見出し画像

劇団シアターホリック 第29回本公演「希望の星、再ビ。」を終えて。

こんにちは、あるいはこんばんは。
デザイナーの露木です。

今回は、劇団シアターホリック 第29回本公演「希望の星、再ビ。」に、役者として出演をさせていただいた経験について執筆してみたいと思います。


「希望の星、再ビ。」のあらすじや概要

「希望の星」は、2015年に上演した作品です。
今回大幅なリライトを経て再演を行いました。

以下、座長の松島さんのご挨拶文を拝借させていただきます。

「希望の星」は2015年に上演した作品でした。
その頃、ラジオやルポなどで家出した女の子たち、病気などで働くことがままならない少女たちを知りました。そして、彼女たちが生活の糧とする手段の一つに性風俗があるということを。
仁藤夢乃さんを中心としたcolaboという団体が活動を始めたのはその頃でした。その団体はストリートへ迷い込む少女たちをレスキューする活動をしていました。
世の中には追い詰められている少女がいて、もう片方に助けようとしている人たちがいて。その話が、ぼくにはリアルで生々しく感じられた。彼女たちの境遇が他人事と思えず、その衝動が作品の着想となりました。

あれから10年近く経とうとしている。何が変化しましたかね。物価が上がって自販機のお茶が180円になったけどお給料は一向に上がらず、インボイスとかマイナンバーとか税金召し上げる仕組みは整って。その中で少女たちはトー横に集まりホストに熱狂して、支払いに追われて風俗嬢になったりして、あれ?良くなってないね。全然良くなってない。

初演の時はもっと楽観的だった。仁藤さんのような人が出てきたし、もしかしたらちょっとくらいは世の中が良くなるかもって思ってた。だって人は少しでも良くなりたい、前に進みたい、幸せになりたいと願いながら生きていくものでしょう。だったら、この世界だって良くなっていくはずでしょう。

でも、そんな甘い話じゃなかった。彼女たちの環境は悪化の一途を辿っている。
Twitterのようなものを見てると、仁藤さんを売名だなんだと揶揄して、わざわざ出向いて活動を妨害するような輩までおります。ぼくとは考え方が全く違いますが、ホント、価値観は人それぞれ、これが多様性でございます。

ぼく自身、演劇と少し距離を置こうと皆さんへお伝えして、今に至ります。その間、いろいろと考えることがありました。
そんな中で上演を決意した「希望の星」の再演です。再演とはいえ、8割くらいは書き直したのでほとんど新作です。

まーね。昭和まで日本では人身売買が行われてて、貧乏な家の娘が売られるなんて良くあることだった。その時代と比べれば今は良くなったって言える?だとしたらそんくらいロングスパンで考えないと成長できないもんなのか、人間って。

舞台に登場する少女たちに熱きエールを!
彼女たちがアイデンティティを取り戻す物語です。
劇場でお待ちしております。

文責 松島寛和

はい、結構重い内容だと思いますよね。
そうなんです、内容自体は重いんです。
けど、これを明るくポップにやるのがシアターホリック流。
自分の所属している劇団で手前味噌で恐縮ですが、大好きなんですシアホリの作風が。

劇団シアターホリック対する感謝

シアターホリックについて

シアターホリック・通称シアホリは2004年に旗揚げし、高知県高知市を拠点に活動している小さな劇団です。
私を迎えてくださる前は、座長の松島さんと役者の紫織さん、2名で活動されていました。

今は活動を緩やかにしておりますが、暗い話を明るくポップにやる作風が人気です。
過去作品に、JKビジネスの周辺を描いた「希望の星」、カラマーゾフの兄弟をモチーフにした「樺沢家の三人姉妹」、岸田國士とチェーホフとドリフ大爆笑のオマージュ作品「スクラップ」などがあります。

