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ホン雑記 Vol.779「結局老子全然出てこないわ」

ドリアン助川氏の書いたバカボンのパパと一緒に老子を読む、みたいな本を読んでいる。バカボンのパパはほとんど出てこない。


2500年ほど前にいたなんだかすごいおっさんらしいけど、老子ってのは書物の名であることもそうだし、個人名ではなくて集団だったのでは? とか、そもそも実在した人たちの名前じゃないんじゃね? とか、いろいろな説があるみたい。
だけど、どっちにしたって思うのは「よくこんな大昔にそんなことに気づいたな。変人だな」ってことなのだ。
まだ1割ほどしか読んでないけど「うほほー」と思ったところを書いてみる。

それがそもそも本線には関係のない、ドリアン氏の脱線話のところなんだけどもね。
「本当に大切なものは目に見えない」みたいなことが書かれてる箇所の脱線話で「では名付けるとはどういう行為なのか」なんて流れになって。これが「うほへー」だった。


ドリアン氏は2000~2002年までニューヨークで暮らしていて、そこで日米混成のロックバンドを組んでたという。せっかくだから日本でデビューさせようぜってことになって、ベーシストのアメリカ人は日本で暮らすことを決断して訪日してくれたらしい。
で、歓迎の意も込めて、決して安くない寿司屋に連れていってあげた。するとベーシストは冷蔵ケースの中をいろいろと指さすんで「あれはタイだよ」「それはカンパチ」だよとすべて握ってもらった。
彼が「うまいな」と覚えたての日本語を連発してくれたのは良かったんだけど、帰り道でドリアン氏は驚かされることになる。その彼が、
「日本人はなんで魚にぎょうさん名前をつけんねん?」
って言うんだな。それからひとり言のようにボソッとつぶやいた。
「Fish is fish…」(魚は魚やおまへんか)

つまり彼は魚の区別がまったくついてなかったのだ。少なくとも白身赤身の程度ぐらいにしか。次からはヤツは回転寿司でいいや、とドリアンさんは思ったという。
考えたらニューヨークの寿司店ではハマチもブリもカンパチも全部イエローテイルだ。魚屋にしても、キャットフィッシュ(ナマズ)やレッドスナッパー(タイ)の区別ぐらいは客のほうもつくけれど、あとはカットされた白身と赤身が大雑把に並んでいるだけ。
タラを鍋で、サワラを西京焼で、ノドグロを煮物でいただくというあの色とりどりの感覚はなく、全部同じ白身やおまへんか、となるらしい。
ちなみにそのベーシスト氏は名門大学の生物学科を出てるんだけど、虫の名前は一切わからないという。カブトムシもクワガタもカミキリムシも、アメリカ人にとってはどれも同じ「ビートル」なのだ。

この話は名付けるということの本質を表しているとドリアン氏は言う。つまり、人間は意識下で区別のつくものだけに名前を与えてきたのだ。このことをかつての天才言語学者フェルディナン・ド・ソシュールは、
「命名とは、周囲との差異が認識できる対象を個別化し、自分の世界の中に住まわせること」
だと提唱した。それは逆説的に言えば、自分が勉強したい領域や、仕事にしたい分野の名詞を積極的に取りこんでいく行為は、意識の上でその世界を創造してやることにつながるのだとドリアン氏は言う。
で、その詳しいメカニズムは拙著『プチ革命 ~言葉の森を育てよう~』に書いてあるから興味のある人はうんぬんと書いてらしたんで、見事に策略に引っかかってポチってしまった。

でもここはなんか読んでて楽しかったなぁ。魚やビートルの話が出た時に「あ! ってことはもしかして!」って思ってたら、逆説的に言えば…とすぐに来たんだから。ドリさんと対話してる気分だったさ。

虹は国によって2~7色までの差があるという。もちろん浮かび上がる光のスペクトルはどこだって同じなので、認識上の差異ということだ。日本人にはどうやら7色に見えるし、風の名前だって2000もの日本語があるという。
日本人が頭良いと言われるゆえんは言葉の中にあったんだな。それはこの国の祖先たちが意識してきた目に見えるもの、見えないものの総量が他国よりもちょっとばかし多かったってことなんだろう。
そして、いろんなことをいろんな人に精細に言いたい、共有したいがために言葉を増やしていったのに、語り尽くせないことも同様に増えていったんだろうな。わびさびなんてまさにそんな感じじゃないか。


あ、またワシうるうるしてきたわ。そんな国に生まれたことのその僥倖よ。
「神」とか「ヤバい」だけで表現するのはあまりにもったいなさすぎるぜ。

少なくとも自分は、彩りあふれる言葉を使っていこうと超思った。
マジ超思ったから。




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【今日の過去曲】

お、いきなりなんやねんワレ? とお思いでしょうが、昨日から「オリジナルミュージックマガジン」の中から過去曲を順繰りでおしらせさせていただいておりまするm(_ _)m

あら、今日のは曲名が見えないな。
「望郷」というオーケストラっぽい曲であります。いまんとこマガジン中で一二を争うほど時間かけて作った曲。インスト(歌ナシ)は久石氏と植松氏の影響を一番受けてると思うんで、興味あるかたは聴いたってくだされ。
まったく片鱗なかったらごめんやしてm(_ _)m

でもそれはオレにとっちゃいいこと。




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仲大輔
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