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「反脆弱性」講座 1 「反脆さ」
本講座は、#ナシーム・ニコラス・タレブ の著作 「 #ANTIFRAGILE 」、日本語訳「 #反脆弱性 」~ #不確実 な世界を生き延びる唯一の考え方~ を読み解くと同時に新たな視点も加えながら、「反脆弱性」というまったく新しい概念を考察し、ブラックスワンへの対処法を考えていきたいと思います。
「風はろうそくの火を消すが、炎を燃え上がらせる」という言葉で、タレブの「反脆弱性」は始まります。
風とは何か?タレブは、#ランダム性 、不確実性、無秩序を挙げます。また、変動性、ストレス、なども使われています。「脆い」ものは基本的にそういった変化に弱いので、ろうそくの火のような「脆い」ものは消されてしまいます。しかし、一方で、そういう変化をプラスとするものがあります。これを燃え上がる炎がそのひとつなのです。そして、風から隠れるのではなく「炎になって、風が吹くことを期待するのだ」と言います。つまり、不確実性を単に乗り切るだけでなく、不確実性を自分のものにするということです。
さて「脆い(壊れやすい)」の反対語はなんでしょか? ほとんどの人は、「強い」「耐久力がある」「頑丈」などと考えます。これは間違いだとタレブは言います。世の中の反意語の辞書も同じ間違いをしている、と。
別の見方をすると、「正」の反対は「負」であって「無」ではないわけです。ということは正の脆さの反対は「負の脆さ」であり、「脆くない」ということでないのです。そこで「反脆さ」という新語が必要になるわけです。
反脆いものは、衝撃を利益に変えるものです。耐久力や頑健さとは異なります。耐久力のあるものは衝撃に耐え、現状をキープします。一方、反脆いものは、変動性、ランダム性、無秩序、ストレスの晒されると成長・繁栄します。衝撃を糧にするわけです。この性質は、進化、文化、思想、革命、政治体制、技術的イノベーション、文化的・経済的な繁栄、企業の生存、おいしいレシピ、都市の隆盛、社会、法体系、赤道の熱帯雨林、菌耐性など、時とともに変化し続けたどんなものにも当てはまります。また、一定のストレスや変動性を好むものは、経済システム、人間の身体や精神などがそうです。更に金融商品においては、市場の変動で利益がでるように設計されたものもあるわけです。
反脆さを理解することは、脆さをもっと深く理解することに通じています。なぜなら脆さと反脆さは同じベクトル上に並んでいるからです。
この脆さ、反脆さ、頑健などを理解するために、タレブは次のような神話を紹介しています。宴会で、頭上に一本の馬の毛で剣を吊り下げられているダモクレスの話(これは「脆い」)、何度焼かれても自らの灰の中からよみがえるフェニックスの話(これは「頑健」だ)、首が何本もあるヘビのようないきものであるヒュドラーは、首を1本切り落とすたびに2本の首が生えてくるという話(これは「反脆い」!)です。
この「反脆さ」「反脆弱性」に相当する単語は世界中探しても見当たらないと言います。
反脆さの祖先とも言うべきふたつの概念、しかも名前があるものをタレブは紹介します。それは、次のような伝説です。
小アジアのポントス王国の国王、ミトリダテス6世は、父を暗殺されて逃亡している間に毒殺から身を守るため、致死量に満たない毒物を飲み、その量を少しずつ増やしていき、毒物への耐性をつけました。これを本書では、「耐毒化(ミトリダタイゼーション)」と呼びます。これは現在、予防接種やアレルギー薬で使われている方法と同じ種類のものです。これは、反脆さとまでは言えず、その手前の頑健さの段階にすぎないが、反脆さに近づきつつあると言えます。
次に、一定量の毒物が人間を健康にするというケース、つまり頑健より反脆いケースです。それは「ホルミシス」という、少量の有害物質が生物にとって薬の役割を果たし、効能をもたらす現象です。これは十分な科学的な証拠もある現象です。人間はある種の毒を適量だけ摂取すると、私たちの有機的構造が刺激を受けるのかもしれません。
同じように、少量の毒が人間を健康にすると言う意味では、一時的なカロリー制限(空腹状態)は、人間の寿命を延ばす効果があると言われています。「空腹」というストレスが必要なわけです。一般的に言えることは、システムから「貴重な」ストレスを取り除くのはよいこととは限らず、むしろ害になることもあるちうことです。
「反脆さ」の意味、イメージはお分かり頂けたでしょうか。みんなが頑健だと思っているもの(社会、生活、思想)などは意外に脆く、様々なブラックスワンの影響を大きなダメージを受けることは私たちがいつも経験していることです。つまり、頑健さだけでは対応できないわけです。
そんな中、「反脆弱性」という全く新しい概念を使い、大きな変動、ランダム性、不確実性に耐えるだけではなく、それを糧にさらに丈夫になったり、利益が上がる仕組みを探求していきます。