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カサブランカに魅入られた人。

ノワール:伯爵の地位を持つ男性。Mあり。
エミナ:平民出身の飾らない女性。
ヴァランタン:皇子。エミナを狂愛している。
――――――――――――――――――――――――――――――――

ノワールM:彼女……エミナは、“カサブランカ”のような女性だった。

【間】
(SE:足音)

エミナ:おはよう、ノワール伯爵。ご機嫌如何?

ノワール:おい。お前は平民から選ばれた、ただの村の娘……。
ノワール:口の利き方には気をつけろ。
ノワール:俺はお前の為に言っているんだぞ?
ノワール:せめて敬語ぐらい使ったらどうだ。

エミナ:堅苦しいのは嫌いなの。
エミナ:それに私、平民出身でしょ?
エミナ:他の貴族の娘たちから汚い卑しい娘……って嫌われてるの。
エミナ:だから別にどうでもいいのよ。
エミナ:気に入らないなら、私を元の村に帰して欲しいんだけど。

ノワール:それは出来ない。
ノワール:皇子はエミナ、お前の美貌に夢中だ。
ノワール:お前のような山猿など村に帰してやりたいのは山々だが……勝手に帰しては俺の命が危ぶまれる。

エミナ:そんなこと私は知らないわ。
エミナ:私はただ村で穏やかな生活をしたいだけ……。
エミナ:皇女育成なんて、私には合わないわ。
エミナ:毎日毎日勉強ばっかりで……本当に退屈。
エミナ:村に帰って土いじりしたいわ……。

ノワール:(溜め息をつき)……そんなにこの城が嫌いか。

エミナ:えぇ、大嫌いよ。

ノワール:ふん……やはりお前のような山猿は好かん。
ノワール:優れているのは容姿だけか。
ノワール:勝手にしろ。

(SE:立ち去る足音)

エミナ:勝手にするわよ、べー!!
エミナ:……あーあ、暇になっちゃった。
エミナ:庭に行くとしますかぁ。

【間】

(SE:足音)

ノワール:全く……エミナの奴は……。
ノワール:皇子の妃になる身分のくせに……あんな我が儘ばかり……。
ノワール:(深いため息をつき)……考えるだけで頭が痛い。

(SE:足音)

ヴァランタン:やぁ、ノワール。

ノワール:おぉ!これはヴァランタン皇子!ご機嫌如何ですか?

ヴァランタン:うん、とても良いよ。

ノワール:それは良かったです!何かあれば何なりと、このノワールめにお申し付けを!

ヴァランタン:ありがとう、ノワール。
ヴァランタン:なら、聞くけど……さっき、エミナと話をしていただろう?

ノワール:え、えぇ……。

ヴァランタン:どんな話をしていたのか……教えてもらえるかな?

ノワール:……そ、その……非常に申し上げ難いのですが……。
ノワール:エミナが……その……この城が気に入らないと……。

ヴァランタン:この城が気に入らないって?
ヴァランタン:ふーん……エミナがねぇ……。

ノワール:……だから……村に帰りたい、と言っていて……。

ヴァランタン:そっか。
ヴァランタン:この城が気に入らない、つまり、僕が気に入らない……と言うことだね。

ノワール:いえ!そこまでは……!!

ヴァランタン:(低い声で)そっか……そっか……僕が気に入らない、か……。

ノワール:ヴァランタン皇子!そんなことは無いです!!

ヴァランタン:(明るく)ふふ、大丈夫!ちょっとエミナにお仕置きするだけだから!
ヴァランタン:僕から離れられないように……ね?

ノワール:……っ……!

ヴァランタン:エミナは何処に行ったかなぁー?

(SE:立ち去る足音)

ノワール:……大変なことになった……。
ノワール:エミナを皇子より早く見つけなければ!

【間】

エミナ:(鼻歌を歌い)あー、このカサブランカ、あと数日したら咲きそうね!
エミナ:ちょこちょこ手入れしていたけれど……やっと実った感じねぇ。
エミナ:(優しい声で)咲くところが見られるわ……良かった。

(SE:ゆっくり近づく足音)

ヴァランタン:(低い声で)エミナ。

エミナ:っ!?ヴァランタン皇子!?どうして此処に!?

ヴァランタン:エミナ……エミナは僕のことが嫌いかい……?

