ChatGPTでシステミックデザインをやってみる
『システミックデザインの実践』には30個のマッピングツールが掲載されていますが、「本を参考にしながら実際に使ってみたけれど、どのように記入していけばいいのか分からない」という声を耳にします。解説を読めばツールキットの使い方を知ることはできるのですが、シデクラブのプロジェクトでも、白紙のツールキットに1枚目の付箋を書き入れようとすると手が止まってしまうことがあります。
そこで、この問題の助けとなりそうな「Systemic sense-making with generative Ai」というFrederik Vincx氏による記事を参考に、『システミックデザインの実践』にも掲載されている「アクターズマップ」の作成にChatGPTを活用する方法を試してみることにしました。
ちなみに、「アクターズマップ」とは、システムの参加者(組織、個人、人間のエージェントと人間以外のエージェント)を特定し、表すためのツールであり、プロジェクトのはじめに、ケーススタディや実地調査の対象として観察ないしインタビューを行う必要のあるシステムの参加者を特定し、選別するために使うマップである、と『システミックデザインの実践』で説明されています。
アクターズマップ作成のためのChatGPTプロンプト
参考記事では、ベルギー赤十字社のプロジェクトを例に、ChatGPTからアクターズマップに必要なアクターにまつわる情報を得るためのプロンプトが紹介されています。以下が日本語に翻訳したプロンプトで、自分のプロジェクトに当てはめる場合は、太字部分を置き換えてChatGPTに入力していきます。その後の質問にも影響するため、ここでプロジェクトの定義や内容をできるだけ正確にChatGPTに共有しましょう。
プロンプト1:ChatGPTに何を知るべきかを尋ねる
プロンプト2:アクターを発見する
プロンプト3:ChatGPTを押し進める
プロンプト4:アクターズマップをつくる
プロンプト5:関係性とダイナミクスを探索する
シデクラブで試してみた使い方
シデクラブでは、「生態系」をテーマとした進行中のプロジェクトを題材に上記のプロンプトを当てはめてみました。その際、記事にはない準備のポイントやマッピング方法を試してみたので、以下にご紹介します。
1)プロジェクト情報の整理
プロンプト1を入力した後に、ChatGPTからいくつかの質問項目が返ってきますが、その場で一から回答内容をまとめようとすると、思った以上に時間がかかってしまいます。入力内容によって揺れはありますが、おおよそ以下のような質問が想定されるので、対話をスムーズに進める準備として、これらに沿ってプロジェクトのリサーチ結果を事前に整理しておくことをお勧めします。
ただし、今回のテストでは、具体的な情報をChatGPTに与えたとしても一般的なアクターしか出ず、固有名詞を含むようなアクターは出力されない傾向にありました。そのため、ChatGPTに一般的なアクターを出力してもらった後は、当事者としてのインサイトを踏まえて追加していく必要があります。
2)Kumuを使ったマッピング
参考にした記事では、ChatGPTから出力されたデータをmiroに手入力してアクターズマップを作成していますが、前回の記事で紹介したように、KumuにはExcelやGoogleスプレッドシートなどの表形式でデータ入力をすれば、自動でマッピングをしてくれる機能があります。そこで、今回はChatGPTとの対話を利用して、Kumuに取り込む方法を試しました。
① ChatGPTでアクターを表にする
プロンプト5(または4)までの対話が終わったら、ChatGPTに「今まで出てきたアクターをすべて表にまとめてください」などのプロンプトを入力します。すると、これまで文章や箇条書きで出力していたアクターの情報を表形式に整理してくれます。
② Excelでシートの構成を整える
次に、ExcelシートをKumuが読み込める形式に揃えます。シート名を「elements」として、A1セルに「Label」と記入することが必須です。この1列目にアクターの名前が並ぶよう、ChatGPTで出力された表をペーストします。なお、1行目(B1以降)には「Type」「Desccription」「Tags」などの項目を設定することもできます。ちなみに、Kumuのマッピングに必要ないシートには「(ignore)」とつけておけば、インポート時に無視してくれます。
③ Kumuにインポートする
Kumuのマップ画面にドラッグ&ドロップをするだけで、Excelシートのインポートが完了します。ワークシートの背景画像を読み込んでおけば、データを取り込んだ後、それぞれのアクターの位置を調整することができます。
Kumuを使うメリットは、複数のアクターを瞬時にマップ上に並べられることです。これにより、アクターズマップの完成形のイメージを参加者同士で素早く共有することができます。一方で、Kumuは複数人が同時に操作することができないので、ディスカッションの内容をリアルタイムで反映させるには向いていないようでした。
こうした点を踏まえると、ブレインストーミング・ディスカッションの段階ではmiroを使い、ディスカッションを終えた後にマッピング結果を清書する時にKumuを利用するなどと使い分けるのが良さそうです。
プロジェクトに活用するときは
参照記事では、ステークホルダーを交えた実際のワークショップで一からアクターを洗い出す時間を効率化するために、このようにChatGPTを利用して事前にたたき台を作成しておくことが有効だとされています。その主旨の通り、ChatGPTを使ったからといって、初めから完全なアクターズマップが出力されるものではありませんが、うまく使いこなすことで実際のプロジェクトにおいてもAIの有用性を引き出していくことができそうです。最後に、今回の実験を通して見えてきた、アクターズマップの作成にChatGPTを使う時のコツをあらためて整理してみます。
ChatGPTに視点を与える
「アクターは何だろうか?」という漠然としたオープンクエスチョンは、人間にとっては答えにくいものでも、ChatGPTは即座にいくつもの候補を提案することができます。ただし、出力できる文字数に制限があることなどからアクターに偏りがある場合があります。そのため、今回の生態系に関するプロジェクトなら、「微生物などのアクターは考えられる?」などと、不足している視点を補う追加の質問をして、多様な視点が網羅できるように後押ししてみると良さそうです。
インサイトを反映させる
ChatGPTにアクターを出力させた後は、参加者がフィールドワークで得たインサイトも反映させていきます。前述のようにChatGPTからは抽象的なアクターしか出力されないことが多いですが、候補が挙がっている状態がつくられることで、「このアクターは関係なさそう」「こんなアクターも関係するのでは?」といった議論が生まれやすくなります。人間のアイデアにコメントするのは躊躇してしまうかもしれませんが、ChatGPTのアイデアには忌憚なく意見しやすく、ディスカッションが活発になりやすいのかもしれません。
ファクトチェックを忘れずに
当然のことながら、ChatGPTから出力されるアイデアは必ずしも正しいとは限りません。あくまでもアイデア創出のきっかけとして参考にする程度にとどめておき、一次資料や専門家に当たって情報の正確さを後でチェックする必要があります。
この問題を解消するために、ChatGPTに具体的なソースを参照させるという方法があります。たとえば、「Exploring how to avoid climate disaster with Kumu and ChatGPT」という記事では、ビル・ゲイツの著書『How to Avoid a Climate Disaster(地球の未来のため僕が決断したこと)』の内容をChatGPTが理解していることをあらかじめ確認し、この本に掲載されている発電方法ごとの二酸化炭素排出量のデータを引用しています。
以上、今回はアクターズマップの作成にChatGPTやKumuなどを活用する方法をご紹介しました。実際のシステミックデザインのプロジェクトにデジタルツールを取り入れてみたことで、新たな視点を見つけたり、プロセスの一部を自動化できる有用性を実感することができました。今後も、シデクラブの活動を通じて得られた学びをnoteで共有していきたいと思います。次回もどうぞお楽しみに。
■ シデクラブ
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