観戦記: 2024 J2 第14節 群馬 vs 清水
大型GWの最終日に行われたアウェイ群馬戦の観戦記です。私も相方と現地観戦をして、相方の推しのドウグラス・タンキ選手の初ゴールを含む3-0の快勝を現地で楽しみました。これでアウェイ甲府戦から現地観戦6連勝ということで最高の春になりました。
試合の総括
まずはハイライトを見てみましょう。
前半に西澤健太が先制点。後半にタンキ及び北川の追加点によって3-0の快勝でした。後半ATに山中にポストに当てられたシーン以外は、群馬にチャンスを作らせず、清水のやりたいことがすべて嵌ったような、清水にとっては最高のゲームになりました。
更に清水は連戦の疲れを考慮して一部ターンオーバーで4名の先発を入れ替え。その中で初先発となった西澤とタンキがゴールを奪うなど、戦力の底上げという意味でも意味がある試合になりました。
清水はこれでリーグ戦6連勝。2位の長崎が引き分けたので勝ち点は5差に広がり、独走態勢に入ることになりました。
試合トータルのスタッツを見てみましょう。
群馬の枠内シュート数は0に対して、清水は13とスタッツの面でも圧倒的な差がつきました。
前半の両チームのスタメン
前半スタートの両チームのスタメン・システムは以下の通りです。
群馬は前節と同じメンバー。不運だったのはここ3試合で2ゴールと好調の9番北川選手が開始5分で怪我によって交代してしまったこと。代わりには7番の和田選手が入りました。
一方で清水は、中2日ということを考慮して、北爪、吉田、西澤、タンキの4名の選手をスタメンに起用。西澤とタンキは今季リーグ戦初スタメンとなりました。またシステムも3-4-2-1として、群馬と同じ、ミラーシステムを採用しました。
前半における清水の狙い
このミラーシステムの採用が攻守両面で完全に嵌りました。守備時はシンプルに対面の相手に対して、自分のマークする選手にしっかりプレスにいく。
これによって前半の清水のボール奪取位置は、53.2mとセンターラインよりも前という驚異的な数値になりました。
攻撃時は相手が5バック気味に引いてくるので、最終ラインではなくバイタルエリアを中心に少し下がった位置で数的優位を作ってボールを支配するというのが目立ちました。
群馬は守備時は両WGの川上・大畑が最終ライン近くまで下がり、その分のスペースを両トップ下の佐藤・和田が埋めるため、全体的に重心が後ろになります。この状況で吉田・北爪も高い位置を獲れたし、矢島や宮本が最終ラインまでいくシーンや、原がボランチの位置まで上がってゲームを組み立てるなど、清水の選手たちはいつもよりも前でプレーすることができていました。
ボールを奪った際にはトランジションを早くして、一気に短時間で攻め切る。ボール奪取から、高橋のタンキへの早い楔から西澤のゴールも生まれました。この辺りの狙いが相当徹底していたように思います。
西澤選手の待望の今季初得点
そして前半11分、西澤選手の待望の今季初得点が生まれます。何度かインタビューで語っていましたが、昨シーズン、西澤選手としては初めて「無得点」に終わっていたということもあり、この初得点は本人にとっても、そして我々サポーターにとっても本当に嬉しかったですね。
まさにミラーシステムの狙いである、1 vs 1での前に出る前線からのプレスが功を奏した得点。CBからの和田選手への縦パスを、CBの原選手が前に出てプレス。トラップミスを誘って、そのボールを高橋がダイレクトで最前線のタンキに速い縦パス。タンキもうまく収めて、左サイドでフリーになった西澤にパス。ドリブルで持ち上がった西澤が、利き足とは逆の左足で、ニアに強烈なミドルシュートを叩き込みました。
これだけ早い攻撃だと、当然群馬側の守備は対応しきれません。清水の狙いがハマった素晴らしいゴールになりました。西澤選手も試合後に狙い通りだったと話をしていますね。
前半は清水ペースで1-0で折り返し
その後も、清水が、完全に群馬のビルドアップを封じて、ハーフコートゲームのような形で、試合をコントロールしました。前半のスタッツは以下の通り。
前半、群馬はシュートわずか1本、それに対して清水は9本。ボール支配率も62%清水が握るなど圧倒しました。
前半を3つに区切ったとしても、ボール保持率・シュート数共に徐々に清水が高めており、得点を奪ってからもよりペースを握れていたことがわかります。
後半の頭にタンキによる貴重な追加点
後半、ハーフタイムに大槻監督の檄が飛ばされたのか、群馬のプレス強度が増したように思えましたが、それでも清水のペースは変わりませんでした。そして後半11分に貴重な追加点が生まれます。
