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雑記1139「触れないマイヒーロー」

オレもそうなんだけど、オレの好きな著名人たちもだいたい、目に見えない世界が好きだ。
その人がそんな話をしてるのを聞いてからその人を好きになるわけじゃーもちろんなくて、やっぱ最初からその人の内側と外側に出るんだろうね。

で、こういう世界がまったく無いと思ってる人もいるみたい。
逆にそっちばっかに持ってく人も同じぐらい嫌いなんだけど、そういう世界ってのは上から見た道路のトンネル部みたいなもんで、見えてないだけで普通にある。んでまた表層に出てくる。

そのトンネル部を、無いと思ってる人にもあると思わせるのにうってつけのエピソードがあった。
ま、その話がそのトンネル部を浮かび上がらせると思ってること自体が、そのトンネル部があると思ってる人間の思いであるのかもしれんけど。
何言うとんのかわからんな。


やなせたかし著『何のために生まれてきたの?』の最後に書いてあったんだけどね。

3.11の震災後、まったく笑顔を失ってしまった小さな子供が、アンパンマンの絵を見たとたんに笑い出して、それを見たお母さんは嬉しくて泣きだした…といった手紙をもらったことがあるという。

そこでやなせ氏は思うのだった。
「小さな子供たちには、アンパンマンは実在しているのか」
そういう声を聞いてしまった以上、僕はそれに値することをしなくちゃいけない…。
そして、長年「何のために生まれて、何をして生きるのか」ということにずいぶん悩んできたけど、やっぱり子供たちのためにお話を書いたり、絵本を描いたりするのが自分の天職なんだなぁ、と思うようになる。

その子供に笑顔を作らせたもの、それが目に見えない部分だ。
ヒーローの形が丸くて可愛いからなのか、笑っているからなのかはわからないけど、氷結した子供の心を一瞬解かして笑顔まで作らせたもの。
ひと言で言っちゃえばそれは「心」ってやつなんだろうけど、そこは魂なのか天なのか神なのか自然なのか世界なのか宇宙なのか…そういうものとつながってんだよね。あるいは同じものなのか。
そしてそれは、生み出した当人にとっても目に見えないものであるのかもしれない。

さっきのエピソードの前のページに、やなせ氏の自作の詩である「夕日の歌」が載っている。
この「夕日」とはアンパンマンのことで、自分の晩年にこのヒーローと巡りあえた。もうすぐ暗い夜が来るのに、なんという真っ赤な夕焼け。君に逢えて良かった、という思いを書いたものだ。
ということで、やなせ氏はアンパンマンに感謝してるんだね。自分で生み出したという感覚は少ないのかもしれない。

最近Xをはじめてくれた桂正和氏も(そのちょっと前にたまたま思いついてXで探して「やってないのか~」って思ったとこだったんだよ)、
「自分で描いといてヘンだと思われるかもですが、45年ほど前から描いてきた漫画作品と、その中にいるキャラクターたち、アニメの彼・彼女たちに大変感謝してます」
って言ってたんだよね。

あー、天野喜孝氏もそうだ。「絵の中の人物たちに何をしてあげられるだろう」ばっかり考えてるって。

オレはまだそういう心境を理解しきれないけど(音楽だから擬人化しにくいってのもあるかもだけど。いや、まだ全然足りないだけだろうな)、普通の人ではなかなか味わえない類の感謝の念が湧くっていうのは、さぞ幸せなことだろうなぁと思った。
別に有名無名は関係なく、街角のパン屋さんとかでもそれは同じなんだろう。


あ、見えないものによくアンテナ合わせる人って、結構感謝がセットかもしれないな。
何かうまくいった時に、自分の力だけではないって思える人。

合わせすぎの人はまた違う気がするけど。




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仲大輔
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