「スケッチブックの中で」シリーズ:サラ・ウィルソン編
「スケッチブックの中で」へようこそ。
次世代の作画手法、画材、マインドセットを探求することを目的とした「スケッチブックの中で」シリーズ。本稿では、スケッチブックを通じて、世界にその名を刻んでいる、新進気鋭の作家の方にお話を伺おうと思います。
フリーランスのイラストレーター兼アニメーターで、美しい作品を描いていらっしゃるサラ・ウィルソンさんにお話を伺いました。
まずは、作品を描くようになった経緯を教えて下さい。
そうですね、私は物心ついた時から、描くということが自分のライフスタイルに自然となっていた気がします。子供の頃から、母は私の作品を褒めてくれていて、それが嬉しくていつも絵画や工作をしていたことを覚えています。
でも、自分を芸術家だと思ったことは一度もありません。家族の中で美術を生業としている人は一人もいなかったし、美術に情熱を持ち始めたのも就学するようになってからでした。
通っていた学校の美術の先生に恵まれて、作品作りが楽しくなる環境をいつも提供してくれていました。学校を卒業するときには、美術の成績もAレベルで修了し、そのままマンチェスター美術学校(MMU)へ進学しイラストレーションを学びました。
その頃から作品を創り上げる事への情熱が強くなっていきました。そこでの経験が現在の美術と仕事に結びつくきっかけになったことは言うまでもありません。
卒業してから今に至るまでは、どんな経験をされましたか?
他の方々と同様、まるでローラーコースターに乗っているかのような人生でした。何をしたいのかも分からない状態でした。
当初は、フリーランスになることも嫌だっていうストレスを感じていたので、普通の仕事に就きましたが、自分に自信を持ち始めたところで、自分だけの力で何とかやってみようとフリーランスになることを決めました。
最初は、本当に苦労の連続でした。全ての障害を一人で乗り越えなければなりませんでしたが、突然全てのことが一つに繋がったような感覚を覚えました。独り立ちした頃は「人生の選択を間違えた」と途方にくれましたが、ある日突然、自分の選択は間違えではなかったことを確信できた瞬間がありました。
自分が一番誇れた芸術的経験は何かありましたか?
2020年、パンデミックの中で精神的にも苦しい時期を過ごしました。その時は、本当にやりたいことをやっていないと何度も感じました。その思いの中でフリーランスになったことが最大の成果だったと確信しています。
今までやりたくないと思っていたことに舵を切ったことは、自分でも衝撃的でしたが、自分のスタイルを貫けるのは、本当にやりがいを感じられます。
誰でも、人生のどこかで大きな決断を迫られると思いますが、そんな時、思い切って一歩を踏み出すことが、私には必要でした。
自分の作品を見て、どう感じてもらいたいと考えていますか?
落ち着きですね。なにか、夢の中にいるような。部分的には、馴染みがありながらも、初めて来た場所。経験したことないことが起きているのに、恐怖心はない。非現実体験と静けさに満ちた夢の中の世界ですね。
作品に描かれているキャラクターは、何かにインスパイアされたものですか?
インスパイアされる元になった特定の人は存在しません。自分の人生の中で見た様々な人からインスピレーションを受けて生まれたキャラクターです。
「観察」が一番のインスパイアに必要な重要な要素になっています。生み出すキャラクターが、非常に曖昧な存在で、それを見る人達がそれぞれの想像の中で彼らなりのストーリーを作って、そのキャラクターがその中でどういう役を演じていくのかを自由に感じてもらいたいと思っています。
個人的に私が描くキャラクターは、鑑賞される方の夢の中で出会う一人の人物という位置づけで描いています。
馴染みがあると感じながら、それが一体誰なのかが分からない感覚、皆さんもあるのではないでしょうか?夢の中に出てくる人物って、そういう人物が多いですよね。
サラさんの作品には、ぬくもりや、愛情、人との関わり合いの大切さを感じますが、作品が自分の人生に反映していると感じることはありますか?
