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第1回 「人間は、欲から逃れることができるのか」

Interview /鈴木泰堂×デポルターレクラブ竹下雄真(全4回)

Deportare Club
2020.1.10

鈴木泰堂(すずきたいどう) プロフィール
宗教法人示現寺代表役員/法華山示現寺住職/僧侶。1975年4月20日神奈川県出身。立正大学仏教学部仏教学科卒業。1987年、在家から出家し、命がけで仏道に邁進する父に憧れて出家し弟子となる。1998年、日蓮宗僧籍取得。2008年、先代住職遷化により住職に就任。以降法務を熟しながら、年間400人以上の相談者の「心の悩み」やスポーツ選手のメンタルをサポート。2014年、瞑想と写経を取り入れた「メンタルファシリテーション」を考案し、東京都渋谷区のコートヤードHIROOにて毎月実施。その他、各種団体主催のセミナー講師など活躍の場を拡げている。2019年12月、清原和博氏との対談『魂問答』を発売。

欲社会に生きながらも、自分にできることをする


竹下雄真(以下:竹下)
泰堂さんと出会ったのは、もう10年以上前ですね。

鈴木泰堂(以下:泰堂)
たしか、平成20年の冬でしたね。

竹下:
僕の地元(注:茅ヶ崎)の親友のおやじさんが、「藤沢にいい坊主がいるから、お前ら、会いに行ってこい」って教えてくれたのがきっかけで、それからすぐ、友達3人で泰堂さんの示現寺にうかがったんです。
たまたま僕は泰堂さんと世代が近かったし、お坊さんという職業に以前から興味があったので。御祈祷を受けさせていただき、「ラップやっているみたいですげえな」と思ったことがとても印象深いですね。
それからですね、ご縁が始まったのは。

泰堂:
そうですね。
その後もいろいろな方をご紹介いただいたり、ご縁をつなげていただきました。

竹下:
世の中のお坊さんって、人によって大きく違うと思うんです。
なかにはもちろん徳の高い、すばらしいお坊さんもいらっしゃいますが、その一方、すごくいい車に乗って、繁華街のキャバクラで遊んでいる人もいるみたいですね(笑)
泰堂さんはそんなことなさそうですが。

泰堂:
お坊さんのなかにはお酒が好きな人もいますよ。僕はたまたまアルコールが飲めないから、まったく飲まないだけで。

竹下:
素朴な疑問ですが、お寺って儲かるんですか。

泰堂:
どうなんでしょうね、まじめにやっていたら儲からないんじゃないでしょうか。

竹下:
じゃあ、繁華街で遊んでいる人たちはふまじめってこと?

泰堂:
いや、それも違うな(笑)
それは違うけれど、実際のところ、今の時代、お金はどれだけあっても困るものじゃないですよね。結局、「お金をどれだけ持っているか」「お金をどれだけ儲けるか」ということより、「お金をどう使うか」が大事なんじゃないかと思います。

竹下:
たとえば、「人のために使うお金はよい」ということですか? 仏教にはお布施の習慣があって、檀家さんがお寺にお金を届けることもありますよね。そうしたお金は「いいお金」ということですか?

泰堂:
一般に、お寺はお布施をいただく側に思われがちですが、実は、お寺もお布施をすることができるんですよ。
お布施には大きくわけて3つあります。
ひとつめは「財施」で、金銭、衣服、食料などを施すこと。
ふたつめは「法施」で、物質やお金ではなく、仏様の教えを説いたり、他人のために読経をしたりすること。
みっつめの「無畏施」は、いろいろな恐怖や不安を取り除き、安穏な心を与えること。
葬儀や法要でみなさんが僧侶に渡すお布施は「財施」ですが、実は、僧侶も読経したり、教えを説いたりすることで、みなさんにお布施をしているんですね。つまり、双方が施しあっているというわけです。

竹下:
なるほど。お布施とは、葬儀や法要のときに渡すお金だけではないんですね。

泰堂:
ほかにもまだありますよ。仏様は、財力や知恵がなくても、「七施」といって、七つの施しができると説いています。
たとえば、「身施」。これは、自分の体で奉仕することで、掃除など、人が嫌がることをみずから進んで行うこと。
それから、赤ん坊から亡くなる直前のお年寄りまで、誰もができるものとして「和顔施」というものもあります。これは、いつも穏やかな顔つきで人に接すること。

