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デザインの手前 #04:新山直広さん回振り返り

こんにちは。
ポッドキャスト番組「デザインの手前」の原田です。

福井県鯖江市に拠点を置くデザイン会社TSUGIの代表で、クリエイティブ・ディレクターの新山直広さんのエピソード全4回が配信されました。
そこで今回も新山さん回の振り返りをしていきたいと思います。

また、今後の配信予定や新ゲストのお知らせもありますので、ぜひ最後までご覧ください。


デザインを拡張し続けるインタウンデザイナー

大阪出身の新山直広さんは、京都精華大学で建築を学んだ後、福井県鯖江市に移住し、市役所勤務などを経て2015年にTSUGIを設立しました。
福井県を創造的な産地にすることを掲げ、ロゴやパッケージなどのグラフィックデザイン、アクセサリーブランド「SUR」などの自社ブランドや福井の産品を扱う行商型ショップ「SAVA!STORE」の運営、産業観光イベント「RENEW」の企画運営などを手がけています。
また、地域で活動するデザイナーを「インタウンデザイナー」と定義し、2023年には地域とデザインのこれからを探求する「LIVE DESIGN Shool」も開校するなど、地域におけるデザインの可能性を拡張し続けているデザイナーです。

TSUGIが運営する「SAVA! STORE」は、鯖江市河和田地区にあるオフィスに隣接している。

「詐欺師」と呼ばれたデザイナーが信頼を得るまで

昨今、日本のさまざまな地域でデザイナーの活躍が目立っています。
こうしたデザイナーたちの活動は、新山さんが編著者を務めた書籍『おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる』にまとめられていますが、現在のような地域とデザイナーの関係が築かれるまでには長い歴史がありました
書籍の巻頭で新山さんが書かれているように、地域の産業に関わるために都市部から訪れるデザイナーは時に「詐欺師」と揶揄されるなど、地域におけるデザインの認識は、必ずしもポジティブではなかった時代が長く続きました。

新山直広、坂本大祐『おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる』(2022年/学芸出版社)

1回目のエピソードでは、新山さんが鯖江に移住し、デザインをする状況をどのようにつくってきたのかということを伺いました。

学生時代に建築を学ぶ中で、新築の設計よりも「リノベーション」「コミュニティデザイン」の潮流に未来を見出した新山さん。
そんな彼が鯖江に移住をした目的は、「地域活性」だったと言います。
しかし、多くの地場産業が集積する「ものづくり」の街で職人たちと接する中で、ものづくりを活性化させるためにデザインが圧倒的に足りていないことを実感します。

鯖江市役所勤務時代の新山さん。

「まちづくり」の手前に「ものづくり」があり、さらにその手前に「デザイン」が必要だったー。
こうしてデザイナーを志した新山さんは、独学でデザインを勉強し始め、移住から6年の歳月を経てデザイン事務所「TSUGI」を設立します。
ものづくりの街における「つくり手」と「デザイナー」の関係性を再考し、「郷に入っては郷に従え」精神で地域に馴染むことに尽力した新山さん。
そんな新山さんの活動は、鯖江におけるデザインの認識を激変させ、「地域活性」にデザインが果たせる役割の大きさを全国に知らしめたのです。

TSUGIでは、福井県内のさまざまな企業・ブランドのデザインを手掛けている。

領域や職能を「逸脱」する地域のデザイナー

都市部に比べて職種の多様性が乏しい地方で活動するデザイナーには、「デザイン」以外の役割を求められることが多いと言われます。
その状況自体は必ずしも前向きに捉えられるものではないかもしれませんが、職能が専門分化する「手前」の仕事との向き合い方という点で参考にできることもあるはずです。
2回目のエピソードでは、地域において拡がり続けるデザイナーの活動について伺いました。

行政からものづくり系のメーカー、県内の上場企業、福祉施設を運営する個人事業主まで、多種多様な方からデザインの依頼を受けるという新山さん。
そんな新山さんが大切にしているのは、相手の話にひたすら耳を傾け、課題の本質を見つけること。
文字通り、ロゴやパッケージなどのデザインをする「手前」に労力を割く新山さんは、ご自身の仕事を「カウンセラー」「町医者」になぞらえ、暮らしや社会、地域やビジネスをより良くするために「効く」デザインを、適切な用法・用量で提供することだと話します。

そうした活動を続けてきた結果、新山さんたちの取り組みは、自社ブランドや店舗の運営、産業観光イベントの企画運営などに自然と広がっていきました。

2015年にスタートした工房見学イベント「RENEW」。福井県鯖江市・越前市・越前町にある工房・企業が一般開放される。

新山さんは、ご自身が提唱する「インタウンデザイナー」を、「広義のデザイン視点を持って、その土地の資源を活かした最適な事業を行うことで、地域をあるべき姿に導く」と定義しています。
昨今、「広義のデザイン視点」を持つことは、あらゆるデザイン領域で推奨されています。

その中で、新山さんをはじめ地域のデザイナーたちの活動が一線を画している点があります。それは、「意匠」「設計」「計画」といったデザインが本来持っている役割にとどまらず、さまざまな切実さを抱える地域のつくり手や事業者、行政を「世話」するように寄り添い、時にデザインの領域やデザイナーの職能を「逸脱」するように活動を拡げていることです。

