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ホン雑記 Vol.320「溺幸」

「身体完全同一性障害」という心の病気がある。いや、病気…なんだろうか。

あるアメリカ人女性は、6歳になる頃には「目が見えるということ」が苦痛になっていた。母親から「太陽を見ると目が悪くなる」といわれ、子供時代はずっと太陽を眺めて過ごしたという。10代になると黒いサングラスをかけはじめ、18歳で白杖を手に入れ、20歳で点字を独学でマスターした。

そしてとうとう、偽物の盲人であることに耐えられなくなった。

2週間にわたる精神セラピーを受け、自分の意志が揺るぎないことを確認したのち、心理学者立ち合いの元、失明のためのプロセスに入った(とても単純な方法だが想像したくない人のため伏せる)。
そこにいた救急医たちは、女性の意志に反して彼女を失明から救うため最善を尽くす。しかし、もくろみ通り女性の瞳はその後半年かけて徐々に光を失い、最終的に失明したのだった。

9年経って、彼女は盲人会にも顔を出し、以前よりずっとハッピーに生きていると笑う。
「私は正しい選択をして、まったく後悔していません。これが自分の本当の姿です。本来なら生まれつき盲目のはずだったのでしょう」と語っている。唯一残念なのは、家族に対して「事故で目が不自由になった」と説明していたところ真実を知られてしまい、勘当されてしまったことだという。


これ、少し分かる気がする。少しだけど。
昨日「どうやら糖尿病ではなさそう」って記事を書いたけど、オレと糖尿病の関係各所には大変申し訳ないが、「なんだ。違うのか」と少し落胆した。
落胆のほうが2割ぐらいなんで、まったくこの女性ほどではない。安堵のほうが大きい。

6歳から目が見えることに違和感があり、「生まれつき盲目のはずだった」とまで言う人間に対して「なんともったいないことを。晴眼者であるありがたみを知れ」と憤る者は、おそらくは誰とも深いコミュニケーションは取れていないだろうと考える。
これが間違った考えかどうかはオレの知るところではない。
この女性と同じく、そもそもオレの中にある考えで、あとから入った考え方でも教育のやりようによっては取り除けたはずの考え方でもない。

はるな愛に「それ勘違いだよ」とは誰も言わないだろう。実際、本人がのちのち「あれ、やっぱり自分男かも知れん」と思ったことがあったとしても。

バカみたいに成長に憧れる子供に「大人になるよりそっち側のがいいんだよ」とは誰も言わないだろう。いや、これは一定数いるか。気持ちは分からんでもない。さすがに子供にそんなことは言わないが。


当人にしか分からぬ闇がある。
ただの人生への刺激欲しさかもしれない。それでも、周りからは想像だにできないほどの藻掻きがあった上での欲求だ。
自分が買ったRPGのソフトだけ、初期不良でまったくHPの減らない仕様だったら… 結構つらいものがある。アイテムも、回復呪文も、防具も必要なくなるんだから。
いや、自分がそうというわけではないけど、たとえるならその路線かなと。逆の目線で言えば、スラムに生まれた人が「日本に生まれた時点で生涯悩むな」って言ってくるようなものだろう。
ありがたい状況をありがたがれと言われても、先の女性も困るだろう。



幸いオレの場合は、実際にことが起これば「違うのか」と思ってしまったことを激烈に後悔しそうなのはなんとなく分かるんで(とはいえ、そうなる前までそう思うことは不可避)、障害とまではいかないんだろう。

スポットライトを浴びてなお、死に向かう人の気持ちがよく分かる。
勘当する人間の気持ちはよく分からない。




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