竹下:
確かに、それなら誰でもできそうですね。

泰堂:
あとは、金銭じゃなくて、寺にものを奉納してくださることもありますよ。
実際、御祈祷のときなどに使う太鼓が壊れたとき、「じゃあ、奉納するよ」って新しい太鼓を手配してくださった方もいらっしゃいましたし、それからこの畳もそうです、ちょっとボロボロになっていたら、「ぜひ、私に張り替えさせてください」と言ってくださった方もいらっしゃいました。

竹下:
昔、カウンタックに乗っているお坊さんを見たことがありますよ、一体どれだけお布施をもらっているんだて思いました。

泰堂:
まあ、大金でしょうね(笑)

竹下:
泰堂さんご自身、このご時世、お坊さんには何が求められていると思いますか。お坊さんが果たすべき役割とは一体、なんでしょうか。

泰堂:
仏教は宗教のひとつというイメージが強いのですが、実は、仏教の教えのなかには、先人の知恵や、生きる指針がたくさん詰まっているんですよ。
つい、宗教だからって敬遠されがちで、「寺に近づいたらお金がかかるんじゃないか」とか「変なものを買わされるんじゃないか」って警戒する人も少なくないんですけど。

竹下:
一度、入ったら抜けられないんじゃないか、とか。

泰堂:
そう。でもそうやって仏教そのものを敬遠してしまうのは、あまりにももったいないことなんですね。
仏教の教えって、「あのとき、それを知っていたら、そんなに辛い思いをしなくて済んだかもしれないのに」っていうものがとても多いんです。
だからもっとみなさんに教えを知っていただきたいと思いますし、それを広めることが自分の役割だと思います。

竹下:
僕は泰堂さんと10年以上お付き合いさせてもらっていて、お金を取られるような変な思いは、当然ながら、一度もしたことがありませんし、仕事のことなどで迷っているときに話を聞いてもらったり、一緒にお茶を飲みながら話をしたりするだけで、すっと心が晴れることが多いんです。
でもその一方、世の中には宗教法人であることを悪く利用して、金儲けやビジネスに走っている団体もあるじゃないですか。だから「宗教=怪しい」っていうイメージが出来上がってしまっているのが、本当にもったいないですよね。

泰堂:
今の時代、どうしても人間は形だけにとらわれがちで、自分の権利は主張しても、義務は怠っているということも多いんじゃないかと思うんです。
しかし本来、権利と義務を比べたら、義務の方が権利よりも数倍大きくて、義務をきちんと果たした人が権利を主張できる。
でもつい、慌ただしい日常のなかにいると目先のことにとらわれて、自分がやるべきことや自分の義務を忘れてしまいがちなんですね。それは一般の人たちだけでなく、お寺や僧侶たちも同じ。
だから、社会の慌ただしさに飲み込まれず、いま一度立ち止まって、「自分の役割とは?」「仏さんの教えってなんだっけ?」っと考える時間を持つことが大事ではないでしょうか。

竹下:
確かに、権利は声高に主張するけれど、義務を果たしていないという人は多いですね。

泰堂:
仏様の教えって、もう何千年も変わっていないんですよ。逆に変わっていないからこそ、すごい。
でも世間は時代によって変化するし、たとえば、江戸時代には脇に刀を備え、理由によっては人を殺めるこもセーフだったけれど、仏様は数千年も昔から「無益な殺生をしてはならない」と説いていて、それは今も昔もまったく変わらない。
だから、世間の風潮は時代とともに変わっていくけれど、その変化の波に、仏様の教えを伝えるべきお寺も乗っかってしまうと危険だと思うんです。
僕がいつも気をつけているのは、「袈裟を着た亡者にならないように気をつけよう」ということです。

竹下:
それはどういうことですか?

泰堂:
袈裟を着ていて見た目は僧侶なんだけど、実は金や欲の亡者にならないように気をつけようということです。
うっかりすると、僕自身も社会の流れに飲み込まれてしまいそうなこともありますし、実際、そうやって金の亡者になってしまった寺もあると思うんですよ。
だから僕は「自分さえ良ければ」という気持ちは捨て、仏様の教えを正しく、みなさんに伝えていくことを続けようと思っています。

そもそも人間は、「無欲」にはなれない

竹下:
いま、「欲」というワードが出ましたが、この社会に生きる人は多かれ少なかれ、みんな欲を持っていると思うんですよ。
アスリートなら「勝ちたい」「成績を残して有名になりたい」とか。芸能人なら「もっとテレビや映画に出たい」「賞を取りたい」とか。
そういう「欲」は、仏教的に考えるとどうなんですか? 仏教では「人間は欲をかいてはいけない」と教えているイメージがありますが……。

