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後編: 清水エスパルス2025の上積み
後編では、清水エスパルスの2025年シーズンの戦術について、特に昨シーズンからの積み上げや変化の部分に焦点を当てて整理していきます。
前編で確認したように、今季の清水エスパルスの基本システムは昨季と同様に「4-2-3-1」と想定されます。
しかし、新加入選手の影響や戦い方の変化により、秋葉監督の言葉通り、昨季までの積み上げをベースにしつつも、いくつかの重要な「上積み」があると思います。
本稿では、その変化のポイントについて詳しく整理していきたいと思います。
はじめに
2025シーズンの清水エスパルスについて、昨季からの戦術的な変化や上積みとなるポイントを整理していきます。昨季の課題を踏まえながら、どのように改善が図られたのか、特に戦術面でのポイントを中心に掘り下げます。
昨季の清水エスパルスは、J2を優勝で終えJ1昇格を果たしました。しかし、得点力不足やゲームメイクの安定性、セットプレーの精度、守備面の強度といった部分には課題が残り、J1の舞台で戦うためにはさらなる戦術的な進化が必要とされていました。
こちらが昨季の基本フォーメーション。
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こちらが今季の基本フォーメーションです。変化がある部分は赤枠で囲っています。
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一見して、同じ「4-2-3-1」のシステムですし、過半数の選手が変わらないので、あまり変化がないように見えますが、実際には、大きな上積みが見られます。
後編では、その戦術的な上積みとなる4つのポイントについて詳しく解説します。
1. 両WGの特徴の違いによる戦術的な変化
今季の戦術面で最も大きな違いとして挙げられるのが、両WGの選手のキャラクターの違いです。
昨季のWGの特徴
昨シーズンの清水エスパルスにおいて、4-2-3-1のシステムでは、左WGにカルリーニョス・ジュニオ選手、右WGにルーカス・ブラガ選手がほぼ不動のレギュラーとして起用されていました。
ご存知の通り、カルリーニョス・ジュニオ選手は右利きながら左WGを務め、サイドに張るのではなく、中に切れ込んで右足でシュートを狙うプレーを得意とするタイプでした。逆に、左サイドの深い位置まで侵入して左足でクロスを供給するようなプレーはあまり見られませんでした。
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一方、右WGを務めたルーカス・ブラガ選手も右利きで、卓越したドリブル技術を持つ選手です。彼は基本的に右サイドに張りながらも、時には内側にポジションを取り、アイソレーションの状況でも独特のリズムのドリブルで相手を突破する能力に長けていました。得点も多く記録しましたが、そのほとんどが単独でのドリブル突破によるもので、サイドを深くえぐってクロスを上げるというよりは、中へ切れ込んでいくプレーが主流でした。
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この両WGの特徴が、昨シーズンの攻撃における大きな軸となっていたことが分かります。
今季のWGの特徴
今シーズンの清水エスパルスにおいて、両WGの人選とプレースタイルの変化は、昨シーズンと比較して大きな違いの一つとなります。
まず、左WGには、昨季のカルリーニョス・ジュニオ選手に代わり、同じくブラジル出身のカピシャーバ選手が入ります。カピシャーバ選手は左利きで、縦へのドリブル突破に非常に優れた選手です。サイドにワイドに張りながら、ゴールライン付近まで深く侵入し、左足でのクロスを得意としています。逆に、インサイドに切れ込んで右足でシュートを狙うようなプレーはあまり見られません。
