ホン雑記 Vol.598「楽神」
いまんとこは世迷言だけど、鍵盤での新しい奏法みたいなものを生み出せないかと思ってずっと考えてる。あ、もちろん弾いてる。考えてるだけじゃーない。
腕のほうは、良くて中の下ぐらいか…なんて最近言ったけど、どうやらもっと低そうだ。初心者? までは行かないだろうけど、完全な初級だろう。「鍵盤奏者」のくくりに入れられたら下の中ぐらいなんじゃないか? と思いはじめた。
どっかの落語家が言ってたけど「だいたい似たような腕前かな、と思う相手は遥かに上。こいつぁ相当マズいね、と思う相手とトントン」なんて法則があるらしくて。うへぇ。
「そこまで盲目的にはならんだろ。自分に多少の色は着けるかもしれんけど」なんて思ってたんだけど、昨日あたりからガクブル(もう何度目かの)しだした。こりゃホントかもしれん。
「ドレミファソラシド」どころか「ドレミファソ」(特にミファソ)さえ、まともに弾けてないと気づいてきた。イヤすぎる。
この法則、簡単に言やぁ自殺しちゃわない防御反応だろな。だからみんながみんな、みんなをアホだと思っちゃうのだ。脳は「キミ、平均よりちょっと上だよ」と思い込ませてくれるのだな。逆に自分を低く見積もる人もいるけど、これも同じことらしい。自分を特別扱いしてるのだ。
はっ!
もう話ズレはじめてる。よう気づいた。ってかこんな最初からようズレたな。
えーっと、で、そうそう、「そんなド素人のクセに新奏法を生み出すとか言っちゃってるんですけれども~」の言いわけっぽいことのほうに突き進んでしまった。
で、その助けになるかな~? と思ってショパンの本借りて。その次に辻井伸行氏をちょっと調べて、それから韓国の4本指のピアニスト、イ・ヒア氏の本を注文した。
なんか新奏法のためにバチコーン来たのだ。その人たちに頼ろうと。本を頼んだあとで気づいたんだけど「あ、そういやふたりとも健常者じゃないじゃん」と思ったんだよね。
自分の行動にあとから自分で「へーっ!」だったんだけど、これは当然の導きだわな。
辻井氏は自分のミスタッチにイラつきはじめた時に調べた。
以前イチローが「脳がバットを持った時の長さをわかってる」みたいなこと言ってて、脳の中に「この人はバットを持つ人なんだな」という身体感覚が入っちゃってるらしいんだな。まさに体の一部ってヤツだ。
それを覚えてたせいかどうかしらんけど、だったら鍵盤を見たこともない辻井氏が一番、ミスタッチしない用の身体感覚を持ってるんじゃないかと思ったのだな。
イ・ヒア氏のほうは(おそらくは)独学での最高峰だろう。
彼女専用のボディを使って、どこまでたどり着けるのかだけを母子ともに考えて歩んだ。お母さんは「これは人間の生活ではない。戦争だ」と言う。これほどに自分で限界を作らない人は他にいないだろう。ヘレン・ケラーとサリバン先生さながらだ。
5年半をかけて、ショパンの難曲『幻想即興曲』だけを弾き続けてマスターした。もちろん彼女用のアレンジバージョンだが、いままでに見たピアニストの中でも一番意味がわからなかった。こんなことが人間にできるのかと思える。
ふたりとも、まったく違うところからピアノに照明当ててるイメージあるなぁ。
いまんとこ、口だけで(いや数時間弾いてはいるけどさ。口は5倍ぐらい先をしゃべっちゃうからさ)見上げてるだけのオレだけど、誰かを仰ぎ見るってのは少なくとも間違っちゃいないと思うんだよね。遠ざかることだけはない。尊敬と悔しさがどんどん心底に溜まっていくんだ。
「これってできるんだ!?」と脳に思わせるのってホントだいじだ。
日本の陸上100m走の選手たちも教えてくれてる。