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ホン雑記 Vol.44「Fly Me to the Moon」

「ルナエンバシー」という企業がある。

アメリカの企業だが、日本でもルナエンバシージャパンに業務委託をしている。

商品は「月の土地」である。


アメリカ人のデニス・ホープ氏(ルナエンバシー本社CEO)は、ふと「月はいったい誰のものなのか?」と思いつき、その所有権に関する法律を徹底的に調べあげた。

宇宙に関する法律は「宇宙条約」だけであった。この法律は、惑星・衛星の土地を国家が所有することは禁止していたが、個人の所有に関しては言及されていなかった。
このイビツな法の隙間を突いて、月の土地を取得してしまえば販売できるのではないか? と考えたホープ氏は、サンフランシスコで月の所有権を申し立てたところ、なんとこの申し立てが受理される
さらに月の権利宣言書を勝手に作成し、国際連合、アメリカ合衆国、およびソ連(当時)の各政府に提出したところ、宣言書に対する異議が無かった

だから、ホープ氏はルナエンバシーを設立し、月の土地の販売を開始した。
どんなんだよ。
出演者全員アホなのか。


実際に人類が月に到達する未来が来て、そこに人が住み始めるとしたら、さすがにその時に正統な土地の所有権はない。ある意味「ごっこ遊び」のようなものだろう。

だがルナエンバシー社は、もしもその時が来たなら、あなたの土地であると全力で主張はしてくれるようだ。

月の土地は、ハリウッドスターや各国の資産家や著名人、日本では、福山雅治、香取慎吾、福原愛、そして堀江淳などらが購入している。


商売の理想は「売れ残りナシ&欠品ナシ」だと言うが、売り物としてはこれ最高だなと思った。形がないんだから。
それっぽい権利書みたいなのは送られてくるらしいが、企業側は注文が来たら適当に印刷して送っとけばいいだけ。素晴らしい。

で、これを受けて「そんなの詐欺じゃん!」と憤るのか、「何かここから学ぶことはないのか?」と考えを巡らすのかで人生は大きく分かれるのだろう。

いったい、これは何が売れているのだろうか?

たぶん「ロマン」なんだと思う。
友達に会った時に権利書をチラつかせ、38万km離れた星を指差し、「あの月の一部分は自分のもんなんだぜぃ」と言いたいのだ。
普段はそんなに意識していない、遠く離れた「ウサギ」の一部に想いを馳せたいのだ。

インフルエンサーが買うことで、これは買うに値するのだとみんなが信じた(「私詐欺に引っかかってないよね?」と思った)のも大きいだろう。(2018年時点で600万人が所有)

「ストーリー」が売れていると言ってもいいかもしれない。
「何もないところに価値を見出して、発生するストーリーを売る」といったところだろうか。
それは、なにもこんな突飛なビジネスだけに当てはまらないのだと思う。

いつもよりネギを多く売りたければ、坂本九の「上を向いて歩こう」を店内に流してみるのもいい。年配の人はなぜだかすき焼きが食べたくなって、ひょっとしたら1本でも多くネギが売れるかもしれない。

この例はちょっと狙う的までが遠すぎるかもしれないが、とにかく「想起させる」イベントを商品にくっ付けてみるのだ。


オレが20年前に勤めていたパソコンショップの社長が、ちょっと業績が伸び悩んできた頃にこんなスローガンを掲げた。

「情報で売る、情報も売る、情報を売る」

最初のだけは売り物が情報ではない。集客の一環として店員ならではの知識を使ってパソコンを売るということだろう。

残り2つは情報自体を商品にしようとしている。なかなか具体化は難しかったようだが、名古屋では最初にメイド喫茶を作ったパソコン屋として、先端を行っていたと思う。

とどのつまり、昨今は付加価値の「付加」に期待される部分が大きくなってきたのだろう。Wikipediaにこそ載っていないが、「プロセスエコノミー」という言葉も方々で聞くようになった。



今売っている物とくっ付けられる情報、世界観、概念などがないのか、思考を巡らしてみるのも楽しいかもしれない。


月のほうは、1エーカー(約1200坪=サッカーグラウンド1つ分)がたったの3000円ほどだというから、話のネタにいかが?

プレゼントにしたら、もう1つストーリーが増えるよ。




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