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ビジネスマンのためのブラックスワン対策講座(8)プロジェクトマネジメントvsブラックスワン

あなたが何らかのプロジェクトの責任者になる場合に、ブラックスワン的な事象への対処をどうすればいいのでしょうか。筆者の体験を中心にプロジェクトにおける不確実性との戦いについて考えていきます。

1.プロジェクトマネジメント

一般的にプロジェクトマネジメントの目的は、与えられた資源(ヒト・モノ・カネ)を使って、計画どおりのスケジュールで、目的とした結果を出すことと理解しています。

筆者は、特にプロジェクトマネジメントの研究もしていないし、専門家でもないので誤りがあるかもしれませんが、一般的なビジネスマンの視点で見ていきたいと思います。

ビジネスにおいて、意外に多いのがプロジェクトです。大規模な建設プロジェクトやシステム構築、新規事業プロジェクト、などありますが、もっと小さいプロジェクトも社内外いろんなところにあります。

ここでは、筆者が経験してきた、海外でのプラント建設のプロジェクトを例にしてみます。

2.プロジェクトリスク

プラント建設のプロジェクトにおいては、非常に多くのリスクがあります。それらのリスクを上手くマネジメント出来ないと、工期の遅延やコストアップが生じます。

プラント建設においては、主要機械や付帯的な多くの機器の調達、輸送、土木工事、建屋の建設工事、また機械の据付工事など複数の業務が、それぞれ絡み合いながら行われます。

また、こういうプロジェクトは1社で完成させるのはとうてい不可能で、国際的に多くの企業が関与しますし、工期も計画から入れると数年かかるのが普通です。

したがい、このような大型のプロジェクトは、その複雑な構造や長い期間から、ブラックスワン的な事象に対してたいへん「脆い」と言えます。

実際、プロジェクトマネジメントにおいては、ブラックスワン程ではないが小さな様々な悪い事態が、毎日のように起こり、それに対処することが必要となります。

たとえば、機械や部品の到着が遅れたり、天候悪化で工事が予定通り行かない、小規模な事故による労働者の負傷や機器の損壊などです。その度に、工期や仕様の見直しをして可能な限り影響を小さくする努力の連続となります。

しかし、これらの不確実性がもたらす事態はある意味で「想定内」であり、その対処も通常の業務と言えるし、それが理由でプロジェクトが大失敗したりしないのです。

その理由は、プロジェクトには最初から一定の「予備(コンティンジェンシー)」があるからです。不確実性やランダム性への備えです。そして、その予備の範囲内で、工期遅延やコストアップが収まれば、プロジェクトは「成功した」ということです。

3.ブラックスワンvs予備費(コンティンジェンシー)

筆者および当時属した会社は、このようなプラント建設のプロジェクトにおいて、たいへん痛い思いをしました。50~100億円の規模のプラントの工事を中東で数件受注しましたが、そのどの案件でも、工期は大幅に遅延し、費用も莫大となり二けた億円の大きな赤字を出すことになりました。

当時所属していた会社は商社で、プラント建設を本業とする会社ではありませんでした。このような大型の建設プロジェクトの取組も初めてで、ノウハウがなく、多くの参画企業の見積に自社の経費を加え、わずかなコンティンジェンシー(予備費)をのせて入札に参加し、受注に至ったわけです。

あとで調査をしたところ、われわれが加算したコンティンジェンシー(契約金額の数パーセント)は、常識外に低い金額であり、このような複雑なプラントで、且つ、中東やアフリカのようなポリティカルリスクの高い地域(言わば、不確実性の高い地域)においては、契約金額の30%~40%の予備費がプラント建設の常識だったのです。それほどまでに不確実性が高いのが現実なのです。

中東で受注した我々は、ポリティカルリスクや天候リスク、労働者のストライキや現場での事故など、ありとあらゆるリスクに直面することになりました。また、テロ疑惑に対する国連の制裁によって当該国への航空便が禁止になったり、湾岸戦争の勃発など、まったく想定外のブラックスワン的事象にも襲われました。

このように、長期にわたる建設工事においては、コストは上がる方向しかなく、工期は遅延する方向にしか働きません。いわゆる負の凸効果のある非対称性です(要は悪い方の可能性しかないオプション)。

4.プロジェクトとしてのブラックスワン対策

すでに見たように、長期であり、複雑に設計されたプロジェクトはたいへん「脆い」ものです。まずは、その大前提から考えるべきです。

筆者自身の経験から、細かいプロジェクトマネジメント技術の必要性は認めますが、大きなところでコンティンジェンシーの確保ができるかどうかが、プロジェクト成功・失敗の大きなポイントであることを学びました。

プロジェクトは大きくなればなるほど、複雑になればなるほど、不確実性に晒されます。前述したように、プロジェクトは時代と共に情報・ITがからむようになり、ますます複雑になってきています。

プロジェクトのスケジュール(クリティカル・パス・チャート)を見ると、長い工程の中で、どこがクリティカル(致命的)かはわかります。少し遅れたり、不具合が出ると全体の工程に大きな影響を及ぼす、鎖の中でももっとも弱い場所です。ここをどう補強するか、工程を守っていく上でたいへん重要です。それと同時に工程上の「余裕、予備」を、このもっとも弱い部分のバックアップに使えるようにすることです。

ここにおいても、「冗長性」がすべてを解決することになります。コストのコンティンジェンシー、そして工程の「余裕」。これらがない限り、プロジェクトの失敗は目に見えています。

もし、あなたがプロジェクトの責任者として、顧客の注文を取るために、ギリギリまでコストを落とし、スケジュールも考えられる最短にして、見積を出したなら、あなたは不確実性による予想外の出来事が起こるたびに胃の痛みに耐えないといけなくなります。そして最後には確実に、納期遅延と赤字決算が待っています。

大型プロジェクトにおいては、まずは「冗長性」を含めることを考えるべきなのです