JIS2004だと何か得? 高機能?
フォントざっくり解説⑮
フォントに興味はあるけれど細かい事が不安で何となく購入に至ってない方、仕事で入手する必要ができてしまったけどイマイチ選び方に自信がない方のための、ざっくり解説。
厳密すぎる説明で途方に暮れてしまわないよう、選ぶ・買うのに必要な知識を、ほどほどに端折りながら解説します。
※2018年7月時点の情報です。
JIS2004という言葉を耳にしたことがある方も多いかもしれません。特にWindows Vistaが登場した際は「システムフォントがJIS2004になった」ことが話題になりました。
このページでは、一般ユーザーにとって「JIS2004になった」事が何を意味しているのか、商品選びの時にどう気をつけたらいいのかを解説します。
単なるデザイン変更、とはいえ結構な大問題
フォントの話題でたびたび登場するJIS2004。正式には JIS X 0213:2004といい、「JIS X 0213という規格の2004年版」といった意味になります。
ざっくり言うと、この規格が登場する以前のものが「JIS90」。それに対し、新しくできたこの規格を「JIS2004」と呼んでいると思ってください。
フォントやプログラムの開発者でない一般ユーザーにとって、JIS90からJIS2004への変化は、
大量にある漢字のうち168字について、例示字形 (つまり「この漢字は例えばこういうカタチですよ」というお手本の形) が変更された
第三水準漢字に10文字が付け加えられた
…の2点と言って良いでしょう。
つまり、何か文字数がものすごく増えたとか、以前のフォントに比べて高性能になったとか、そういう変化ではない訳です。
※漢字の「追加」に関していえば、JIS第三/第四水準漢字が定義され3,600以上の漢字が追加された、通称JIS2000の改訂のほうがはるかに大きな変化でした。
とはいえこのうち、前者の「例示字形の変更」が、実はとても大きな影響を持ちました。なぜならJISの示す「例えば」は、事実上の「標準」と見なされるからです。
もっとも有名なのが、Windows Vistaに搭載されたMSゴシック・MS明朝です。このバージョン以降、システムフォントがJIS2004字形になった影響で、Windows XPで作った文章をVistaで開くと、1点しんにょうだった辻が2点しんにょうになっていた…というようなことが頻繁に発生し、いまだに混乱の原因となっています。
MSゴシック・MS明朝の例では、フォント名は変わらず字形だけが変更されたことが混乱に拍車をかけていた訳ですが、同じ文章データでも使うフォントによって字形が変わるという本質については、他のフォントでも事情は同じです。
JIS2004のフォントなら、葛・辻・芦・樽などが「正字」になる
では、具体的に、JIS2004で変更された漢字にどのようなものがあるか見てみましょう。
下の画像は、JIS2004で例示字形が変更された全168文字について、改訂前のJIS90字形との違いが分かるようアニメ化したものです。概要がつかみやすいよう、変更内容が似通っているものがまとまるように並べてみました。
こうして眺めると、概してJIS2004字形はより伝統的な、旧字風の字体。一方のJIS90字形は、全般に略字風なのが分かります。
実は、改訂前のJIS90の例示字形は、戦後の日本で日常的に使われるようになった略字化のルールを、それほど馴染みのない難しい漢字にまで強引に適用したようなところがあり、しばしば批判の対象になっていました。
これを改め、各文字を「康熙字典」由来の「印刷標準字体」、国語審議会で「正字」と認定された文字に揃えるよう改めたものがJIS2004の例示字形です。
※実はさらに昔、最初に生まれた1978年のJISではむしろ現在のJIS2004の字形に近いものが採用されていました。これを見直し略字風の字体へ大きく舵が切られたのが83年のJIS改訂でしたが、この当時はコンピュータの普及率も低く、今のようなオンライン化も進んでいませんでしたので、社会への影響は限定的でした。
なお、上に掲載したアニメは「小塚明朝・小塚ゴシック」を使って作成した例です。
後ろのほうの何文字かを見ていただけると分かるように、JISの例示字形が変更された168文字の中には、あまりに僅かな変化のため一般的なフォントでその違いが再現されないものも含まれています。
※例えば「祟」では「出」の大きさを、「蟹」は「解」と「虫」の距離を、それぞれ微調整しただけという非常に小さな変化です。上記のサンプルをゴシック体に切り替えたとき「叉」の形が全く変わらないといったように、もともとJIS2004風の解釈でフォントが作られていた文字もあります。
買う前・使う前に見分ける方法 ── NがついたらJIS2004
そのフォントがJIS90字形のものであるかJIS2004字形のものであるか。フォントによっては、その名前によって見分けることもできます。
たとえばOpenType製品では、フォント名の一部にNをつけることにより、それがJIS2004字形のフォントであることを表す習慣が根付きつつあります。
なんらかの目的でJIS2004字形の漢字が必要な場合は、StdN・ProN・Pr5Nなど、Nつきのフォントをお選びください。
一方TrueType製品では、JIS2004字形の製品数自体が少なく、このような分かりやすい習慣もありません。製品によって区別の仕方はまちまちとなっています。
なお、Windowsに標準搭載のMSゴシックやMS明朝、Office製品付属のHGフォントなどは、Windows Vistaの登場以降、順次、同名のままJIS2004字形に変更されています。同じフォント名でJIS90字形のものもあればJIS2004字形のものもあり、名前では区別できませんのでご注意ください。
JIS2004製品、今後どうなる?
印刷や出版などで用いられる大手メーカーの組版向けフォントは、既にJIS2004字形のものがあらかた出そろっている段階です。
明朝体や角ゴシック体・丸ゴシック体など本文系のフォントを中心に、昔ながらの活字にも合致するJIS2004字形のOpenType製品へのシフトが着実に進んでいます。
※最近になって、JIS90字形・JIS2004字形を含む各種の漢字異体字を切り替えて使うための新しい仕組み「IVS」に対応した製品が登場し始めました。この仕組みに対応したOpenTypeフォントとアプリケーションソフトがあれば1つのフォントでさまざまな異体字を同時に扱うことが可能になるため、出版のように高度に文字を扱う場面においては更に「IVS対応のNつきフォント」に集約されていく可能性もあります。
一方、本文系以外のフォント──例えば、デザイン書体など──は、JIS2004字形でなければならないニーズが少ないためか、まだまだJIS90字形のほうが多数派という状況です。
また、1つ1つの点画が明朝体・ゴシック体ほど厳密ではないデザイン系の毛筆書体や行書体・草書体も同様で、JIS2004字形の新製品はそう多くありません。明朝やゴシックとは異なり、切り替えはゆっくりとしたものになりそうです。
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