清水の波状攻撃。原や宮本といった守備的な選手がPA内に進入していくという良い攻撃から、原が左ニアゾーンに進入したこぼれ球を宮本が拾い、ペナルティエリアの外から、短い距離でのクロス。後方からの緩めのクロスであり、通常の選手はゴールに飛ばすこと自体も難しいのですが、フィジカルに優れるタンキは頭を振って、ゴール左隅の良いコースに飛ばしてゴール。
本来は左足のシュートの方が得意だと思いますが、ヘディングでもゴールができるポテンシャルの高さを示しました。どこかのインタビューで「自分は柔らかいボールでもミートできると、普段の練習から周りの選手に伝えていた」と言っていました。まさに有言実行のゴールになりました。
清水の的確な選手交代による再活性化
その後、山中選手・佐川選手を投入した群馬が、運動量で上回り、少しペースを握りますが、清水も後半17分に松崎・カルリとトップ下の入れ替え、そして後半70分にタンキ→北川でトップを入れ替え、前線を再活性化します。
相手からしたら、カルリや北川が途中からフレッシュな状態で投入されたら嫌ですよね。特にカルリは前線でどんどんボールを収めて起点になって、再び清水にペースを持たらすことに成功しました。
西澤選手も悪くはなかったのですが、カルリはやはり秀逸ですね。自分自身でスペースに走ってボールを受けてターンしたり、周りの選手との細かいパス交換で、前に向いてタメを作れる。今清水でこれをできるのはカルリと乾だけなので、やはりどちらかがいてくれると前線にタメができるし、周りの選手が上がる時間も作れます。明日の鹿児島戦はカルリは必ずやってくれるでしょう。
両チーム最後の交代と北川選手のダメ押し
北川・カルリ・松崎の投入で清水がペースを握ったまま、後半終盤に突入。群馬は後半82分に永長と高澤というFW2枚を投入し前がかりに。それに対して清水は、次節も見据えて、疲れの出やすいボランチ2枚を、後半88分に中村・成岡に交代します。
短い時間ではありましたが、成岡が今シーズンリーグ戦デビューできたこと、帯同していた山原は完全休養させられたことは大きかったですね。
ATに突入する直前の後半90分、清水に3点目が生まれます。
清水は、一度最終ラインにボールを戻しますが、相手の位置を見て北爪は右サイド前方に残ってポジションをとります。それを見逃さなかった住吉からロングスルーパス。一気に抜け出した北爪はPA内ボックスまでボールを運び、ファーに流れる北川航也に絶妙なクロス。オフサイドラインを気にしながらも、北川はただ押し込むだけでした。
今季7点目となった北川の得点力も素晴らしいですが、この得点は9割は北爪のゴールといってもいいくらいでした。群馬出身で、どうしても結果を残したい北爪部長が、ゴール後にピッチを手で叩いて喜んだ姿には熱いものがありましたね。
最後終了間際に、北爪がボールを簡単に奪われて、山中にポストに当たる決定機を作られてしまったことは反省ですね。
後半の総括
後半のスタッツはこうなりました。
前半と比較すれば、枠内こそありませんが群馬はシュート6本、支配率も互角ということで善戦したことがわかります。またファール10というのは、選手たちがデュエルでファイトしたことの証でもありますね。
一方で、後半を3つに区切った試合の場合の流れはこうなりました。
やはり、後半70分過ぎのカルリ・松崎投入までは、フレッシュな選手を入れた群馬が、主導権を握り、一時期は60%近くのボール保持をできていました。一方で後半76分以降は再び清水がペースをつかんでいますね。ここ最近の試合では、後半の前半に運動量が落ちた際に相手にペースをつかまれることはあるものの、そこから選手交代によって活性化して、後半の終盤はしっかりと締めて勝つことができています。これも昨季からの成長の一つだと思います。
試合全体の総括
試合全体の総括になります。乾出場時の4-2-3-1、乾不在時の4-4-2に加えて、この試合はこれまでは後半終盤にゲームを締める際のシステムだった3-4-2-1をゲーム開始から最後まで採用しました。そういう意味では清水にとって「3つ目」のシステムを試して、それを成功させたということになります。
栃木戦の後半での「3-4-2-1」にも言えましたが、この3-4-2-1は、形こそ同じですが、昨季のような守備に入る際の3-4-2とは、選手の立ち位置は全く違うように見えました。守備時は3-4-2-1でしっかり羽目に行きますが、5バックで引いて守るというよりは両WBは高い位置を取りますし、攻撃時には2-5-3のようにCBの一人(この試合の場合は主に原選手)が中盤に上がり、中盤の選手が立ち替わりトップの位置まで上がるという流動的なやり方をしていました。矢島選手や原選手のようなサッカーIQの高い、ポジショニングに優れる選手がいたからこそ、機能したという面もありますが、清水は攻撃的3-4-2-1という新たな武器を手に入れたと思います。