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一方、右WGには、今季のレギュラーとして左利きの中原輝選手が起用されます。中原選手はドリブルに優れ、なおかつ左足のキック精度が高い攻撃センスに優れた選手です。彼はサイドに張って縦への突破を仕掛けるだけでなく、インサイド、いわゆるハーフスペースでのプレーにも長けています。また、逆サイドにボールがある際には、センターライン付近でポジションを取り、左足でボールを受けて中央からミドルシュートを狙う場面も多く見られるでしょう。ルーカス・ブラガ選手と比較すると、まず利き足が異なる点が大きく、また、プレースタイルもそこまでドリブル突破に固執するタイプではないと言えます。
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このように、昨シーズンのカルリーニョス・ジュニオ選手とルーカス・ブラガ選手という「右利きの両WG」から、今季はカピシャーバ選手と中原輝選手という「左利きの両WG」に変更されました。清水エスパルスは引き続き4-2-3-1のシステムを採用していますが、このWGの人選とプレースタイルの違いによって、攻撃の組み立て方には昨季から大きな変化が生じると考えられます。
両WGのキャラクターの違いによる今期の上積み
今シーズンの清水エスパルスにおいて、両WGのプレースタイルの変化は、周囲の選手の動きや求められる役割にも大きな影響を与えます。
昨シーズンの清水は、両WGが深い位置をえぐるプレーをほとんど行わなかったため、クロスからの得点機会が少ないチームでした。SBの山原選手や原輝綺選手、北爪選手がクロスを上げる場面はありましたが、WGの選手自体がサイドを深くえぐるプレーをしないため、現代サッカーにおいて有効な得点パターンの一つである「深い位置からのクロス」を活用するシーンは限られていました。これが、昨季の清水がJ2で思うように得点を重ねられなかった要因の一つであると考えています。
しかし今季は、左WGのカピシャーバ選手がまさに「深い位置をえぐってのクロスを得意とする選手」であり、彼のプレースタイル自体がそこに特化しています。右WGの中原輝選手も、ドリブルに優れ、左利きでありながら深い位置まで侵入して右サイドからクロスを上げたり、グラウンダーでのマイナスの折り返したりするプレーが多く見られると予想されます。これにより、ゴール前でクロスに合わせる形での得点チャンスが格段に増えていくと考えられます。
周囲のポジションへの影響①トップ
今季の清水のトップには、北川航也選手、ドウグラス・タンキ選手、アフメドフ選手の3選手が主に起用されると考えられます。
北川航也選手
比較的クロスに合わせる印象はあまり強くないかもしれませんが、実際にはクロスに対してヘディングやボレーなどでフィニッシュを決める能力は十分に持っています。むしろ得意なほうの選手ではないかと考えています。今季はクロスに対応するプレーが増えることで、彼の得点機会も増えていくでしょう。
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ドウグラス・タンキ選手
皆さんご存知の通り、非常にヘディングが強い選手です。今季はクロスが増えることで、彼の特性を活かした得点シーンがより多く生まれることが期待されます。
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アフメドフ選手
典型的なボックスストライカーであり、ゴール前での決定力が高い選手です。クロスが増える今季のスタイルは、彼にとって非常に相性が良く、得点を量産する環境が整うと考えられます。
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昨季の清水のトップは、どちらかというと中盤の選手とのワンツーや裏への抜け出しを軸にしたプレーが求められていました。しかし今季は、クロスに合わせてゴールを決めることがトップの選手にとってより重要な役割となります。
実際に、トレーニングマッチでは、カピシャーバ選手のクロスからドウグラス・タンキ選手がヘディングでゴールを決めるシーンも見られました。また、ジュビロ磐田とのTMでは、右サイドの高木選手からのクロスにファーサイドでドウグラス・タンキ選手が合わせる形もありました。これは、おそらくチーム全体で意識的にトレーニングを重ねている成果と考えられます。
周囲のポジションへの影響②トップ下
