前編|地球と共生する、これからのサステナブルビジネスデザイン:FOOD SHIFT
SDGsや脱炭素社会の実現に向けた動きが世界中で加速する中、ビジネス領域では、長期的な事業成長と環境や社会の持続性を両立させる指針として「ESG(E:環境、S:社会、G:企業統治)」という考え方が注目を集めています。様々な要素が複雑に絡みあう今日の社会状況において、自然や社会、個人が共存するサステナブルなサービスを生み出すためにはどうすれば良いでしょうか?
ACTANTでは、去る2022年2月、食領域のビジネスにサステナブルな変革を起こすための参加型プログラム「FOOD SHIFT」を開催しました。弊社・伊藤忠インタラクティブ・日本総研の3社で共催した本プログラムは、食品廃棄問題や第一次産業の持続可能性といった複雑な課題を抱える日本の食領域において、よりサステナブルなフードビジネスのあり方を模索し、企業の「ESG」への取り組みを推進しようとするものです。
全4日間のプログラムの中心となるワークショップのテーマは「サステナブルなフードシステムにシフトするための新しいカレーレストランをつくる」。食品・飲料メーカーなど参加企業の方々がそれぞれの食品系の知識を活かしながら、共通のイメージを持ちやすい題材を取り上げました。
今回の前編では、一連のワークショップで体験いただいたデザインメソッド「SiD」の特徴と、DAY1のワークのプロセスをレポートしたいと思います。
SiD—複雑な環境課題をシステム思考でひもとくデザインメソッド
FOOD SHIFTでは「SiD - Symbiosis in Development」のプロセスを食品業界向けにカスタマイズした、入門版ともいえるデザインメソッドを使用しています。
「SiD」は、オランダのコンサルティング企業 Except Integrated Sustainability が、複雑性の高い環境課題に対処するために開発したデザイン手法です。「共生(シンバイオシス)」というフレームワークと、互いに影響し合う要素や構造をシステムと捉えて理解し課題解決を目指す「システミックデザイン」にもとづき、あらゆるデータをマッピングしていくことで、持続可能性を重視した事業戦略創出の足がかりをつくることができます。
対象とする問題が非常に複雑で、単純な因果関係にもとづいて解決することが困難な社会課題を「厄介な問題(Wicked problem)」といいます。そのような問題に対するアプローチとして、昨今「システミックデザイン」という潮流が生まれはじめています。代表的なところではイギリスのデザインカウンシルが発表した「Beyond Net Zero」が挙げられます。
「SiD」は、サステナビリティの課題に特化したシステミックデザインといっていいでしょう。重要視されるのは関係全体をシステムとして捉えながら、社会や事業のしくみのトランジションを起こしていくためのプロセスです。
本プログラムは、Except Integrated Sustainability、ニューロマジック アムステルダム両社の協力のもと、メソッドの習得からビジネスアイデアの創発まで、SiDの手法を簡単に体験できる設計となっています。
DAY1:Tom Bosschaert氏 レクチャー「システミックデザインについて」
DAY1の前半は、SiDの開発者であるTom Bosschaert氏(Except Integrated Sustainability 創立者)によるレクチャーです。これからのワークに向けたイントロダクションとして、まず「システミックデザイン」とは何か、SiDメソッド開発の経緯、そしてExcept社におけるサステナブルなビジネス事例などを紹介いただきました。
サステナブルな変化を起こすためには、様々な要素やステークホルダーの複雑な絡み合いをシステム全体で検討することがいかに重要か、第一線で活躍するTom氏からのレクチャーを通じて、実例も踏まえながら理解を深めることができました。
ワークショップ①ELSI分析