もし高知で劇団に興味がある方がいましたらぜひ声をかけてください。
技術に興味がある方も、役者さん志望で未経験の方でも構いません。

劇団に所属することになったきっかけ

役者をやってみたいと思ったのは、
前職のデザインの師匠の影響が大きいと思っています。

師匠はデザイナーに珍しく、プレゼンテーションが得意で、
彼のデザインだけでなく、人柄に惹きつけられて仕事を一緒にやってみたいと思わせるような人でした。

そんな師匠は以前役者を目指していたことがあり表現力が豊かで、
デザイナーはぜひ演劇的な表現を身につけたほうがいいと言われたことがあり、ずっと心の奥に何となく「演劇への興味」がしまわれていました。

そんなとき、地元東京を離れて高知へ移住するタイミングがあり、
今まで私の生活を構成していた友達・家族・同僚との時間がなくなったのもあり、
デザイナーとしてもっと新しい挑戦をしてみたいと思ったのがきっかけでした。

今の仕事はパソコンと向かい合う時間が多いので、
もっと身体的な表現を学んでみたいと思い、気づいたら今お世話になっている「劇団シアターホリック」に連絡していた自分がいました。

座長の松島さんと役者の紫織は快く迎えてくださり、
全く演劇にゆかりのなかった今では私も1メンバーとなっています。

劇団に対する感謝

全くの未経験な私を迎えてくださった、謙虚で心優しい二人には本当に感謝しています。
だって、10年もお二人でやられていて、普通だったらこんな新参者受け入れたくないと思うんです。

せめてブランクがあっても経験のある人とか、例え演劇ではなくても声優さんをやられている方であるとか。
そういう方を受け入れてくれるなら分かるんですが、こんな何の積み上げもない、ただの興味だけで門を叩いた人間が、よく受け入れてもらえたなと思って改めて感謝しています。

高知であまり所属するコミュニティーもなく孤独だった期間もあったので、演劇・シアホリの存在には本当に支えられています。

公演を終えて

何とも形容し難い、達成感で満たされた

役者での集合写真

公演は大反響でした。
アンケートやSNSから「見に行って良かった」「ゾッとした」「濃厚な時間だった」などの声が届いて、関係者一同、達成感で満たされました。
ありがたかった。嬉しかった。幸せだった。

当日を迎えるまでは正気じゃなかった

公演日直前の1ヶ月は、夜ほぼ毎日稽古でした。
私はデザイン職なので昼間は絵をつくる、夜は役をつくる。

毎日、
つくるつくる食べる寝る。つくるつくる食べる寝る。
つくるつくる食べる寝る。つくるつくる食べる寝る。
を1ヶ月やり続ける。

人間のエネルギーって限られていて、多分1日でつくれるものってたかがしれている。
そのはずだけど、私は二日酔いに向かい酒を毎日させられているような気分で、少しでも気を緩めたら何かが崩れてしまうような張り詰めた毎日でした。

座組が、良かった

今回はシアホリの3人の他、客演(ゲスト)で3名の役者さんを迎えました。2人は学生さんの女の子。1人はベテランの男性の方。

3人とも演技にまっすぐで吸収できることばかりでした。
特にいちごのパートナー役、ヒロキを演じた忽那さんには大変お世話になりました。
芸歴の長い忽那さんなので、私に思うことは多くあったと思うのですが、ご自身が培ってきた技術を惜しみなく教えてくださいました。
たくさん相談に乗ってくださり、ありがとうございました。

女の子2人も性格の違う2人でしたが、2人のおかげで現場が明るく癒されました。
いつも癒しをくれて、私ともまっすぐに向き合ってくれて本当にありがとう。

そしてシアホリのお二人にももちろん感謝です。
この劇団に入って本当に良かった。

ものづくりをすることに対する喜びを実感

誰かと何かをつくっていく作業は幸せそのもの

私が今回演じたのは「いちご」という、シングルマザーでギャルの役。
あっけらかんとしていて、おバカだけど明るい性格から想像はつかないほど、親から虐待を受けていた壮絶な幼少期を送っています。

