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毒見

釣り吉の長男がよくわからない魚を釣ってきた。
その場で捌いて処理をしたわけでもなく、氷漬けにしたとかでもなく、怪しげなビニール袋に入れて丸のまま持って帰ってきた。

しばらく見ぬふりをしていたら、完全に昇天して硬直まで始まりしゃちほこばった魚を、水を張ったバケツに移し替えたようである。

覆水盆に返らず、死んだ魚泳がず、なのだが。

先日の負傷も癒えずギプスをつけたまま這い出してきた弟が、数日前に家族を次々と殴打し恐慌に陥れたあの魔法の杖で、魚をツンツンと突いている。

魚はされるがままに浮き沈みし、完全に息絶えてから久しいことが窺える。

「俺は、今夜の夕飯に、この魚を食べる。」と、兄王子はゆっくりと、高らかに宣言した。

正気か?!マミィは何度もその意思を問うたが彼の決意は固い。

今週二度目のマクドナルドという禁じ手をちらつかせるも、彼の気持ちを覆すことは出来なかった。

マミィは仕方なく包丁を研ぎ、ダディに渡す。

目を剥きながら包丁を握ったダディは、おもむろにYouTubeで魚のおろし方を検索する。

ダディは怪しげな手つきで、辛うじて二つの切り身を切り出した。

その大きさは、オーストラリアの地図で例えるならオーストラリア大陸からヴィクトリア州と南オーストラリア州を切り出すくらいであろうか。

その小さな小さな切り身を小麦粉をつけてバターでムニエルにする。

魚臭いのはダディの健闘の痕跡の故なのか、それともムニエルから立ち昇っているのか、よくわからない。 
もう家中が魚臭いのである。

イヌも心配そうな顔をして、前足の掌で顔を覆いながら床に伏せている。

かくして、仕上がった怪しい魚の怪しいムニエルを、マミィ自らで毒味するべきか逡巡している間に、皿の切り身をポイっと口に放り込んだ兄はグッと親指を立てる。

「うめぇ。マミィとダディも食べてみなよ」
マミィとダディは口を揃えて言う、「All yours」と。

一応寝る前にバケツを兄のベッドの側に置いておいたマミィである。

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