WGのプレースタイルの変化が大きな影響を与える次のポジションがトップ下の選手です。今季、トップ下にはスタメン候補として 乾貴士選手 または 小塚和季選手 が入ると想定されます。乾選手は2023シーズン、10ゴール10アシスト という素晴らしい成績を残しました。この10アシストの背景には、ウイングに 中山克広選手 というスピードがあり、裏抜けが得意な選手がいたことが大きな影響を与えていたと考えられます。
昨季のWGであった ルーカス・ブラガ選手 や カルリーニョス・ジュニオ選手 は、そこまでスピードを武器に裏へ抜け出してフィニッシュに行くタイプではありませんでした。しかし、今季の カピシャーバ選手 や 中原輝選手 は、中山選手により近いタイプであり、スピードを活かして裏へ抜ける動きが多く見られると予想されます。そのため、乾選手が両ウイングに対してスルーパスを供給し、決定的なチャンスを演出する場面が増えるのではないかと思います。
また、先ほどトップの選手の項目で述べたように、クロスに対して トップ下の選手が少し遅れた位置から飛び込む という形も多くなるでしょう。特に、マイナス方向へのグラウンダーのクロス はゴールが生まれやすい形の一つであり、そういったクロスに対して乾選手が飛び込んでフィニッシュを狙うシーンが増えることが期待されます。
小塚和季選手がトップ下に入った場合も同様です。彼も乾選手と同じくパスが得意な選手であり、スルーパスによるチャンスメイクはもちろんのこと、得点を決める能力も備えています。そのため、マイナスのクロスに合わせてフィニッシュする場面も多くなるのではないかと考えられます。
周囲のポジションへの影響③サイドバック
今シーズンの清水エスパルスにおいて、WGのプレースタイルの変化が大きく影響を与えるもう一つのポジションがサイドバックです。
左WGのカピシャーバ選手の後ろを支えるのは、左サイドバックの山原怜音選手。右WGの中原輝選手とペアを組むのは、右サイドバックの高木践選手または北爪健吾選手になります。
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左サイド:カピシャーバ選手 × 山原怜音選手
昨シーズンの左ウイングであったカルリーニョス・ジュニオ選手は、どちらかというとハーフレーン(やや内側のレーン)にポジションを取ることが多かったため、左サイドバックの山原選手は、サイドレーン(タッチライン際)を駆け上がる役割を求められることが多くありました。もちろん、逆のケースもありましたが、基本的にはカルリーニョス選手が内側、山原選手が外側という形が多かったです。
しかし、カピシャーバ選手は左利きであり、サイドレーンにワイドに張るプレーを好む選手です。そうなると、原則として山原選手は左サイドのハーフレーン(内側)でのプレーが増えると考えられます。
山原選手は両足を使えるものの、基本は右利きの選手です。そのため、ハーフレーンでのプレーが得意であり、内側から縦に抜けていくプレーや、カピシャーバ選手からのボールを受けて右足で内側にトラップし、クロスやシュートを狙うシーンが増えてくると思われます。この点で、カピシャーバ選手との相性は抜群であり、左サイドでの攻撃のバランスが非常に良くなると期待できます。
右サイド:中原輝選手 × 高木践選手 or 北爪健吾選手
一方で、右ウイングの中原輝選手は、サイドレーンでプレーすることもありますが、ハーフレーンやセンターレーン(中央寄りのエリア)でのポジション取りも得意な選手です。そのため、右サイドバックに入る高木選手や北爪選手は、逆にサイドレーン(一番外側)を駆け上がってプレーすることがより求められるようになると考えられます。
幸いなことに、高木選手も北爪選手も右利きの選手であり、サイドレーンを駆け上がるプレーの方が得意なタイプです。特に高木選手はサイドバックとしての経験が浅いため、インサイドで複雑なプレーをするよりも、シンプルに右サイドを駆け上がる形の方が適していると思います。
実際に、トレーニングマッチでは、高木選手が右サイドを駆け上がり、乾選手からのスルーパスを受けてアーリークロスを送り、ドウグラス・タンキ選手のゴールをアシストする場面がありました。このプレーはまさに、右ウイングの中原選手と高木選手の役割分担が上手く機能した結果と言えるでしょう。
小まとめ
