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「反脆弱性」講座 6「いいランダム性」と「安定という名の時限爆弾」
ジェームズ・クラーク・ #マクスウェル は、1867年「ガバナーについて」という論文で、厳密な制御が裏目に出て崩壊を引き起こすことを説明しました。エンジン速度の厳密な制御が不安定性につながることを数学的に証明しました。
同じように、金融の世界でも、適度な変動性を取り除こうとすると、市場はしばらくは安定したように見えるが、急激な変動が現れます。ある程度の変動がいつもあるほうがシステムは安定するのです。
一方で、ランダム性を加えることが標準となっているケースがあります。#反脆い システムにとって欠かせない燃料なのです。
冶金における焼きなましは、加熱によって原子が元の位置から飛び出し、高エネルギー状態の中でランダムに動き回り、それまでよりも優れた原子配列が見つかる可能性が高まるのです。
政治にも一定量の #ランダム性 が必要です。古代の人はこれに気づいており、アテナイの議員はくじで選ばれました。また、政治的な暗殺もストレスがシステムにメリットをもたらすひとつの形です。トップが不在になると、焼きなましが起こって、新しいリーダーが生まれます。
山火事が長い間起こらないと、燃えやすい物質がどんどん蓄積していって、火事になると大惨事になります。同様に、政治不安や戦争がないと、爆発性のある物事やリスクが水面下で蓄積していきます。
政治哲学者ジョゼフ・ド・メーストルは、ある出来事の損失だけを分析し、残りの部分を無視するのは間違っていると指摘しています。また、人間はその逆の間違いのほうが理解しやすいと言います。つまり、短期的な利益だけ見て長期的な副作用を考えないのが間違いだ、ということは気づきやすいということです。たとえば、庭師は剪定が木を強くすることを理解しているが、私たちは犠牲を損失としてとらえて、2次的な影響を考えようとしないという点です。
これを考慮すると、私たちは人工的に抑圧した変動のもと、物言わぬリスクが水面下で蓄積していても気づかない、つまりリスクが見えなくなっているということです。安定をつくることで差し当たりの安定を実現するが、その2次的な影響をすっかり忘れているやり方です。これは経済政策や外交政策でことごとく失敗してきたわけです。
アメリカは40年間にわたって、「混乱を避ける」という名目で腐敗したエジプト政府を支援してきましたが、2011年に暴動が起こりました。現在同じように #サウジアラビア を同盟国としているが、王族集団が支配する憲法を持たない国を同盟国としている理由は安定をもたらすことが目的だと言います。王族の人たちの節操のない快楽主義的な行いを見るに、いったいいつまでこのシステムをごまかしておけるのか極めて疑問なのです。
#イラン 人がアメリカに対して敵意を抱いている理由は、民主主義国家であるアメリカがイランに専制君主を置いたからです。安定を求めるための抑圧がおこなわれ、今の反発につながっているわけです。私たちはいい加減、2次的影響や副作用という観点で考えるようにならないといけないのです。また「安定のため」と言って他国に干渉すればするほど、状況は不安定になるのです。
現代性とは、ランダム性で一杯の環境から、人間を物理的、社会的、認識論的に排除し尽くすことです。「社会は人間にとって理解可能なものなので、人間が設計すべきである」という浅はかな合理主義の時代精神によって、統計理論、ベル・カーブ、効率性や最適化という概念も生まれました。
私たちは一見して効率的で有益なものにはめ込まれています。自由な放し飼いの大人と子供ではありません。また、今の時代はさらに、型通りの思考、帰納的推論、七面鳥問題、MBA、超有限責任会社、「仕事」と「娯楽」の分離、等が進んでいます。すべてが反脆さを否定するものです。そして、私たちはいま講釈に依存しています。公務員や大企業の従業員は、なんらかの講釈に当てはまるようなことしか実行できないのです。
かつて、私たちが反脆さ、自己組織化、自然治癒など十分に理解していなかったとしても、不確実性を手なずけ、不確実性を乗り切るという目的で、こういう性質に敬意を払っていました。私たちは改良を神々の力に委ねていたのです。
国民国家の誕生は、まさにその力が卑しい人間の手に渡ったことを示しています。そして、人間の過ちが集中し、拡大するようになりました。現代性は、国家が暴力をふるうことで幕を開け、財政の無責任を晒すことで幕を下ろそうとしているのです。