エミナ:(怯えたように)いえ……そのようなことは……!

ヴァランタン:じゃあ何で、この城が嫌いだなんてノワールに言ったんだい?
ヴァランタン:この城は皇帝になる僕そのものでもあるんだ。
ヴァランタン:それを、妃の第一候補であるエミナ、君が……。

エミナ:(怯えながら)ご、ごめんなさい……!!
エミナ:お許し下さい……!!どうか……どうか!!

ヴァランタン:その身体に教えてあげる……。

(SE:ナイフのシャキーンという音、刺す音)

エミナ:いだぁっ!!……ご、ごめんな……さい……!!

ヴァランタン:(笑って)聞こえなーい。

(SE:刺す音)

エミナ:ぐうぅ!!

ヴァランタン:あはは、エミナ……君の痛みに悶え苦しむ顔……綺麗だ……。

(SE:ザッという音)

ノワール:エミナ!!

エミナ:助けて……ノワール伯爵!!

ノワール:ヴァランタン皇子!お止め下さい!!

ヴァランタン:ん?何をかな?

ノワール:エミナを傷つけるのを……お止め下さい!!

エミナ:(震える声で泣きながら)皇子……止めて……。

ノワール:お止め下さい、どうか!!

ヴァランタン:(鼻で笑い)……この痛みが解ったら、エミナ、もう二度と僕から離れたいなんて言うなよ?
ヴァランタン:あぁ、興醒めだ。僕は城に戻る。

(SE:立ち去る足音)

ノワール:エミナ!!

エミナ:(泣きながら)……ノワール伯爵……。

ノワール:すまない……俺が皇子に余計なことを言ったばかりに……。

エミナ:(鼻を啜り)……大丈夫……だって本当のことだもの……。
エミナ:(自虐的に笑い)……皇子は私を痛めつけて楽しんでいるのよ……。
エミナ:だって私はそこら辺の石ころと同じ……。
エミナ:容姿が優れていても……身分が低ければ扱いだって低い……。
エミナ:皇子は……自分の良いように私を操りたいだけ……。

ノワール:エミナ……。
ノワール:(深呼吸して)……エミナ、お前は美しい。

エミナ:(鼻で笑い)何?いきなり。

ノワール:さっきは山猿と言って悪かった……本当に。
ノワール:お前がこんな扱いを受けているなんて……知らなかったから……。

エミナ:良いのよ、別に。

ノワール:エミナ、お前は城から抜け出すチャンスなど……何度かあったのに……。
ノワール:何故、逃げなかったんだ?

エミナ:……だって、私が逃げてしまったら……村への支援を絶たれてしまうから……。
エミナ:私の村は貧しいから……薬も食事もろくに買えないのよ……。
エミナ:村は私を犠牲にして、皇子から支援を受けているの……。

ノワール:そうだったのか……。
ノワール:それでもエミナは村が好きなんだな。

エミナ:えぇ、私の村はカサブランカがたくさん咲く山があってね?すっごく美しいの。
エミナ:私、毎年カサブランカが咲く季節になると、バケットを持ってピクニックに山へと出かけるのが楽しみだったの。
エミナ:私はカサブランカが一番好きな花でね?カサブランカのように気高く高貴でありたい、って思っているの。
エミナ:……でも……皇子の前では……駄目みたい……。

ノワール:エミナ……。
ノワール:お前はカサブランカのように美しいよ。

エミナ:え?

ノワール:エミナ、お前は……いや、君は純粋で、高貴で、カサブランカの花言葉に相応しいくらい美しい。
ノワール:ヴァランタン皇子相手じゃなかったら……今なら俺が攫ってやったのに。

エミナ:ノワール伯爵……?

ノワール:エミナ、俺は君に惚れたようだ。

(SE:風の音)

【間】

(SE:雨の音)

ヴァランタン:あー、イライラするなぁ。
ヴァランタン:エミナとノワールが最近親し気に話しているの、気に食わないなぁー。
ヴァランタン:エミナにも飽きたし……イライラするから殺しちゃおうかな……。
ヴァランタン:……うん……そうだ、そうしよう。

【間】

ヴァランタン:ノワール、いる?

ノワール:はっ、ここに!

ヴァランタン:エミナのことなんだけど……。

ノワール:エミナが何かされましたか?

ヴァランタン:飽きたから、殺そうと思ってね。

ノワール:なっ!何を言うんですか、皇子!!?

