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ケインさん

ケインさんは、去年、僕の周りで色々と大変なことがあったときに、縁があって行きはじめたバーのマスターだ。

歳は40歳くらいらしいけど、スッキリした顔に痩せ型の体型も相まって、見た目は30手前くらいに見える。

ケインさんは、佇まいがなんというか軽やかで、顔も一重でスッキリしていて、カゲロウのような、擬音でいうと、「ひょろ」っとそこにいる感じの人だ。
いつも彼の場所ではジントニックを飲むのだが、絶妙なタイミングで「次行く?」と声をかけられるので、気づいたら思ったより沢山飲んでいる。よく人を見ているのだと思う。
意外と、思ったより僕が早く帰ろうとすると、「あ、帰るんだ」と少し寂しそうな素振りを見せることもある。

ケインさんは、とてもよく喋る。
バーのマスターってこんなにしゃべるんだ、と、今までの、ドラマででてくるような寡黙にグラスを拭いているタイプのマスターのイメージを覆された。
昔はサッカー選手の夢を本気で追っていたので、サッカーは大好きで、サッカーの話は特によく喋る。

仕事や、人生の悩みに関する話も、サッカーに例えてする事が多い。
「リュウタくんは根っこはミッドフィルダーだけど、今はフォワードを試してみてるんだと思うわ」とか言われる。

人の悩みを聞いたあとに「まあ、ほっとくしかないね」とか、「結局他人は変えられない」とか、「俺は、家族も究極は他人だと思っている」とか、一見すごく突き放したようなことをいうことがある。
けど、自分の悩みを相談したあとに、「よし、今からカラオケ行くぞ!」と始発までカラオケに連れて行ってくれたりと、ふとした時にアツい側面も見えて、それがとても魅力的な人だ。
彼の「ほっとけ」、「他人は変えられない」という言葉は、冷たさや他者に対する諦めから来ているものではなくて、「その人のあるがままを受け入れてあげよう」、「過度に自分の期待を他者に押し付けるのはやめよう」という愛から来ているものなのだろうな、と思っている。
以前に書いた、僕の伯母さんとはまた別の種類の人に対する愛だな、と思うが、それで救われる人もいることが、最近わかってきた。

彼の、軽いけど熱い、遠いけど近い接し方に、これからも救われたり、救われなかったりするんだろうな、と毎回バーを出るときに思う。

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