鬼滅の刃 無限列車編における「夢」の描写とSF作品の類例
鬼滅の刃 無限列車編を見ました。面白かったですね。現時点では刀鍛冶の里編の放送が終わった頃なので、若干周回遅れ感ありますが(笑)
煉獄さんにスポットを当てた本パート。後半の猗窩座vs煉獄さんの名勝負についてはもはや語り尽くされていると思うので、本稿では前半で登場した魘夢の血鬼術における夢の描写について思ったことを語りたいと思います。
※念のためですが以下、ネタバレを含む内容のためご注意ください。
作中の夢の描写
血鬼術「夢操作」
魘夢の血鬼術「夢操作」は、相手を眠らせて過去や欲望を夢として見せるという術です。魘夢が術を解くか夢の中で自決しないかぎり夢から目覚めることはできません。 そして、術をかけられた者の夢の中の「精神の核」が破壊されると再起不能となります。「精神の核」とは、無意識領域におけるその人の心が具体化したものです。魘夢は手下の子供たちに精神の核の破壊を命じ、鬼殺隊の夢の中に差し向けます。
自らの願望が具現化した夢に閉じ込められる、というテーマ設定。このシチュエーションは個人的に好みだったので、一気にも物語に引き込まれました。
それぞれにとっての夢
煉獄:鬼殺隊を辞めた父との和解と弟の鍛錬
父との確執に悩む煉獄の願望の表れ
炭次郎:鬼により喪ってしまった家族との団欒
無意識領域には澄み切った湖の情景が広がっている。ウユニ塩湖がモデルとなっているとのこと。
家族からの怨嗟の声が悪夢として描かれる。家族を救えなかった炭治郎の後悔の表れ。家族との絆を思い出し、悪夢に立ち向かう。
善逸:禰豆子との逢引き
(善逸の願望丸出しの内容。素直でよろしい。)
猪之助:家来を引き連れて洞窟の冒険
これまた猪之助らしい夢の内容。善逸と猪之助の夢はコメディとして描かれているので、本筋とはあまり関係がない。
こうしてみると、煉獄と炭治郎の夢において、理想や願望が非常にリアルに描かれていて、その通りではない現実との対比が際立っているように思います。理想が叶った夢の中に留まりたい、という誰しもが持つであろう心の弱さにつけ込むという点で、魘夢の血鬼術は巧妙です。
作中においては、魘夢の血鬼術にかからなかった禰豆子の活躍により、全員が夢から脱出することができました。そうして物語は魘夢のさらなる攻撃、そして上弦の月である猗窩座の登場、という形で進んでいきます。ここからの展開は鬼vs鬼殺隊の直接対決という要素が大きいので、本稿の対象からは省くことにします。
それでは続いて、魘夢の夢操作と類似したテーマが描かれる作品として思いついたものを簡単に紹介していきたいと思います。(実はこれが一番やりたかった)
類似したテーマが描かれる作品
パプリカ
今敏監督によるSFアニメ映画。患者の夢に入り込んで、心の悩みを解き明かす夢探偵「パプリカ」としての裏の顔を持つ千葉敦子が主人公。夢に入り込むための装置であるDCミニが悪用される…というところからカオスな夢の描写が続きます。平沢進の壮大かつ美しい楽曲と相まって、唯一無二の世界観が楽しめます。この作品をきっかけに今敏監督の作品を見るようになりました。若くして亡くなったのが本当に惜しまれます。
インセプション
クリストファー・ノーラン監督によるSF映画。パプリカにインスピレーションを受けて制作されたそうです。
他人の夢の世界に入り込み、アイデアを盗み出すスパイ稼業を生業としていたコブが、とある依頼を受けて仲間とともにターゲットの夢に入り込み、一大ミッションに挑む、というのがあらすじです。
夢の中の夢、という重層構造が展開されたり、現実を捨てて夢に生きることの甘美な側面と残酷な一面が描かれたりと、ボリュームに富んだ作品になっています。SF映画好きにおすすめの一作です。
攻殻機動隊 映画監督の夢
攻殻機動隊S.A.C 12話より。ついに名声を得なかった老映画監督が自らの脳を箱の中に埋め込み、迷い込んだ観客が求めるままに素晴らしい映画を流し続けていた、という内容のサイコホラー的エピソード。
エンタメの在り方をめぐって主人公の少佐と映画監督によって交わされる対話は印象的。不幸な現実を抱える観客から夢を取り上げるのは酷いのではないか、と問う監督に対し、少佐は以下のように語ります。
攻殻機動隊は他にもたくさんの名エピソードがあるので、別の場所で紹介したいと思います。
マトリックス
言わずと知れたSFアクション映画の金字塔。人類が機械に敗れた未来が舞台。人類は機械の電池としてマトリックスというシステムに取り込まれ、仮想世界で夢を見続けさせられていたのでした。そうして真実を知る少数の者が反乱のため立ち上がる、という物語です。三部作の構成となっており、設定もストーリーも見事で見応えがあります。(ただ、アクション映画を普段見ない私にとって、格闘シーンはやや冗長でしたが、、笑)
火星年代記 第三探検隊
レイ・ブラッドベリの短編集「火星年代記」より。地球を出発して火星に辿り着いた第三探検隊は火星人との接触に成功します。しかし、火星人からの反応は実際には歓迎とは言い難いものでした…
できればネタバレなしで楽しんでいただきたいので、ここでは詳細は控えます。紙幅は短いですが非常に印象的なエピソードでした。
ドラえもん のび太のパラレル西遊記
番外編というかおまけです。私の記憶が正しければ、中盤あたりの展開で、のび太たちが敵の住処から逃げ帰ってきていつもの家に帰ってきたと安堵するのも束の間、パパやママに化けていた鬼がいきなり正体を表し、のび太たちは慌てて逃げ帰る、というシーンがあったように思います。
鬼が正体を明かすシーンが妙にホラーで、子供の時に見たということもあり軽くトラウマでした(笑)
夢というテーマからは少し逸れましたが、鬼が見せる幻覚は夢とも少し近いニュアンスがあるように思ったのでここで紹介させていただきました。
まとめ
夢は、自らの願望がすべて叶った甘美な天国にもなりますが、同時に自らの心の闇やトラウマが容赦なく襲い掛かる地獄ともなりうる、という恐ろしさも有しています。また、現実から目を背けるための逃避先としての性格を持つ場合もあれば、相手に幻覚として見せて精神攻撃を加える手段として用いられることもあります。
創作作品における「夢」というテーマは非常に興味深いな、と思いました。想定していたよりもかなり長文の記事になってしまいましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました。
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