ホン雑記 Vol.56「幸せの幻影」
最近スマホ版の「ドラゴンクエスト8」をやり出した。
Kindle Fireで遊んでいるので、スマホの4倍ぐらいの大きさはあるかな。
あぁ、幸せ。
歳を取るのを人3倍ぐらいイヤがっているオレだが、歳を取るのもいいなぁと思わされるのが昔の作品に触れることだ。
ゲームでも、歌でも、映画でも、小説でも、漫画でも、最初に味わった時には自分の中になかった琴線が、今では縦横無尽に張り巡らされていて、「はじめてのおつかい」で大人たちが涙するのも同じことなんだろうなぁ。
ドラクエはさほど、双璧であるファイナルファンタジーほどのストーリー性はないという印象だったが、今回やり直してみたらムチャクチャ泣いた。
はじめるまではうろ覚え程度のイベントだった箇所だったが。
冒険者一行は、とある目的地を目指していた。
その地はアスカンタ。
国に入ると、民たちは黒い服を着て喪に服していた。もう2年間も。
王妃を亡くした国王パヴァンは、あまりの悲しみのゆえに、国民たちに黒い服を強いる。アスカンタ城の頂からは黒の垂れ幕が何本も下がり、城を覆い尽くしていた。
見かねた主人公らは、月の世界の住人イシュマウリを訪ねた。
「王妃を生き返らせることはできないが、私も王に会いに行こう」
一行とともに入城したイシュマウリがパヴァンの前で月影のハープを奏でると、わずかな時間、王妃の幻影が現われた。
2人で過ごした日の映像の数々が目の前に繰り広げられる。その映像の自分と重なったパヴァンは、確かに幸せの中にいた。そしてイシュマウリの魔法はとけた。
特になんの変化を起こす魔法でもなかったが、幸せの絶頂にいた自分を目にしたことで、パヴァンの長きに渡る悲しみが癒えていくのだった。
アスカンタ城を覆った黒い垂れ幕は取り払われ、真っ赤な垂れ幕に掛け替えられた。
パヴァンはこれからも国を治めていくことと、いつか主人公たちの力になることを誓うのだった。
なんでこんな話を忘れていたんだろう、と思うほど濃いストーリーだったのだが、忘れていた。
そう、PS2で最初に遊んだのはもう17年前。その頃には、まだオレ自身に死別の物語に対する琴線が用意されてなかったのだ。
その2年後にオトンが亡くなるんだが、そこでブッとい琴線が心の片隅に張られたのだろう。いや、心のメインストリートの辺りかもしれない。
新たな悲しみに出会うのはイヤだ。
でもそのたびに心を補強していく琴線は、既知の景色をまるで新しい物語に出会った時のように彩ることがある。
年老いて時間の流れを早く感じてしまうことと引き換えに、様々な経験は残りの人生の流れををスローダウンさせてくれるのかもしれない。
いろーんなことをやらなくっちゃねー。