私南部とオフィスマネージャーが世田谷の近所に住んでいることもあって、お互いが行きやすいところにレンタルスペースを借り、そこに事務機能をもたせています。あまり読まない本や細々した道具類もここに収納することにしました。まだまだしぶとく生き残っている判子カルチャーに対応するときは、わざわざ都心に向かわずに自宅近所で押す。とても楽になりました。
また、メンバーそれぞれの自宅住所を出力したラベルと封筒を用意しておいて、郵便物や色校正など、リアルなモノを共有する必要があるときはすぐに郵送できるよう郵送キットを配っています。
おわりに
ほとんどの作業はリモートで困らないと書きましたが、手を動かして何かをつくる作業はオフィスで進めたほうが学びや気づきが大きいと考えています。パソコンを使えども、基本的には身体に基づいた職人作業です。とくにジュニアデザイナーにとっては、やはり隣で働きながら作業を進めることで成長のスピードが圧倒的に早くなるのではないかと考えています。新人入社のタイミングも重なったので、これからはオフィスを前より活用していきたいところです。
(南部隆一)