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ホン雑記 Vol.58「ドリアン先輩」

オレの心の師のうちの多大なる1人がドリアン助川氏だ。

映画化もされた「あん」の原作者であり、以前は「叫ぶ詩人の会」というロックバンドのボーカルも務めていた。


オレが初めて助川氏を知ったのはまだつい3年ほど前で、「あん」が話題になった時も、「叫ぶ詩人の会」のことも全然知らなかった。

とある土曜日の昼下がり、たまたまテレビを点けたらNHKでドキュメンタリー番組をやっていて、ちょっとコワモテのオジサンがラジオブースのようなところでしゃべっていた。どうやら電話での人生相談らしい。
それが彼との最初の邂逅であった。

その物腰と声色に、いきなり心を鷲掴まれた。
怖さと優しさが同居した顔がたまらなく好きなのもある。もうこのへんはゲイでもいいと思っている。
そして何より、通り一遍ではない返答の切り口にワクワクした。

そのうち、番組の内容は彼の人生の生きづらさへと展開され、その苦悩はキューピッドの矢… どころか、ポセイドンの矛さながらに心にブッ刺さった。


どうやら、彼もそんなに強い人間ではないらしい。
助川氏は作り手としての苦悩に、何度も死を考えた。特によく、多摩川のほとりで死を想った。

ある日、多摩川で夕日を見ていたら、自分と、太陽までの空間と、太陽自身が自分だという感覚にとらわれたという。
それを聞いた瞬間、なぜかオレが泣いたので、オレはその話を真実と定めることにした。
「おかしな話なんだけど」とクッションを噛ましてから話し始めた彼だが、少なくともウソを言っているわけではないと分かった。
たとえそれが錯覚であったとしても。

そういうことがあるんだろうなぁ、と以前から漠然と思っていたオレにとって、その事実は答え合わせであり、それに答えた彼は1歩先を行く先輩になった。


それから、小説「あん」や「新宿の猫」を読んでみたのだが、これまたというか、今までに経験したこともないような救い方をしてくれた。

少なくとも1作品につき1つは、強烈なキラーワード… いや、殺し文句はおかしいか、救い文句があって、どちらも嗚咽に近い泣き方をした。

それらの本を読んだ時が、たまたまタイミング的にそのことについて悩んでいる、といった内容だったりして、なんとなく(ホントはとても)シンパシーを感じてしまうのだった。

これほどの救い上げられ感を抱いたことは、青春期に救われたどんな歌にもなかったように思う。
そのあまりの救い上げっぷりに、指の間に水かきでも付いているんじゃないのかと疑うほどだ。



今はホントにいい時代になった。
助川氏がとあるサイトの中でも人生相談をしているのを見つけた。

そこには、300回を超える相談者への返答がすべて網羅されていた。
彼が、どんな悩みごとに、どうやって答えたのかが記された奥義書のような宝が普通に掲載されている。しかも、ただで。
あぁ、なんとも有り難や。


その中身が血肉となるよう、今少しずつ読み進めているところだ。




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