役を演じることとは何か、何もわからないところから始まり、シアホリの松島さんや紫織さんをはじめとし、客演の皆さんにはたくさんの助言をいただきました。

「いちご」になるということは、露木彩花を捨てるということ。
架空の人物の代弁者になるということです。
しかし、最初は特に自分の意思が気付かないうちに出てきてしまい、なかなか役と仲良くなれずにいました。

でもあるとき、「いちご」と意思疎通ができるようになった瞬間があり、そこからは何か自分が現実世界とは別の世界と繋がっている感覚になり興奮を覚え、一歩深く演劇にハマりました。

そして、アンケートでは「いちご」を愛してくれた人、何かしらの感情を持ってくれた人がいることが知ることができ、自分の生んだ「いちご」が誰かに覚えてもらえたことが嬉しくて嬉しくて、心が満たされました。

ちなみに今回は「ナカタネ」という、ネジの外れたおじさんの役もやりました。こちらの「ナカタネ」を覚えてくれていた人もいて、すごく嬉しかった。

いちごちゃんの表現力…!ありがとうございます
いちごもナカタネも届いた…泣
この方、帰り際に声をかけてくださった。きゅん。
確かにいちごのことを見てイライラする方もいるよな、と。
(演技褒めてくださっている、嬉しい)

仕事と学生時代の趣味を演劇が繋げてくれた

今回私は役者の他、宣伝美術と振付を担当させていただきました。

宣伝美術(フライヤーデザイン)
チラシ裏面はより直接的な表現に

実はデザインと自分の興味分野が重なる瞬間を何年も望んでいました。
日々のクライアントワークも楽しいですが、音楽業界やファッション業界など遊びのある業界とのお付き合いが多い方でない限り、なかなかやってみたい表現をぶつけることは難しいと思います。

でも今回は、公演のフライヤーということで、
普段より色々やれそうなことが多く、クライアントワークではできないような表現をしてみたかった。

今回の演目は、自分達の体を商売道具にしている女の子たちがラストシーンでは各々が抱える精神的な呪縛から解放されるような内容になっています。
女の子たちを夜の蝶に見立てて、フライヤーのコンセプトは「夜の蝶たちよ、飛べ🦋」にしました。

本当は裏面は最初女の子の足は入っていなかったのですが、
もっと大胆で濃い味の表現をしてほしいと、座長松島さんからコメントをいただき、着地まで相談しながら制作しました。

Xでも今回のフライヤーが好きだったとコメントいただき、
役者さんのなかでもつらい時はこのフライヤーを見て元気をもらっていたと伝えてくれた方もいて、本当にデザイナー冥利に尽きます。

また、学生時代にダンスをやっていたという経緯から、今回振り付けも担当させていただきました。
人生でデザインの次に時間をかけた大切な趣味だったので嬉しかった。

ストリートダンスと、演劇シーンで楽しんでいただくためのダンスは、やはり似て非なるものだと感じましたが、演出もされていた松島さんと相談しながらストーリーや場面の意図などに合わせて構成し、役者さんの力を借りて楽しく見ていただけたようでとても安心しました。

この舞台で、自分の学生時代の趣味・仕事、自分の人生のエネルギー使った大好きなものたちが繋がって、非常に多幸感に満たされ、やっぱりものづくり・表現の世界が大好きだと感じました。

最後に

長くなりましたが、ここには書ききれないほどのドラマがあり、感情が揺れ動く瞬間に立ち会いました。
そして、「大人になっても青春ってできるんだなぁ」と嬉し涙を流したのは秘密です。

こんなに幸せな体験をさせてくれたシアホリの皆さん、
私より経験豊富でたくさん話し合ってくださった客演の皆さん、
今回作品を成功に導いてくださったスタッフの皆さん、
会場に来てくださった皆さん、
来れなくても応援メッセージを送ってくれた皆さん、
本当にありがとうございました。

今振り返るだけでも魂が震える思いです。

これから死ぬまでにこんな経験があと何回できるかな。
これからも楽しく大人やっていきたいと思います。

では今回はこの辺で。

いいなと思ったら応援しよう!