ここまで述べてきたように、両WGのキャラクターの違いによって、攻撃の形が大きく変化します。それに伴い、トップ・トップ下・サイドバックといった周囲の選手のプレーにも影響が及ぶことになります。
特に、トップの選手はクロスに合わせるプレーが増える、トップ下の選手はスルーパスの供給とマイナスのクロスへの飛び込みが重要に、SBの役割はWGの特性に応じて大きく変化し、適材適所の組み合わせが生まれる。この3点が、昨季の清水エスパルスと比較して、大きな積み上げとなる部分だと考えています。
今季の清水エスパルスのWG起点の攻撃がどのように進化していくのか、非常に楽しみです。
2. 乾貴士選手の負担軽減と「戦術乾」の強化
続いて清水エスパルス2025シーズンの 戦術に関する昨季からの大きな上積み 差分の二つ目は、前編でも少し語っていますが乾貴士選手の負担を軽減することによる、「戦術乾」の補強ですね。
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ここの部分について話を書いていきたいと思います。このポイントに関しては大きく二つあります。
①小塚和季選手の獲得
何と言っても、今季の補強の中で最も重要なものの一つが小塚和季選手の獲得です。小塚選手は、川崎フロンターレから韓国の水原に移籍し、その後ソウル・イーランドでプレーしていました。今回、反町GMの強い希望でオファーを出し、完全移籍での加入が実現しました。
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小塚選手は、天才肌のプレーヤーであり、相手の予想を超えるような創造性の高いパスを出せる選手です。過去の清水エスパルスの選手で例えるならば、小野伸二選手に似たタイプと言えるでしょう。
小塚和季選手の獲得がもたらすメリットとして、まずは乾貴士選手の代役として、システムの維持が可能になります。昨季やその前のシーズンでは、乾貴士選手が欠場すると、チームとして戦い方を大きく変えざるを得ない状況でした。しかし、小塚選手の加入により、仮に乾選手が不在になった場合でも、基本システムである「4-2-3-1」を維持したまま戦うことが可能になります。もちろん、小塚選手と乾選手ではプレースタイルが異なるため、多少の変化はあるでしょうが、それでも戦術の根幹を変えずに戦えるのは大きなメリットです。
また乾選手が出場できる場合でも、その負担を軽減できます。昨季の清水エスパルスでは、乾選手が90分間フル出場することが多かったため、シーズン終盤にかけて負担が大きくなっていました。小塚選手がいることで、試合途中で交代しながら起用することが可能になりますし、場合によっては小塚選手がスタメンに入り、乾選手が後半から投入される形も考えられます。これにより、乾選手のコンディションを維持しながら、シーズンを通して安定したパフォーマンスを発揮できる環境が整ったと言えます。
さらに、ゲームメイクのバリエーションが増える点もあります。乾選手はドリブルやターンで局面を打開できる選手ですが、小塚選手はパスのアイデアや展開力に長けたタイプです。どちらの選手を起用するかによって、チームの攻撃のバリエーションが増え、対戦相手によって柔軟な戦い方ができるようになると考えられます。「乾と小塚の共存」も楽しみなオプションになります。
小塚和季選手の加入は、清水エスパルスにとって単なる補強ではなく、チーム戦術の柔軟性と安定感を大きく向上させるものとなると期待しています。
②乾選手の負担を減らせるボランチの組み合わせの進化
2つ目がボランチの補強による組み合わせの進化の部分です。
昨シーズン、清水エスパルスはシーズン前半を通じて、中村亮太朗選手と宮本航汰選手のコンビでボランチを固定して戦うことが多くありました。夏に宇野禅斗選手が加入した後は、
宇野禅斗選手 × 中村亮太朗選手
宮本航汰選手 × 中村亮太朗選手
宇野禅斗選手 × 宮本航汰選手
といった組み合わせが多く見られました。
役割としては、中村亮太朗選手が後方でポジションを取り、バランスをとりながらボールを散らす役割。宇野禅斗選手と宮本航汰選手は、運動量を生かしピッチを縦横に動く「ボックス・トゥ・ボックス」型の選手としてプレーし、時には前線に顔を出して攻撃にも関与する役割を主にこなしました。
