【短編小説】 きみが苦いといったので

珈琲なんて
飲むつもりなかったのに
きみが苦いといったので
一口飲んだ
その日から、珈琲を頼むようになった

季節は流れ
好きな人ができたという彼女と別の道を歩むも
喫茶店の中、すれ違う

きみは苦いといった珈琲を懲りずに啜って
少し顔をしかめて、また啜った

この苦い汁が
ぼくの80%になってしまった
責任を取ってほしいけれど

きみは
後からやってきた人の前で
苦そうに珈琲を啜り
その人はそれを
愛おしそうに
見つめたりなんかしちゃったりして

ぼくはただ
80%珈琲男にされた
悲しき男として
そこにいるほかなかった

いや
本当はかなしくないのかもしれない
かなしくないのかもしれないけど
かなしいことにすると
珈琲がより美味しくなることに
気づいてしまったのだ


今日も、珈琲は美味しい。

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