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ハムラビ王子

うちには古代バビロニアのハムラビ法典を遵守している5歳の男がいる。言わずと知れたあの眼には眼をのアレ、である。

公平な裁きと弱者救済を掲げ、強きをくじき弱きを助けるべく、時には武力行使をも厭わない我が家のハムラビ王子のやり方は、言わずもがな2023年のポリコレ風潮にはフィットが悪い。

再三に渡る己と朋友たちへの攻撃に耐えかね、ある日攻撃は最大の防御であると鉄拳を繰り出したハム王子。
マミィたちはガッコから呼び出しを食らい、校腸より直々に注意を受けた。

私の中のインナーハムラビが心をチリつかせるのをグッと堪えながら、一応のこと私刑は現代では禁止されており、司法機関(=センセ)の判断に委ねることをハム王子に厳重に言い渡した。

ハム王子はイエス、イエス、ママと言いながら右の鼻をほじっておられる。

人が話をしている時に鼻をほじるのは褒められたアティチュードではないと諌めると、ケツは掻いてもいいのか?と聞かれる。
ケツもダメだと返せば、屁はひってもいいのか?と聞かれる。

さすがハムラビ王子、判例に細かいと感心してる場合ではない。彼はマミィの怒髪天の具合を調べてるに過ぎないのである。

マミィの怒髪天を抜くのは何もハム王子だけではない。その弟はその若さもあってさらに制御不能である。

まるで騎馬民族の如く、おもちゃのクラシックカーを操って駆け抜け、通り過がりの物ども(たいがいはイヌ、たまにハム兄)を片っ端から棒切れで打ち据えてゆき、水鉄砲を吹きかけてゆく。

狙ったら決して的を外さない必中必殺の水鉄砲は水力が強くて食らうとすごく痛い。
背面タンク式で容量も多く、弾切れ起こさないから逃げ回る方も持久戦である。

水鉄砲で撃ち抜かれたのかびしょ濡れのイヌが助けを求めてマミィの後ろへ駆け寄り、ジャスティスと救済を求める。

マミィはクラシックカーに乗った暴走騎馬民族を取り押さえ、水鉄砲を問答無用で取り上げると、まるでこちらが蛮行を働いたかの如く、肺活量を振り絞りながら五体投地をされる。

この間ハム王子は「ベィビーは善悪の区別がつかないからねぇ」と自分を棚に上げてソファに寝転び、ニヤニヤしながらボウル一杯のベビースターをつまんで高みの見物を決め込む。
マミィが隠していた向こう二週間分のベビースターを探し当てたようである。

すると五体投地して暴れていた弟がボウルいっぱいのベビースターをズザーっと盛大にぶちまけ、ソファと床一面にベビースターが散らばる。
まるで無限の宇宙に広がる星々のようだ。

なぜ男の子を育てるのはこんなにもエネルギーの必要性な仕事なのか、とマミィは無力感に膝を折る。

こんな仕事は普通であったら遥か前に投げ出していたであろう。
ベビースターをかき集めながら膝を折って白く燃え尽きたわたしの顔を「マミィ大丈夫?」と挟み込みながら覗き込み、背中をぽんぽんと優しく撫でてくれるその手がなければ。

まぁ最後に敢えて言おう、子育てとは壮大なマッチポンプである、と。
燃え尽きるほど手を焼かされ、それを潤い流してくれるのも両方とも子供なのだ。

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