ヴァランタン:僕に懐かない女は嫌いだよ。

ノワール:飽きたのなら、殺さずに村へと帰してやって下さい!

ヴァランタン:やだね。

ノワール:何故!?

ヴァランタン:めんどくさいし、あんな卑しい汚い村……どうなっても良いし。

ノワール:そんな……!!

(SE:足音)

エミナ:あ、ノワール伯爵!……っ、ヴァランタン皇子……。

ヴァランタン:ちょうどいい所に、エミナ。
ヴァランタン:突然だけど、君には死んでもらうよ。

エミナ:なっ!?

ヴァランタン:最近、ノワールとイチャイチャして僕を見ないから……君は妃候補から降格~。
ヴァランタン:村に帰すのも癪(しゃく)だし、殺すことに決めたから!
ヴァランタン:誰か!エミナを拘束しろ!!

(SE:兵士の声)

エミナ:やめてっ!放してっ!!

ノワール:エミナ!!

ヴァランタン:地下牢へと連れて行け!

ノワール:エミナ!!エミナー!!

エミナ:ノワール伯爵!!

ヴァランタン:あはは、処刑は明日の午後にしよう。
ヴァランタン:(うっとりしたように)エミナの死に顔……楽しみだぁ……。

【間】

エミナ:(泣きながら)……酷いわ、こんな運命なんて……。私が何をしたと言うの?
エミナ:神様、お願いです……最期にノワール伯爵に逢わせて下さい……。

ノワール:(小声で)エミナ!

エミナ:ノワール伯爵!

ノワール:(小声で)しー!声が大きい!
ノワール:その……俺、君に謝りに来たんだ。
ノワール:俺が余計なことを言ったせいで、エミナは傷つけられた。
ノワール:本当にすまないと思っている。
ノワール:……エミナ、これを。

エミナ:これは……?

ノワール:苦しまずに死ねる薬さ。
ノワール:死ぬときは一緒だ、エミナ。
ノワール:こんな形でしか、ヴァランタン皇子から攫えない……ダメな伯爵でごめんな?

エミナ:ううん、嬉しい。
エミナ:……これを飲めば……楽になれる?もう辛いことは無い?

ノワール:あぁ、無いよ。
ノワール:エミナ、俺は最初君が嫌いだった。
ノワール:でも、今は君に出会えて本当に良かったと心から思っている。
ノワール:君を救えなくてごめん。

エミナ:ありがとう、ノワール伯爵……。
エミナ:正直、私も初めはあなたが苦手だった。
エミナ:でも、今はあなたが好き。
エミナ:天国で逢いましょうね?

ノワール:あぁ……。

(SE:ゴクリという2つの音)

【間】

ヴァランタン:あーあ。エミナの奴、ノワールと心中しやがった。
ヴァランタン:つまんない、つまんない、つまんない!!
ヴァランタン:何でノワールなんだ、エミナ!!
ヴァランタン:僕の方が、地位だってなんだって上だと言うのに!!
ヴァランタン:うああああ!!!腹の立つ!!!
ヴァランタン:(低い声で)……あぁ、そうだ。
ヴァランタン:今から攫いに行けば良いんだ……。
ヴァランタン:(狂ったように)あはは、今行くよ、エミナ!
ヴァランタン:ノワールなんかにはあげないよ!

(SE:ナイフのシャキーンという音)
【間】

ノワールM:エミナ、享年19。死因、睡眠薬が過剰に入った小瓶を飲み、安眠死。
ノワールM:ノワール、享年23。死因、エミナと同じ、安眠死。
ノワールM:ヴァランタン皇子、享年19。死因、自殺。

エミナ:カサブランカがたくさん咲いているわ……ここが天国ね……。

ノワール:エミナ!

エミナ:ノワール伯爵!見て?カサブランカがたくさん……まるで私が大好きだった山のよう……。
エミナ:お城の庭のカサブランカも……咲いたかしら……。

ノワール:エミナ……。
ノワール:その……こんな形で連れ去ってしまったけれど……。
ノワール:来世では、もっと早く君を攫うから……待っていておくれ?

エミナ:(愛しそうに)はい!

【間】

ヴァランタン:(怒り狂いながら)何で僕が地獄なんだよ!!
ヴァランタン:ふざけるなー!!!


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