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ホン雑記 Vol.643「下だと思ったら上だった」

知人のピアノの先生が、小さな小さな生徒さんの基礎練習風景をアップしていた。

と思ったら、そのちっこい女の子はサンタさんのぬいぐるみの手を持って、彼に弾かせてあげていたのだ。
先生は「習ったことをサンタさんにも教えてあげてるんでしょうね」って言ってたんだけど、その数秒しかない可愛らしい動画に自分でもビックリするほど引き込まれた。


おっさんになって、ちっこい子自体がどんどん可愛く見えてくるってのもある。が、一番の理由は「なぜ?」だった。なぜこんなことをするんだろう。なぜ? なぜ? why?
練習の意味のほうじゃなくて、サンタさんに教えてあげるほう。

最近オレはオリジナルピアノ曲をYouTubeに上げたんだけど、これが過去最高に編曲にこだわった。編曲ってか作曲でいいんだろうけど。歌モノがメインなんでそこは編曲って感じで。
いちRPGをクリアするのに掛かるぐらいの時間は掛かっただろう。感覚では50時間ぐらいか。ギュッとしてそんぐらいなんで、数日間はちょっと打ち込んだ感ある。
ごらんのとおり(ごらんなさい)、ピアノまで借りてここ数年で一番頑張った。普段なーんも頑張ってないから数年っつってもたいした頑張りじゃーない。

で、それがいまは見向きもしなくなっちゃった。一生を掛けて自分のものにしていくとか書いてるけど、もう一生分頑張った気になってる。
思ってはいけないことを、毎回思うのだ。歌モノでもそうだけど毎回思ってしまう。
「この曲、意味ある?」
って。
これは音楽が上手くなれない自分の2000倍ぐらい空恐ろしい感情でしてね。まぁ、いまもやってるんで毎回戻ってくるんだけどさ。それが力を入れれば入れるほど、あとで空虚感に襲われてる気がする。いまんとこそうだわ。
そういうつまんねーヤツになったからか(つまんねーのはそこだけね。他は素晴らしいよワシは)、その女の子の持つ圧倒的理由にめまいがしたのだな。「この子には勝てん」となぜか思ったのだ。

気持ち悪い話をするけど、以前2ミリぐらいの黒くて丸い虫を30分ぐらい見てたら頭がおかしくなったことがある。ゲシュタルト崩壊して、どうやっても虫に見えなくなってしまった。自分でもその感覚に「え?」ってなった。
何か大いなるものがあらかじめ打ち込んだプログラムにしか見えなくなった。そうじゃないと、こんなものが動くはずがないと。次の日に別の虫を見たらちゃんと虫に見えたんで安心したんだけど。

それと同じような感覚で、その女の子が音楽の神に見えた。虫の時ほどパニックにはならなかったし軽い感覚だけど、まぁ当然泣いた。相手はこのオレだからね。これは泣き虫には効くわね。


オレ的には世界一写実画が上手いと思ってる人がこんなことを言っていた。
「ちゃんとした大学での教育課程を経てなくて、何かを取りこぼしてる不安がずっとある。こないだも若い人たちに会って絵を観てみたら、その年頃の自分にはないものを持っててヤバかった」
すまん、ヤバかったは完全にウソだ。そんなアホっぽい人ではない。完全に忘れたんでそんなようなニュアンス、とにかく負けてるというような終わり方だった。
それを知って、「え、あなたトップオブトップじゃん。こんな人でもそんなこと思うの? それがスゲー」なんて思ったのだ。

そんなことがあったんで、その女の子にうっすらと音楽の神が見えた時にオレはたいそう喜んだのだな。自分も完全に独学だけど(その画家と雲泥なのは知っております)、彼女がオレの目にそう映ったってことは、「音楽」
の道を踏み外してるわけではないんだろうな、と。


ただ、オレは歩みがねぇ、カタツムリ並みなんだねぇ。




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仲大輔
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