羊が1匹、ハンバーガーが2段

 羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹……。眠れないとき、羊を数えると寝付けるといいます。これは英語圏の文化で、SheepとSleepが似ているため羊を数えるのです。勿論、もふもふした羊のイメージがもたらすリラックス効果にも眠気を誘う力があるため、我々日本人にも眠れぬ夜に羊を数える意味は多少はあると思います。

 しかし、もし羊肉がもっとカジュアルに食卓に並ぶほどメジャーな食材だったら、羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹……、と数える度に頭に浮かぶのはもふもふかわいい羊ではなく、熱々の鉄板の上で焼かれる美味しそうなお肉であったでしょう。これではお腹が空いてしまって寝るどころではないです。
 しかし、もし脳内がジンギスカンで埋め尽くされようとも眠りにつくことができるというのであれば、もはや数えるものが羊である必要はありませんよね。例えば、ハンバーガーが一個、ハンバーガーが二個、ハンバーガーが三個……、とか。

 では、実際にハンバーガーを数えて寝付けるのかどうか試してみましょう。

ハンバーガーが1個……

ハンバーガーが2個……

ハンバーガーが3個……

ハンバーガーが4個……

……

ハンバーガーが51個……

ハンバーガーが52個……


……

……

寝付けました!しかし、悪夢を見ました。世界の秩序が崩壊する夢を。ハンバーガーを数えることで寝付けるかという検証としては成功ですが、悪夢を見てしまったら折角の睡眠も台無しですね。恐らくですが悪夢を見てしまった原因は、眠りにつく前の頭の中を支配していたハンバーガー、それを数えるたびに脳内空間にハンバーガー煩雑に転がるイメージのせいでしょう。無秩序に散らかったハンバーガーが世界秩序崩壊の夢を見せたのだと思います。であるならば、数えたハンバーガーを綺麗に置いていったらいい夢をみられるのではないでしょうか。例えば、ハンバーガーを積み上げてみるとか。これも試してみましょう。

ハンバーガーが1個……

ハンバーガーが2個……

ハンバーガーが3個……

ハンバーガーが4個……

……

ハンバーガーが126個……

ハンバーガーが127個……
中々眠れません。どんどんハンバーガーのタワーが高くなっています。ハンバーガーを数えても置き方が悪いと眠れないのでしょうか?引き続き寝付けるまでハンバーガーを積み上げてみたいと思います。

ハンバーガーが128個……

ハンバーガーが129個……

……

ハンバーガーが997個……
もうすぐ1000の大台に乗ってしまいそうです。

ハンバーガーが998個……

ハンバーガーが999個……

ハンバーガーが1000個……

ハンバーガーが1001個……

……

ハンバーガーが8933個……

ハンバーガーが8935個……
ハンバーガーを二個同時に積むテクニックを身につけました。眠気はありません。

ハンバーガーが8937個……

……

ハンバーガーが58884個……

ハンバーガーが58894個……


まずい、ハンバーガータワーが倒れる!!!


……

……

寝付けました!しかし、悪夢を見ました。道路を歩いていたら陸クジラに鞄を食べられる夢を。雲よりも高く積み上げられたハンバーガーの塔。天に近づくほど目は冴えてゆき眠れる気がしませんでした。ところがハンバーガータワーがバランスを崩して揺れ出すと同時に揺さぶるような眠気に襲われ、タワーの崩壊と共に私は眠りの世界に入りました。そうして見たのは陸クジラ。タワーの安定感を奪ったバンズのドーム型の形状がクジラの背中を想起させたのでしょうか。何はともあれハンバーガーを数えて積み上げいくというのは全く寝付けないうえに悪夢を見ることになって最悪の結果となりました。地上にハンバーガーを転がしておくのもダメ、積み上げるのはもっとダメ。他にいい方法はないでしょうか?
 考えてみるとハンバーガーの積み方というのは何パターンか考えることができるものです。さっきは完成されたハンバーガーを一個一個積み重ねていくというやり方でした。では今度はハンバーガーを完成させることなく、一個の多層構造のハンバーガーとして積み上げ続けみましょう。要するに、バンズ、パティ、トマト、レタスのセットを一段として、これを眠りにつくまで積み上げてみるということです。これなら世界を混乱に陥れる無秩序さも陸クジラの背中のような頂上の半球状のバンズもありません。きっといい夢をもたらしてくれると信じています。ではやってみます。