続くワークショップでは、まずSiDの手法から「ELSI分析」を行いました。「ELSI」とは、「Energy&Materials」「Life」「Society」「Individual」の頭文字をとった呼称です。この4つの観点から、それぞれのサブカテゴリーに関連するモノ・コトを書き出していくことで、変化の出発点となる現状のシステムの構成要素を、オブジェクトレベルで把握することができます。
今回は「カレーレストラン」のテーマに沿って、思い浮かぶ要素をできるだけたくさん書き出していきました。カテゴリーごとに洗い出してみると、自ずと普段意識していない要素にも想像を拡げることができます。以下は、出てきた要素の一例です。
E Energy : 電気・ガス・冷凍庫… Materials : 水・小麦粉・肥料…
L Ecosystems : 山・川・海・畜産… Species : 微生物・牛・豚・鶏…
S Culture : 食文化・ご当地カレー・インド系… Health : 化学調味料・スパイスで健康・野菜が摂れる…
I Health : 化学調味料・スパイスで健康・野菜が摂れる… Happiness : 美味しい・手軽…
ワークショップ②ゴール設定
次に、メインのゴール「サステナブルなカレーレストラン」を達成するためのサブゴールを、ELSI分析の結果(スキャン)をもとに書き出します。スキャンを参照することで、システムを構成する様々な要素に対してゴールを検討したり、自分たちの取組みの位置付けを確認したりすることができます。
まず個人ワークで検討し、その後チームで共有して話し合いながら、プロジェクトで達成したいサブゴールをひとつに絞ります。あるチームでは「地産地消」「食育(人の健康も地球の健康も学べる場づくり)」「サプライチェーンでの食品ロスを減らす」といったゴール案が出てきました。
ワークショップ③システムマッピング
サブゴールが決まったら、「システムマッピング」のワークに入ります。「システムマッピング」とは、対象者・事業を取り巻く環境や構成要素、その関係性などを理解するために、それらを洗い出してマップに可視化する作業のことです。
初めに、各チームで決めたサブゴールと、「サステナブルなフードシステムにシフトするための新しいカレーレストランをつくる」というテーマを達成するために必要なデータや情報などの「知りたいこと」を把握します。
例えば先のチームでは「食品ロス量のデータ」「地球環境を意識した学びの場づくりの選考事例」「流通におけるCO2排出量」などが知りたいこととして出てきました。
次に、「知りたいこと」をさらに具体化するために「Map of Maps(マップのマップ)」というフレームワークを使用します。
知りたいことを「TIME」「SPACE」「CONTEXT」の3つの種類と、「SMALL・MEDIUM・LARGE」の3つのスケールに細分化し、どういったことが明らかになりそうかを考えます。「食品ロスがどのくらいあるか」を例にすると、TIMEマップでは、以下のような分け方ができます。
SMALL:1日あたりの食品ロス量
MEDIUM:1週間あたりの食品ロス量
LARGE:1か月あたりの食品ロス量
もし、1日の中で昼にカレーの食品ロス量が多くなっていた場合、ランチタイムにはロスが多くなる何らかの原因がある(昼休憩の間で食べきれない等)と考えることができます。
Map of Maps の中からより詳しく描いてみたいマップを選択し、実際にシステムマップを描いてみます。
下の図は「カレーレストランのサプライチェーンにおける廃棄物」を表そうとしているCONTEXT マップをラフに描いたものです。このように、ラフにシステムマッピングを行うことでも、カレーレストランのサプライチェーンにおいてどんな関係者がや要素があるか、廃棄が起こるフェーズがどこかを可視化して理解することができます。
DAY1では、以上の「ELSI分析・ゴール設定・システムマッピング」を行いました。ELSI分析によりカレーレストランにおける様々な要素を把握し、ゴールを決めてラフにマッピングすることで、ひとつの要素ではなく、システムを変えようと意識することができたと思います。
次回、後編のnoteでは、DAY2〜DAY4についてご紹介いたします。
ワークシートのダウンロード
今回ご紹介した前半のワークで使用するシートを、以下より無料でダウンロードいただけます。ぜひトライしてみてください!