こちらがこの試合のパスソナーになります。(SPORTERIAより引用)
選手自身のポジションが流動的であったため、この図で表現するのは難しいものの、ボランチの2名を中心に良くボールが動いていることがわかりますね。
輝いていた選手
最後にこの試合特に輝いていた選手を紹介します。
輝いていた選手①矢島選手
まずあげたいのはこの矢島選手。この試合は、これまでの左SHやトップ下ではなく、始めたボランチの一角として出場。宮本選手とコンビを組みました。上記のパスソナーの通り、このチームの中で、パスサッカーの中心的な役割を果たしました。ボランチは、もう一人のスタメン候補の白崎が負傷がちであるため、中村・宮本が出ずっぱりで人数不足でしたので、ここで矢島選手が活躍したことはチームにとっても大きいですね。
上記のデータの通り、全選手の中でパス数は71とトップ。パス成功率も90.1%と9割を超えています。次にヒートマップを見てみましょう。
左サイドを中心に、非常に広範囲に動いていることがわかります。試合を見ていても、アピアリング、つまり顔を出してボールを受ける動きが秀逸で本当にセンスのある選手だなと。攻撃的なポジションでも魅力的ですが、個人的にはボランチが今の矢島には適性ポジションだなと思います。
輝いていた選手②原輝綺選手
続いて原輝綺選手。LCの富山戦で復帰した原選手ですが、徐々にコンディションを上げて、完全復活ですね。昨年もそうでしたが、コンディションが良い状態の原選手は、でしの中では、清水でも最もJ2にいてはいけない反則級の選手だと思っています。冨安までとはいいませんが、日本代表の板倉・谷口・町田あたりとも全く遜色のない、いつ代表に呼ばれてもおかしくない質を持った選手だと勝手に思っています。
この試合、その原選手の力が発揮されましたね。驚きのスタッツがこちらです。
アタッキングサードのプレー比率とプレー数を見てください。同じCBの高橋・住吉選手と比較して、原選手のATプレー比率23.9%や、ATプレー数27という数値は、CBのそれではありません。
ヒートマップをみても、これCBの選手のものではないですよね。まさに「偽CB」として、この試合は攻撃時に中盤の位置、時には最終ラインの位置まで上がって、攻撃にも大きく貢献しました。
当然ながら相手のチームからすると、CBが中盤の位置にいるとは思いませんので、マークするのも一苦労だったと思います。
もちろんポジションだけではなく、西澤の先制点に繋がるプレス、前半終了間際のタンキへのクロス、タンキの追加点に繋がるPA内への進入など、得点に絡むプレーも随所にみられました。
それでも本人は「自分の出来はボチボチ」みたいなので本当にすごい選手ですね。
輝いていた選手③ドウグラス・タンキ選手
最後は、この試合1ゴール1アシストと、ついに結果を残したタンキ選手。
ボールタッチ数も多いわけではないですが、一つ一つのプレーが本当に印象に残るというか絵になる選手。またポジショニングもやはり中央に集中し、ザ・センターフォワードという感じでいいですね。
また大槻監督も言っていましたが、ビルドアップがうまくいかないときでも、権田からタンキのロングボールでかなりの確率で前線で収める、最低でも、相手にクリアさせることができるので、陣地回復にもなるし、本当に助かりますね。
次節はブラジル・デーということで、北川選手とのツートップというのも個人的には見てみたいなと思っています。
決勝ゴールとなる先制点の西澤選手、解説の南さんも大絶賛していた宮本、左WBとしていつもよりも高いポジションを取り周りの選手も動かしていた吉田選手、途中から出場して前でボールを収めてペースを引き寄せたカルリ、今季7点目の北川、地元で気合のアシストの北爪など他にも素晴らしい選手はたくさんいましたが、また次の活躍の際に触れたいと思っています。
群馬について
最後に群馬ですが、この試合の後、大槻監督の解任が発表されました。非常に好きな監督だし、昨季は戦力的に他チームより優れているわけではいない群馬を、トップハーフの11位という成績にまで押し上げました。今季は、要の風間選手の怪我による離脱など、不運なこともあったように思います。ただ、確かに結果だけ見れば今季は最下位とういことで、苦渋の決断でしょうね。
こちら、群馬版のTHE REALなのですが、後半の内容が、ここまで流していいのと思うくらい衝撃的でした。個人的には今後の群馬の躍進に期待しています。
最後に
さて、明日5/11(日)はブラジルデーとしてホームに鹿児島を迎えます。ブラジル出身の3選手の活躍に期待ですね。必ず勝って7連勝をしましょう!
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