新潟大学の非常勤講師6名が考える、社会に「希望を配る」人材育成論
2024年4月より、6名のDERTAメンバーが新潟大学工学部の非常勤講師に就任します。これにより、工学部協創経営プログラム3年生を主な対象とした「協創経営プログラム」の講義を担当します。
本講義は、経営管理の基本とともに企業と社会の関係性をテーマに据えました。社会における企業、経営、サービスデザイン、プロジェクトマネジメントについて理解を深め、最終的に実際に動くアプリケーション開発の基礎知識まで一気通貫でお伝えする予定です。
講義を設計するにあたり重視したのは、企業成長と社会課題の解決の両立をめざす「インパクトスタートアップ」の観点。そこに込められた講師たちの思いや、各講義の概要・狙いを講師に就任した6名に話を聞きました。
話し手
代表取締役CEO 坂井 俊
取締役CDO 須貝 美智子
執行役員 古林 拓也
プロダクトマネージャー 米山 知宏
サービスデザイナー 明間 隆
プロダクトマネージャー 八子 勇一郎
学生に届けるのはビジネス現場の“生きた学び”
ーーー なぜ今回、DERTAが非常勤講師を引き受けることになったのでしょうか?
須貝:
今回お声掛けいただいた新潟大学工学部工学科協創経営プログラムの東瀬先生とは、大学の同窓会で知り合いました。その際仕事の話で意気投合したことをきっかけに、それ以降東瀬先生はSNSを通じてDERTAの動きを見てくださっていて。「ビジネスの最前線にいるDERTAなら、“生きた学び”を学生に届けられる」と考えてくださったそうです。
本講義では、工学部の先生方による体系立てて学べる講義に加えて、DERTAメンバーの講義で実践内容やワークショップに触れられるようになっています。そうすることで、学生には実社会で即戦力となるための知識を身につけて欲しい。と考えられたそうです。
まさかこんなご縁をいただけるとはびっくりしました。
坂井:
新潟大学は私の出身校なんです。元々、いつか母校に恩返ししたいという気持ちがあったので、今回新たなチャレンジの機会をいただいてワクワクしました。
加えて、DERTAは地域の中で人と企業を繋ぐ社会装置になることを使命としています。そのためには、地域のあらゆるステークホルダーとパートナーシップを築いていく必要がある。そういった意味で、会社としても大変嬉しいお声かけでした。
また、私も東瀬先生同様「DERTAのメンバーならできる」という感覚があったのも確かで。DERTAのメンバーは多様なバックボーンを持ちそれぞれの領域の第一線で活躍しています。彼ら彼女らの生きた知見をアカデミックな部分と接続することで、何か提供できるものがあると考えました。
大学の講師というと何かを立派に教える必要があるものだと思われがちですが、私自身には何か特別なものがあるわけではありません。ですので、従来の「教える・教えられる」という関係ではなく、「共に学ぶ」関係での講義を実践していけたらと考えています。
スタートアップを疑似体験
ーーー 古林さんは、講義全体の設計もメインで担当されたと聞きました。設計にあたり意識した点はありますか?
古林:
「個人・経営・社会の一連のつながり」を伝えられるよう意識しました。これまでの社会人経験を通じて多くの素晴らしい会社に出会う中で肌で感じていたことがあります。それは、社会とどのように繋がっていくのかを考え体現されている会社は、従業員もその考えを体現している。その結果、商品も愛され、企業体としても成長しているということ。
こうした経営哲学をもたれる経営者の方は、地方にも多くいらっしゃいます。そんな方々と出会い感銘を受ける中で企業は「社会の課題解決の器」としての動きをすることができるのだと考えさせられました。そんな考え方の延長線上に、「インパクトスタートアップ」という企業の形態が存在します。「社会的インパクトと財務的リターンを両立するスタートアップ」という意味です。DERTA社もインパクトスタートアップを志向しています。講義を通じてそんな企業の在り方を学生にも伝えたく、社会課題の解決と経済的な成長を両立する「インパクトスタートアップ」に関する学びの視点を盛り込んでいます。
講義全体の流れとしては、いきなりビジネスの話ではなく最初に社会全体をシステムとして捉え俯瞰する考え方を知っていただきます。その次にビジネス全体や経営について理解してもらう。その後、サービスデザイン、プロジェクトマネジメントと粒度を落とし、最後に実際に社会課題を解決するソリューションを実装する(=Webアプリケーションを開発する)ところまで学んでいただきます。
この一連の流れはスタートアップがやっていることと同じです。ビジネスの疑似体験ができる講義になったと思っています。考え方や俯瞰図はDERTAのメンバーが実際に現場で使っているものばかり。これをそのままお伝えします。
本講義は、システム工学3年生の必修科目としての扱いになるそうです。というのも、通常、工学部には実際に手を動かして学びを深める実験科目があります。しかし、特性上の理由からこれまでシステム工学だけ実験科目がなく、先生も講義の設計に苦労されていました。
本来、理系学生からすると実験科目はエネルギーをかけて学びを深める科目。なので、単なるアプリの実装だけでなく、それが経営にも社会課題にも繋がっている。一気通貫を体感してもらう講義を設計しました。
東瀬先生と講師陣で、1日中会議室にこもって講義内容をブラッシュアップした日は脳に汗をかくほど思考し議論も白熱しました。おかげで納得のいく講義をつくりあげることができたと思います。
ーーー ここからは、講義の詳細について聞かせてください。全82回の講義、DERTAメンバーは交代で講師を務めていくそうですが、それぞれどんな講義を担当されるのでしょうか?