私は、作品の中で愛情や友情のテーマを探求するのが好きです。
凄い親しくしている友人がいます。年齢を重ねながら出会っていく人で、そこには攻撃性もなく調和を重んじ、幸福感に満ちた、そんな人です。
パートナーや家族の様に、離れることもなく、とにかく幸せを感じるような人達のことです。
人との関りに関して言えば、私はいつも大都市で暮らしていました。ノッティンガムで育ち、今はマンチェスターで暮らしています。だから、いつも多くの人達に囲まれて暮らしています。
そういう感覚を自分の作品に組み込むことが凄く好きです。人との出会いは非常に好きです。特にカップルと出会ったり、「彼らが一緒にやって楽しいことって何かな?」とか考えながら、作品の中で会話をしていくのが好きです。
作品に使用されている色調が随分幅広いですが、色合いに何か影響を与えているものはありますか?
花からインスピレーションを受けることが多いですね、特にケシや野生の花が多いです。
ヒルマ・アフ・クリントの作品や彼女のパステルの使い方も好きで影響を受けています。ホットピンクやイエローなどの大胆な色を多く使った色合いにも非常に惹かれるものがあります。
そういう発想は、私にはなくて、色合いに関しては、系統に則った使い方が自分のやり方ではあるので、自分にない発想に惹かれることは多いです。
初心を忘れないためにしていることはありますか?
自分が好きなものを作品にするということを心がけています。個人的には、色々リサーチすることが好きで、時には、作品を仕上げる事よりも、研究することに没頭することもあります。
いわゆる「トレンド」に流されるのは簡単ですが、スタイルを確立するには、自分が好きでこだわっているものが何なのかを突き詰める必要があると思います。そうでないと、自分独自のものを創り出せないと思っていますから。
パートナーには、「横を向いているより、常に前を向いている方がいい」とよく言われますが、全くその言葉通りです。他の人がやっていることを追いかけるのではなく、自分のスタイルに集中をすることが重要だと考えます。
質の高い画材を使うことの重要性は何だと考えていますか?
アーティストとしては、自分の作品に最も適している素材を見つけなくてはならなくて、いわば素材こそが、作品を仕上げる最後の素材になると思っています。
私は、非常に多くのものを試し漸く自分の作品に合う素材を見つけました。その質によって、仕上がりが大きく異なることがあるため、自分が考える高品質のものを使うようにしています。
顔料は、鮮やかでないと作品に満足できなくなります。また品質の高いものを使うことで、いわゆる編集を施す必要のない唯一無二の最高傑作を作っているということを意味します。
モニター上で見るものと同様のものを描きあげることに拘っているために、素材には妥協はしません。
ダーウェントは、作品にどれくらい価値を提供していると考えていますか?
ダーウェントは、アーティストのニーズに何でも応えてくれるような存在です。
物心ついた時から、いつも近くにあったものでした。高価なものだとは思っていましたが、決して威圧的な存在感を感じさせることはなかったので、親しみを持てました。
だからこそ、趣味とプロと両方の使用として使ってきました。そういう素材はなかなかないものなので、そういう存在こそが非常にユニークだと感じています。
パステル固形水彩は、今回の作品にはどれくらい使用されていますか?
パステル固形水彩は、素晴らしい追加素材だと思いますし、間違いなく私のコレクションの上位に位置付けられています。
屋外でペイントを使用するのは、道具の持ち運びが非常に面倒なので、屋外でのペイントはしないようにしていました。でも、固形水彩の形は、持ち運びに何ら支障はないので、躊躇することなく屋外でもペイントが可能になったことは非常に大きな変化だと思います。
パステル固形水彩のレビューを3つの単語で表現するとすれば何ですか?
ユーザーフレンドリー、高い汎用性、鮮やかな色合い、だと思います。
ダーウェントの画材は、作品を仕上げる上で、どのようなお役に立っていますか?
私が一番気に入っているのは、油性が水彩と上手く混ぜ合わさる時です。今まで異なる素材を混ぜ合わせることで、上手く混ぜ合わさることは絶対にない、と思ってきました。実は、ダーウェントの素材は、この期待をいい意味で裏切ってくれました。パステル固形水彩の上にライトファストを重ねた時、作品の求める完璧な質感を実現させることが可能だということが分かりました。
サラさん、今回は貴重なお時間を頂き、本当にありがとうございました。
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