しかし、昨季のボランチ陣にはゲームメイクを本職とする選手が少なかったため、結果的に乾貴士選手が下がってボールを受け、カルリーニョス選手とともにゲームを組み立てるシーンが多く見られたのが特徴でした。
今季のボランチは、中村亮太朗選手が移籍した代わりに、弓場将輝選手、マテウス・ブエノ選手、嶋本悠大選手が加入。また、昨季は主に左サイドやトップ下でプレーしていた矢島慎也選手も今季はボランチを主戦場とする予定です。
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さらに、小塚和季選手もボランチでプレー可能であるため、ボランチの選手層が一気に厚くなりました。特に注目すべきは、攻撃的なボランチのタイプが変わることです。今季は、矢島慎也選手、マテウス・ブエノ選手、小塚和季選手といったゲームメイクが得意な選手が起用されることが予想されます。マテウス・ブエノ選手についてはまだ実戦でのプレーを見る機会がありませんが、ブラジル人選手特有の足元の技術や展開力の高さが期待できるため、ゲームメイクの安定感をさらに向上させる要素となるでしょう。
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この変化により、ボール回しの主導権がボランチにも分散されることで、乾貴士選手が下がってくる必要が減り、前線での負担が軽減されることが期待できると思います。
補足: 弓場将輝選手の加入がもたらす上積み
ボランチの話の補足として、弓場将輝選手の加入が清水エスパルスにもたらす重要なポイントについて触れておきたいと思います。弓場選手はまだ22歳と若い選手ですが、昨季J2ではインターセプトランキング第2位という成績を記録しました。これは、いわきFCの大西悠介選手に次ぐ数字であり、彼の守備面での貢献度の高さを示すものです。昨季は大分トリニータで、保田堅心選手とともに若きボランチコンビを形成し、中盤の守備を支える役割として非常に大きな貢献を果たしました。
昨季の清水エスパルスのボランチ陣には、明確に守備的な特長を持つ選手がいなかったことが課題の一つでした。そのため、ボランチが相手の攻撃の芽を摘む守備的な役割を果たすことが比較的少なく、中盤でのプレスの強度やボール奪取力にやや課題があったといえます。
弓場選手の加入により、清水エスパルスのボランチに守備的な強みが加わることになります。試合の展開に応じて守備重視の布陣を敷くことができ、特にリードした試合の終盤などに弓場選手を投入してゲームを締めるといった戦略も取れようになります。
いきなりスタメンでの出場は難しいかもしれませんが、弓場選手がもたらす戦術的なバリエーションの拡大も、昨季からの上積みになることを期待しています。
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3. 左利きのキッカーによるセットープレ改善
昨季の清水エスパルスにおいて、セットプレーにおける課題の一つは左利きのキッカーが不在だったことでした。これにより、右サイドのコーナーキックやフリーキックでは、本来左足の方がゴールの可能性が高い場面でも、右利きの選手が蹴らざるを得なかったという状況が生じていました。
昨季のセットプレーのキッカーは、主に山原怜音選手、矢島慎也選手、西澤健太選手の3人が担当していました。精度の高いキックをもっている選手ではあるものの、この3人とも右利きであるため、右サイドのコーナーキック、右サイドからの直接狙えるフリーキックといった場面では、左利きの選手が蹴る方が有利な状況でも、右利きの選手が対応するしかなかったのが実情でした。(守備練習でも左足のセットプレーに対する対応がやりづらかったという面もありました。)
今季は、アフメドフ選手(トップ)、カピシャーバ選手(左WG)、中原輝選手(右WG)、弓場将輝選手(ボランチ)と左利きの選手が多く加入したことにより、利き足のバランスが大きく改善されました。
特に、中原輝選手の存在がセットプレーの改善において最も大きなポイントとなります。
中原選手は左利きで、非常に精度の高いキックを持つプレーヤーです。すでにトレーニングマッチでは、メインのセットプレーキッカーを務めており、左足のキックの精度の高さが証明されています。コーナーキックの精度が高く、インスイング・アウトスイングともに対応可能で、直接フリーキックを蹴れることにより、昨季まで右利きの選手が蹴っていたセットプレーの精度が向上し、攻撃のバリエーションが広がると考えられます。