AIが「意匠」「設計」「計画」といった従来のデザインの役割を担いつつある時代だからこそ、こうした地域のデザイナーたちの活動は、現代を生きるデザイナーたちに大きな示唆を与えてくれるのではないでしょうか。

TSUGI Webサイトより。

課題先進地でつくる最先端のケーススタディ

課題先進国と言われる日本ですが、とりわけ地方は早い段階でさまざまな課題が顕在化している場所です。
3回目のエピソードでは、「課題先進地の地域で重ねるデザインの実践」というテーマでお話を伺いました。

さまざまな課題が集積する地域のことを「周回遅れのトップランナー」と表する新山さんは、人口が少なく、意思決定機関との距離が近い場所だからこそ、デザイナーにできることがたくさんあると言います。

現在、日本各地で行われているさまざまなデザインの取り組みは、日本社会のこれからを考えるためのヒントに満ちたケーススタディであり、新山さんが定義する「インタウンデザイナー」たちは、未来のための実践を積み重ねている存在とも言えます。

事実、新山さんたちが鯖江で始めた工房見学イベント「RENEW」は、いまや3万人以上の来場者を集めるイベントに成長し、「産業観光」の可能性を示す事例として、全国の自治体や産地から注目を集めています。

「RENEW」では工房見学や技術の体験などを通じて、作り手の想いや背景を知ることができる。

「RENEW」がきっかけとなり、近隣自治体が行政区分を超えて協働する越前鯖江デザイン経営スクールもスタートし、ものづくりやデザインを起点に地域が変わる状況が生まれつつあります。
新山さんにとってもこの出来事は、「政治家にならなくても行政を変えられる」という成功体験になったそうです。
新山さんたちの活動をはじめ、地域や日本の未来を変え得る最先端のケーススタディが、おそらくこれからもさまざまな地域で活動するデザイナーたちから生み出されていくはずです。

このエピソードでは、都市部における「ローカル」のあり方や、これからのデザインに求められる「編集」や「建築」的な思考などについても語られていますので、ぜひチェックしてみてください。

デザインと地域のこれからを探求する学校

最終回では、新山さんたちが2023年に立ち上げたデザインと地域を学ぶ学校「LIVE DESIGN School」のお話を中心に伺いました。

「LIVE DESIGN School」は、先に触れた『おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる』がきっかけとなり、書籍の編集者や新山さんをはじめとする著者(=全国のローカルデザイナー)たちによって開校されました。
オンラインレクチャーと各地で行われるフィールドワークでプログラムが構成された1年目にはなんと270人(!)もの受講者が集まり、2年目となる今年も200名を超えるメンバーたちが、フィールドワークを中心に、高い熱量を持って学びを重ねているそうです。

「LIVE DESIGN School」では、新山さんをはじめ日本各地で活躍するデザイナーたちが「リードデザイナー(=講師)」を務めている。

「LIVE DESIGN School」のユニークな点は、デザイナー以外の職業や生業を持つ人たちも多く参加していることです。
「ここは地域や社会、日本をより良くするための術と態度を学ぶ場であり、その職能はデザイナーだけのものではない」と語る新山さん。
そんな「LIVE DESIGN School」は、地域で有効なデザインのテクニックを一方的に教える場ではなく、講師陣にあたるリードデザイナーや受講者たちがそれぞれの生き様を学び合えるような場になっていると言います。

「LIVE DESIGN」というワードは、スクールの開校を新山さんたちに提案したという原研哉さんによるものです。
「LIVE DESIGN School」ではこの言葉を一義的に捉えるのではなく、それぞれが「LIVE DESIGN」のあり方を探求するスクールであり、コミュニティであり、ラボでありたいと新山さんは言います。
そしてこの活動を、かつての民藝運動」のようにデザイン史に影響を与えられるムーブメントにしていくことが、個人的な野望だと話してくれました。

このエピソードの後半でも語られているように、コロナ禍を経てデザイナーと地域の関わり方はますます多様化しています。
そんな多様な地域とデザインの関係を体現する「LIVE DESIGN School」の活動が、未来のデザインにおけるスタンダードとなり、これからの社会を明るく照らしてくれることを期待したいと思います。

今後の配信予定も続々決定!

4月にスタートした「デザインの手前」では、すでに約20のエピソードが公開されています。
そこで番外企画として、パーソナリティの2人でこれまでの活動について振り返る回を収録しました。

さらに新たな試みとして、パーソナリティの原田がモデレーターを務めたトークイベントの音声配信も行います。
6月25日に青山ブックセンター本店で行われた書籍『西澤明洋の成功するブランディングデザイン』刊行記念イベントの模様を前後半にわたってお届けします。
すでに前半が公開されているのでぜひチェックしてみてください。

そして、通常回の新たなゲストとして、グラフィックデザイナーの長嶋りかこさんをお迎えします。
ご自身の妊娠・出産・育児の日々を綴った書籍『色と形のずっと手前でを出版した長嶋さんに、過去回とはだいぶ毛色の異なるデザインの「手前」の話をたっぷり伺っていますので、こちらも楽しみにお待ち下さい!


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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