【要約】ブラック・スワン 第14章 月並みの国から果ての国、また月並みの国へ

この世界では、弱いランダム性から強いランダム性へと移り変わっています。毎日、世界は前日よりもでたらめになっていて、人間は前の日よりもいっそうまぐれに振り回されるようになっている、とタレブは言います。

経済学者の #シャーウィン・ローゼン は、1980年代初め、一部のスーパースターやセレブが、年に120万ドル、200万ドルと稼いでいいることに怒っています。でも、集中化はその後も進み、今どきのスーパースターは何億ドルと稼いでいます。私たちは月並みの国からますます離れているわけです。様々な分野で、ものごとがトーナメント方式で進み、勝った人が全部かっさらっていきます。

ローゼンの議論では、成功をもたらすものとして能力に焦点を当てています。でも実際は、まぐれの結果やたまたまの状況だって成功の原因たりうるし、勝者総取りにつながる最初のきっかけになりえます。

社会学者の #ロバート・K・マートン が、 #マタイ効果 という考えを提唱しました。人はお金持ちには与え、貧しい人からは取り上げるという現象だ(マタイによる福音書 第25章)。

マートンが発見したのは、学者は参考文献を挙げていても、本当は元の論文なんて読んでいないというとです。だから、最初に50本の論文が参考文献として挙げられる場合、別の学者が同じ対象で論文を書くとき、50本の論文からでたらめに3本を選んで参考文献として挙げたりするわけです。

勝ち残る3本の論文の学者とそれ以外の学者の違いはほとんど運だけで、そうやって名声が高まっていきます。また彼らの書く論文は学術誌にも掲載されやすくなります。

社会学では、このマタイ効果は、「 #自己強化的累積現象 」という名前で呼ばれます。企業、会社員、俳優、作家、その他過去の成功に恩恵を受ける人たちに簡単に当てはまります。芸術の分野は口伝てによるところが大きいので、マタイ効果が非常に大きいと言えます。さらに、現代のマスコミによりマタイ効果はいっそう強くなりました。

マートンのマタイ効果以前に、もっと一般的な「 #優先的選択 」というアイデアがありました。果ての国ではなぜ都市が大きくなるか、なぜよく使われる単語が一握りに集中するのか、等にこの理論は応用できます。

たとえば、英語が共通言語として使われることが多くなっていると言う現象もこの理論で説明できます。別に英語が本質的に優れた言語だからではなく、人が集まって話をすれば、できる限りひとつの言語を使う必要があります。その場合、どれでもちょっとでも優勢な言語があれば、その言語に急に大勢の人が飛びつくことになります。そうするとほかの言語は急速に脇におしやられることになります。

ここまで集中が進む仕組みを説明してきましたが、実際のところ、負け犬はずっと負け犬かもしれませんが、勝ち馬の方はそういうわけにいきません。新顔に地位を奪われる可能性があり、安心ができないのです。

歴史の中では、文明の没落が多くの都市で起こっています。巨大な企業であっても、ほんの数十年で多くの企業は消えてなくなっています。資本主義の下では特に、企業は放っておくと往々にして勝手に倒れてしまうのです。

競争が巨大企業をけん制するからだという人もいますが、本当の理由は大部分が「たまたま」だ、とタレブは言います。人は自分の運のことしか頭にないかもしれませんが、ほかの人の運もとても大きくものごとを左右します。勝ち馬の企業でも、別の企業が幸運に恵まれ、とって代わるかも知れません。

カルタゴをつくったのも壊したのも運であり、ローマをつくったのも壊したのも運だ、とタレブは言います。運は知性よりも公平です。ランダム性には社会をリシャッフルし、肩で風切る大物を叩き落とすという優れた効能があるわけです。

ウェブは強烈な集中を生み出します。グーグルは市場のほとんどを支配しており、究極の勝者総取りのケースです。しかし、インターネットにより、一方で「 #ロングテイル 」、つまり、集中化とまったく逆の現象が起こっています。これによりニッチや細分化された専門分野が生き残るようになって小物がたくさん生き延びています。小物がとても大勢いて、一方超大物はほんの少しだけいて、両方が合わさって世界の文化の一部を担っています。そして小物の一部がときどきのし上がってきて、勝ち組を叩き落とすのです。

このように、ロングテイルは果ての国の副産物であり、これがあるおかげで、ものごとの不公平が少しはましになります。誰も本当の意味で安泰ではない、ということなのです。

#グローバリゼーション をはじめ、 #ネットワーク の発達によって、危機は起こりにくくなっています。たとえば銀行も集中が進み金融危機が起こりにくくなったと言えます。ただし起こる危機ははるかに深刻になったと言えます。

ネットワークの研究者は、ネットワークの特性として、ほうっておくとひとりでに、いくつかの重要な格子点を通じて、非常に集中した構造になっていく傾向があると言います。インターネット以外にも、配電網や通信網、これらの構造は黒い白鳥に弱いと言えます。重要な格子点に障害が起こるような場合です。

果ての国ではあらゆるところで集中が進み、勝ち馬と負け犬の間の緊張が高まっています。経済的な不平等だけでなく、社会での序列の不平等が問題なのです。知性の面で、ほんの一握りの人たちが大きな影響を及ぼすというのはとても不安な話です。社会政策上、そのような不平等はなかなか取り除けないものです。

それをどうやって正せばいいのか、タレブは「わからない」と言います。果ての国において、私たちはなんとかやっていけるうまい方法を見つけないといけない、そう言っています。