すでにジュビロ磐田とのトレーニングマッチでは、右サイドからの左足のコーナーキックでドウグラス・タンキ選手の先制点をアシストするなど、セットプレーからの得点機会を生み出しています。また、その試合では高木選手へのコーナーキックを含め、いくつかの決定機を演出しており、今季の清水エスパルスがセットプレーから得点を増やせる可能性が高まっていることが伺えます。
中原輝選手の加入によるセットプレーの質の向上は、昨季の清水エスパルスにはなかった大きな上積みと言えます。今季、清水エスパルスがセットプレーからどれだけ得点を奪えるかが、チームの勝敗を大きく左右するポイントの一つとなるでしょう。
4. 正GKの変更によるビルドアップの向上
最後に挙げたいのがゴールキーパーについてです。昨季の清水エスパルスの正ゴールキーパーは権田修一選手でした。権田選手は、ワールドカップ日本代表の正守護神として経験値、セービング技術、コーチング力など、チームに与える影響が圧倒的な存在でした。一方で、今季の正ゴールキーパーとして期待されるのは沖悠哉選手です。沖選手は若い頃から鹿島アントラーズで正ゴールキーパーを務めるなど、非常に能力の高いゴールキーパーであり、権田選手とは異なる特徴を持っています。
沖選手が権田選手よりも優れている要素の一つが、キックの精度の高さです。現代サッカーでは、ゴールキーパーがビルドアップにどれだけ関与できるかが非常に重要になっています。後方からの組み立てにおいて、
ゴールキーパーがショートパスで正確にボールを展開できるか
ロングパスで前線に精度の高いボールを供給できるか
これらの能力が、チームの攻撃の起点として求められます。
その点で、沖選手のキック精度の高さは、昨季の清水エスパルスにはなかった新たな武器となると思います。すでにトレーニングマッチでゴールキーパーをビルドアップに積極的に組み込む形が見られました。
例えば、沖選手が最終ラインに加わり、ジェラ選手、蓮川選手と3バックのような形でビルドアップを行う、隙を見てボランチやトップ下の選手に縦パス(くさび)を供給する、ロングパスでカピシャーバ選手や中原輝選手のスピードを生かし、裏へのボールを送るといったプレーです。
沖悠哉選手が正ゴールキーパーとしてプレーすることで、ゴールキーパーからのビルドアップが昨季以上に進化し、攻撃の選択肢が広がることが期待されます。
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総括
ここまで、清水エスパルスの2025シーズンにおける大きな戦術的な上積み・差分について、4つのポイントを挙げてきました。
両ウイングのキャラクターの違いによる戦術的な変化→ カピシャーバ選手と中原輝選手の特徴を活かし、WG及び周囲の選手の攻撃スタイルが変化
乾貴士選手の負担を軽減することによる「戦術乾」の強化→ 小塚和季選手やボランチの新戦力の加入により、乾選手が前線に集中できる環境を整備
左利きのキッカー(中原輝選手)によるセットプレーのバリエーション拡大→ 右利き偏重だった昨季から改善され、精度の高い左足のセットプレーが可能に
正ゴールキーパーの変更によるビルドアップの進化→ 沖悠哉選手のキック精度を活かし、ゴールキーパーからのビルドアップが強化
この4点が、昨季の清水エスパルスと比べた際の大きな戦術的な上積みになると考えています。
開幕に向けて
J1の舞台では、J2とは異なり苦しい時期もあるかもしれません。しかし、サポーターがワンファミリーとしてチームを支えながら、J1の舞台を共に戦っていくことが何より重要だと思います。
今季も、清水エスパルスの成長を楽しみながら、新たな戦術的な変化や進化を注目していきたいと思います。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。いよいよ開幕まであと3日。今季の清水エスパルスがどのような戦いを見せるのか、非常に楽しみですね!ONE FAMILYで選手・監督・スタッフを後押ししましょう!!今季もぜひよろしくお願いします!!
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