泰堂:
仏教は「人間に対して無欲であることを説いている」と思われがちですが、実は、それは誤解なんですよ。
なぜなら人間は、生きているあいだは誰もが無欲の境地に到達することはできないから。実際、僕だって眠くなるし、お腹も空くし、いろいろな欲がありますしね。
つまり、欲というものは生きている証拠なんです。

竹下:
でも、「無欲になろう」「欲を捨てよう」という言葉をよく聞きますが、それは一体どういうことなんですか。

泰堂:
そもそも、人間は黙っていればみんな無欲になります。
そうでしょ? 人間には必ずいつか、「死」が訪れます。亡骸になれば何も欲しないし、食べたいとか、寝たいとかも思わない。
つまり、死ねば必ず人間は無欲になりますし、少なくとも生きている間は欲から逃れることはできないということ。だから、生きている間は無理して無欲になろうとしなくてもいいんですよ。

竹下:
無欲になるということは、お釈迦様でも成し遂げられなかったんですか?

泰堂:
お釈迦様は入滅、つまり、お亡くなりになるとき、初めて無欲の域に到達されたんです。
だから仏教の教えでは、「無欲になる」ということではなく、「小欲」、つまりどれだけ欲を少なく圧縮できるか、ということをめざすんですよ。

竹下:
欲を圧縮、ですか。おもしろい考え方ですね。

泰堂:
たとえば、もともと1万の欲を持っている人が1,000に圧縮できたら、それはすごい努力の結果でしょうし、もともと1,000の欲を持っているひとが1に圧縮できたら、それもすごく頑張った結果でしょう。
どちらもその人にとってはとても頑張った結果であり、要は、欲を圧縮するのは、人それぞれでいいっていうことなんですよ。

竹下:
人と比べる必要はないっていうことですね。

泰堂:
高性能の車のエンジンって、よく回転するじゃないですか。軽自動車に比べて、スポーツカーのエンジンはものすごく回転する。
でも、誰も軽自動車とスポーツカーを横並びにして、同じ土俵で比較することはありませんよね。
それと同じ。たとえトップアスリートの人が一見、強欲に見えるような欲深さを見せたとしても、その人がその欲の実現に向けて自分を研鑽したり、努力したりすることができるなら、その欲は別に間違ったものではないんです。

竹下:
欲にも2種類あると思うんですよ。
完全に「自分のため」という欲もあるでしょうし、その一方、たとえばアスリートなら、「世界一になって、誰かに勇気を与えたり、社会を盛り上げたりしたい」「有名になって、スポーツの世界で社会に貢献したい」という欲もあるでしょう。
そう考えると、一口に欲といっても、実はいろいろな違いがあるのかなと思うのですがどうですか。

泰堂:
その通り。そもそもキリスト教や儒教の教えを紐解けば、「自分以外の人間に、あなたは何を与えられますか」と説いています。それは仏教も同じですし、イスラム教も同じです。
つまり、どの教えにも共通するのは「利他」、すなわち、他人の利益になることをしよう、ということなんです。

竹下:
確かに。それと同じことをおっしゃる経営者の方も多いですね。「自分の会社が儲かればいい」という考え方ではなくて、「社会に貢献できる企業になろう」って。
結構、経営者の人たちは仏教をよりどころにし、思考のベースにしている人たちが多いように思いますが、それは仏教の教えが会社経営に役立つからでしょうか。

泰堂:
私の知り合いの社長さんも、毎日仏様に向かって手を合わせることを習慣にしていますし、また、工場を増設するときには、必ず工場内にお参りする施設を設けている、という方もいらっしゃいます。
ある超有名企業の経営者の方は、頻繁に先祖のお墓詣りへ行かれるんですけどね、そのとき、お墓の水受けの部分を念入りに掃除されるんだそうです。
それこそ、いつでも水受けの水が飲めるくらい。あの凹みって、どうしても苔が生えやすいじゃないですか。
そうやってお墓を大事にすることも、巡り巡って、自分の欲を圧縮する方法の一つなのかもしれないですね。

(つづきます)

2020.1.17

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CONTENTS
第1章 「超人」に憧れる現代人
第2章 超人化計画1 運動でミトコンドリアの量を増やす
第3章 超人化計画2 解毒でミトコンドリアの質を上げる
第4章 超人化計画3 食事でミトコンドリアの質を強化する
第5章 Q&A超人をめざす人のために
対談 超人たちをつくってきた二人清宮克幸×竹下雄真

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