ハンバーガーが1個……

ハンバーガーが2個……

……

間違えました。今回の場合、積み上げても積み上げてもハンバーガーの数は1個ですね。増えるのはその1個のハンバーガーの段数です。では、気を取り直して。

ハンバーガーが1段……

ハンバーガーが2段……

ハンバーガーが3段……

ハンバーガーが4段……

……

ハンバーガーが384段……

ハンバーガーが385段……
これは眠れないパターンに入っていそうです。しかし積み始めてしまった以上はもうやめるわけにはいきません。続けます。

ハンバーガーが386段……

ハンバーガーが388段……
2段同時積みに成功した所を見られてしまいました。少し照れくさいです。
ハンバーガーが390段……

ハンバーガーが392段……

……

ハンバーガーが4955段……

ハンバーガーが4959段……
まだまだ眠れそうにありません。飽きたのでここからはチーズも入れたいと思います。

ハンバーガーが4964段……

ハンバーガーが4968段……

……

何段積んだか分からなくなってしまいました。一旦キリのいい56200段から再開します。

ハンバーガーが56215段……

ハンバーガーが56233段……

……

ハンバーガーが85966段……

ハンバーガーが85997段……
富士山(脳内)の高さと並びました!しかし真の目的、寝付くことはまだ達成されていません。

ハンバーガーが86022段……

……

ハンバーガーが145535段……

ハンバーガーが145571段……
もはや意識せずとも、まるで私でない誰かがハンバーガーを勝手に積みあげてそれをボーッと眺めるような感じでハンバーガーを積み上げられるようになりました。でも眠気がある訳ではないんですけどね。

ハンバーガーが145614段……

……

ハンバーガーが220465段……

ハンバーガーが220493段……
脳内空間の地表が遥か遠くに見えます。眠気も遠くにあります。

ハンバーガーが220520段……

……

ハンバーガーが556423段……

ハンバーガーが556463段……
!!!見てくださいこの絶景を。と言っても私の脳内空間ですので皆さんに直接お見せすることはできませんね。頑張って言葉で伝えようにも、どう言い表したらいいのか考えてしまいます。途方もなく高く積み上げられたハンバーガータワーの上から輝く星々に満ちた宇宙を見下ろしているという感じでしょうか。とにかく美しい光景が私の脳内空間に広がっているのです!これが人間の想像力のなせる業。人間に生まれてよかったと改めて思いました。それはそれとして流石にそろそろ寝たいです。

ハンバーガーが556497段……

……

ハンバーガーが2743663段……

ハンバーガーが2743705段……
段々と頭が痛くなってきました。寝不足ですかね?

ハンバーガーが2743744段……

……

ハンバーガーが3956798段……

ハンバーガーが3956834段……
痛っ!!私の脳内空間の天井、つまり想像力の限界に脳内空間の私が頭をぶつけてしまいました。あれ?もう少し上までいけそうですね。折角なので想像力の限界を超えてハンバーガーを積んでみましょう。

ハンバーガーが3956876段……

ハンバーガーが3956904段……

……

ハンバーガーが4005261段……
段々と頭痛が強くなってきました。それも内側から突き刺すような頭痛です。一体何が原因なのでしょうか?

ハンバーガーが4005299段……

ハンバーガーが4005334段……

……

ハンバーガーが4005892段……

ハンバーガーが4005936段……

ハンバーガーが4005981段……

ハンバーガーが4006014段……

ハンバーガーが4006056段……
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!

……

え??!!

頭に穴が開きました!!現実世界の私の頭頂部に!!何で??

「ハンバーガーガ4006095ダン、ハンバーガーガ4006134ダン、ハンバーガーガ4006165ダン………アッ!!ヤットデレタ!!」

???

脳内空間の私が想像力の限界のさらに先、物理的な頭の壁を突き破って現実世界の私の頭から出てきてしまったみたいです!!

「アッ、タクサンチガデデル!!デモダイジョウブ!!ワタシガゲンジツセカイノワタシニナルカラ!!!」

血が滝のように溢れて止まりません!!!ああ、意識が遠のいてきました………。

もうダメです……。

おやすみなさい……

………

「オヤスミ!!!」

トイウカモウカギカッコハイラナイネ!!

半角カタカナである必要もないですね。だって、私が現実世界の私になったのですから!!

 という訳で確か……多層構造のハンバーガーを積み続けたら眠りにつけるのではないかという話でしたね。このハンバーガーの数え方、寝付くまでには時間はかかるものの、ぐっすりと眠れるみたいですよ。この笑った寝顔、きっといい夢を見ているに違いありません!皆さんも眠れない夜には羊を数えるだけでなく、是非ハンバーガーを積むというのも試してみてくださいね!それでは私もそろそろ寝ようと思います。

……

……

眠れません。そうだ!あれを数えることにしましょう!

脳内空間の私が1人……

脳内空間の私が1人でその私のさらに脳内空間の私、それはつまり脳内空間2層目の私が2人。じゃなくて1人……いや私じゃなくて脳内空間に注目すればいいか。脳内空間2層目……

脳内空間2層目の私の脳内空間の私の脳内空間、いや行き過ぎたからえーっと、脳内空間2層目の私の脳内空間は3層目?3層目か……

脳内空間3層目の脳内空間は4層目……でその脳内空間は脳内空間3層目の私のもの……?

何かよく分かんなくなっちゃったからもういいや。


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