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ホン雑記 Vol.807「天の祝典曲」

今日は記念すべき日かもしれない。
いや、記念すべき日だ。

もう何年か前に思ったことが、それともう十幾年も前に思ったことが同時に叶った。そんな気がする。


ウチのアパートの前の小路を隔てた向かいに、4年ほど前に外国人家族が引っ越してきた。

その前に。彼らが越して来る前までオレは、顔も知らないアパートの隣人が不倶戴天の敵だった。とにかくうるさい。洗濯機はうるさいし、夜中の風呂タイムはうるさいし、しゃべるのもうるさい。
木造の安アパートを選んだ自業自得と言われればそれまでだけど、こっちがおかしくなるか、あちらをおかしくさせてやろうか、という瀬戸際だった。

それからしばらく経って、外国人家族が引っ越してくる。コミュニティが強いのか友人が入れ替わり立ち替わり。アパート前の小路をバイクでビュンビュン。これはマジで悪人になってやろうかと思っていたら犬まで飼い出した。
馬鹿笑い、車とバイク、犬の鳴き声。トップクラスで嫌いなものたちが、別に自分が音楽家だからというつもりないが、とにかく要らない音(口笛や指のトントンだけでも○意湧くほど)が死ぬほど嫌いなオレのところに、よりにもよってセットでやってくるかね。冗談抜きで神を半分だけ呪ったわ。

それからちょっと経って、どうやら車とバイクの入れ替わり立ち替わりは仕事のせいらしいとわかる。そう、もう書いてしまったが、入れ替わり立ち替わりしてるもんでね。
あぁ、そういうことか。オッサン(主人は同世代ぐらいかな)の無駄走りではないのかと知って多少溜飲が下がる。仕事ならまぁ目をつぶってやるかと。いやいや、それにしてもこんな閑静な住宅街にポツンと車屋かね? とは思う。そもそも車やバイクの類にはまるで興味がない人なんで余計に怒りの対象だった。

それからまた2年後ぐらいか、こっちも勝手に丸くなってくるのか無表情の挨拶ぐらいはするようになる。こっちにとってはその2年間は、新・不倶戴天の敵扱いで目も合わさなかった2年間なんだけど、向こうは驚くでも怪訝そうにするでもなく、最初の挨拶を返してきたと思う。
このあたりから、(トモダチ? いやいやまさかね)なんてことを何度か思うことになる。

さらに時は流れていくと、互いにちょっと表情が含まれていったり、向こうが軽く二度会釈するような完全に日本人の性質に染まっていることがわかってきたりする。
そのうち向こうは敬礼の形の手をこちらに飛ばすような、いわゆる「よっ!」な感じの気軽な挨拶を交えてくる。


そして今朝。いよいよの今朝。

オレはいままで、たぶん子供の頃からずっと、必要最低限の会話か、そうでない場合は相手から話しかけてくるのを待ってるような人間だった。

いつも6時に散歩に出て行くんだけど、玄関のドアを開けたらもう主人がバイクを触ってて、
(早っ)
と思ったんで、そのまま挨拶のあとに「今日は早いですねー」と口から出ていた。思えば、ほぼ人生初に近いぐらい「あまりよく知らない人に自分から、別にかける必要もない声をかけた瞬間」だったかもしれない。

そしたら向こうは困ったような顔で「毎日~」と返してきた。やっぱりちょっと片言だった。
そのあとに「夜は会社も行ってるー。夜勤ねー。お金かかるねー」と、初の呼び水が効いたのか井戸水のように返してくるもんだから、こっちも「やっぱり車屋さん?」「どこの国からきたの?」「こないだの可愛くてちっちゃいの、あれ孫?」と、気になってたことが次から次へと出てきた。

「じゃぁ、そろそろ走ってくるわー」と、いつもは歩いていくところをなんかジョギングしてしまったんで、見えなくなるとこまで行って歩きだした。

泣いた泣いた。
おそらくは最近罹ってる悲しみに背中を押されて声をかけたせいか、そのやりとりのあまりの…なんて言うんだろ、合う言葉が見つからないな、まぁとにかく重厚な土着な現実なアナログな温厚な感じに、泣いてしもたなぁ。

知ってる人しか知らんだろうけど、FF8のエンディングの抱擁シーンで曇天がサーーーッと晴れていって花びらが舞ったような、あの感覚に半分陥ったんだよ。これマジよ。「うわぁ、いまだ、いまなんだー」って感じ。

しずかちゃんのパパじゃないけど、ホントに天からのファンファーレが聞こえるようだった。「はい~、いまレベルアップしました~」って。
天からのような、五臓六腑から飛び出てくるような、まさに「いまこの時のためでした」ってわかるんだよ。

やっぱりあるねー。さっき載せた詩にも書いたけど、あるねー。必ずマイナスと同量か、それ以上のプラスがマイナスの中にはあるねー。


そうそう、彼ら家族はブラジルからやって来たらしい。
今後は以前とはまったく違う目で、心で、彼らと、外国人と接することができそうだ。
言葉はスペイン語か? ポルトガル語か? ドリアン助川氏の言ってた「言葉の森を育てよう」ってのが、奇しくもまたここで効いてくるじゃーないか。増やしたい言語の森にまたひとつ、英語以外にも小さな森ができるかもしれない。
どんな言葉を覚えてやろう。なんとも懐かしい子供の頃の気分だ。「オブリガード」だけはもう知ってるぜ。

犬、吠えてるけど、うるさくなくなった。
神さま、半分呪ってごめーんね。




p.s.
十数年前に思ったことはこっちのほう。
むしろこっちがこの記事のメインかもしれない。
保管庫、やっぱり思った通りだったよ。

【今日の詩リーズ】

今日のだけは(いつもだが)是非見てってください。
これは大発見だと思う。いやマジで。




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仲大輔
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