1.システムデザイン概論
古林:
僕は、情報通信企業でのITプロジェクトマネジメントや中山間地域でのローカルビジネスの経営経験があるので、米山さんと一緒に「システムデザイン概論」というテーマで世の中や経営がどのような仕組みで動いているのかをお話する予定です。
米山:
古林さんと僕は、プロジェクトマネジメントについての実践的なアプローチをご紹介します。具体的には、「スケジュール管理」や「タスク管理」などの機械的なマネジメント手法ではなく、チームで柔軟にプロジェクトを進めていくための考え方や具体的な方法論などです。
本講義を通じて、プロジェクトをマネジメントするスキルは、アウトプットするものの質に直接的に影響を与えるものであることを知り、「プロジェクトの進め方に目を向けることの重要性」を知っていただきたいです。
事業やサービスなどを生み出していくためには、当然、事業やサービスの作り方を知っている必要があります。それだけでなく、現代のプロジェクトがチームで新たな取組に挑戦する以上、チームで物事を進めるやり方も事業やサービスの作り方とともに重要です。より複雑化する昨今のプロジェクトにおいて、プロジェクトマネジメントの重要性がより高まってきているんです。
今回の授業を通して、チームでプロジェクトを進めるために必要なことを学び、今後の社会人生活にも活かしていただきたいですね。
2.サービスデザイン概論
須貝:
私は、明間さんと一緒にサービスデザイン概論のテーマを担当します。
あまり聞きなれない方もいらっしゃると思いますが、サービスデザインは「顧客の視点を重視し、ニーズを理解してサービスを継続的に改善していくこと」が特徴。つまり昨今の多くのビジネスで必要な考え方です。 顧客中心のアプローチを取り入れることで、顧客満足度が向上しビジネスの成果に直結します。
また、サービスに関わるすべての方と同じテーブルで議論することにより、顧客中心という共通の軸ができるんです。そうすることで課題感や向上させるべきポイントが明確になり、共有もスムーズになり生産性が向上する効果も期待できます。そんなサービスデザインの基礎を学びワークショップを行うことでより実践的な知識が身につくような内容にしたいと思っています。
また、VUCA(ブーカ:物事の不確実性が高く、将来の予想が困難な状況を意味する造語)の時代、現場での実践内容も日々進化し続けているため、自分たちの講義内容や感覚が正しいとは言い切れません。私たちも学生の皆さんから学ぶことがたくさんあると思いますので、感じたこと、思ったことを率直に聞かせていただけるような場づくりをしたいと思います。
明間:
自分の作りたいものを自分1人で作ることはシンプルですが、チームで作るべきものを見定めて、共に気持ちを寄せて作ることはとても複雑で難しいことです。また、自分たちが作りたいものだけに偏らず、使う人にとって価値のあるものを作ることも重要です。
そのための武器となる「ユーザー視点」と「共創のプロセス」の両面を学べる時間にできればと思っています。
サービスデザイン概論では、サービスデザインの方法論を学んで実践することを通して、「世の中にとって価値のあるものを、チームで自分たちらしく創るために、私たちはどうしたら良いだろうか?」という問いに一緒に向き合い探究できる時間をめざします。
サービスデザインのメソッドは色々な本が出ているので、今回の講義を経験し入り口に立っていただき、学習や現場での実践の助けにしてもらいたいです。残念ながらこの領域は学んだことを形式的に実践するだけでは効果が出ないことが多い。なので、できるだけ私自身の現場での葛藤や気づきも合わせて共有できるようにしたいと考えています。
基本的なメソッドや知識をお伝えしつつ、実践しながら一緒に不確実なところにも向き合います。今回の講義を出発点として、受講される方のそれぞれで日々の実践にとって新たな探求のスタートラインにしてもらえたら嬉しいです。
3.アプリケーション開発
坂井:
八子さんと一緒に行う講義終盤の実践パートでは、地域課題の解決の一環として、まずは大学内の課題解決を実現するアプリケーションを作っていただきます。実際に手を動かしてアプリケーションを作り、想定利用ユーザーにインタビューを行いながらブラッシュアップします。そうすることで、デザイン思考をベースにした課題解決や、アントレプレナーシップ(起業家精神)を体得することをめざします。
これは、学び方としてハマる方もいれば、異なる領域に戸惑う方もいるかもしれません。ですが、デザイン思考の入り口として仮説と検証を繰り返すことを一度経験してみてほしいです。
八子:
このパートでは、仕様を設計しプロトタイプを作成したのち、プログラミングの知識やスキルがなくともWebアプリを開発できるノーコードツールで実際に動くものを作ってみるところまで体験いただきます。
昨今、生成AIは特に盛り上がりを見せているのでそういった最先端のトレンドにも触れてもらえたらなと思っています。ただ、プロトタイプ作成で使用するノーコードツールの選定に苦戦していて。当初、Googleスプレッドシートと連携できる AppSheetが良いと思っていたのですが、決めかねています。と言うのも、生成AIを含めてこの界隈はここ半年ほどで驚異的なスピードで変化しているんですよね。講義を設計したタイミングで良いと思っていたツールが、時間を経てもう一度検討すると本当にそれで良いのか悩んでしまって。
ノーコードツールだけでなく、今は対話型AIとの会話を通じてアプリが作れてしまう時代。せっかくなのでツールも最新トレンドを踏まえて決定したいんです。潮流を読みながらまだ決めかねているので実際の講座を楽しみにしていてほしいですね。
講義を受けてくれる方には「作る」面白さと難しさを感じてほしいです。主に工学部の人が対象なので、ものづくりの楽しさは肌でわかっている方が多い気がしますが、その気持ちをさらに深めてもらえたら嬉しいです。
きっと、学生さんにとってストレスフルなパートになると思うんです。今まで学んだこととに加え、ユーザーの声という一次情報を掴んだ上で開発に挑んでもらうので。だからこそそれを楽しんでほしい。現実のスタートアップってそんなもんですしね。面倒だけど楽しい。全く予想もしなかったものを作ってほしいですよね。
社会変革に踏み出す人材へ
ーーー 最後に、本講義全体を通して学生さんに伝えたいことはありますか?
古林:
大学を卒業してすぐにやりたい仕事ってできないものです。分業されているため、今回の講義のように一気通貫で担うことは実社会ではほとんどありません。なので、講義を通じて手応えと方向感を見つけて、社会に出て何年かかけて本当に自分のやりたいことにたどり着いてほしいです。
この科目は、社会課題を解決して世の中に価値を届ける実践知がかなり盛り込まれています。社会人が受講しても得るものがあるくらい、DERTAメンバーの叡智を余すことなく伝えていきます。
ここまでやるのは、未来を作るのはビジョナリーな若い人たちのエネルギーだからと信じているからです。本講義を受けたみなさんが、いつか社会を良くするために一緒に歩む仲間になってくれることを願っています。
坂井:
本講義のエッセンスを体得した方は、おそらくどんな組織でもどんな環境でも自ら課題を見つけて検証し、社会に価値を提供していく人に育っていくと思っています。願わくば、受講後に在学中から小さくてもいいのでサービスや事業をつくり、誰かの悩みを解決する。そんなポジティブに社会変革する存在になってほしいです。
社会変革というと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、隣にいる人の悩みを解決することもその一つだと思うんです。ネガティブなワードが飛び交う世の中。ですが、見方を変えるともっと一つひとつをポジティブに変えていけるし、そのチャンスが生まれていると捉えることもできます。
どんな社会であれ、常に希望は転がっているものです。そんな希望を見つけて前進できる人であってほしいです。そして、そんな学生たちを受け入れられる会社に、会社組織も変わり、そういった人材が活かされる社会になっていったらいいなと思うんです。
本講義を通じて、ポジティブな社会変革を巻き起こすきっかけになることを願っています。