矢崎エナジーシステム 沼津製作所編
都市の血管や神経として、私たちの生活を支える電線。
こちらのブログでは電線の製造工程や、電線工場で働く方々を取材し、電線のおもしろさを探究します。
前回に続いて静岡県にある矢崎エナジーシステム株式会社さんの富士工場、沼津製作所を取材し、アツアツの溶銅炉で作られた荒引線がどのように電線になっていくのかを追って、電線工場の様子をご紹介します!
頭上を飛び交う電線を追って
8ミリの荒引線はミリ単位で引き伸ばされます。細く引き伸ばされることによってしなやかになり、狭いところや動きのある場所でも使いやすくなるのです。
荒引線は、自分がどんな製品になるかをまだ知りません。家の中に電気を配るため、天井や壁の内側で使われているV V Fや、配電設備や工場など、広く使われる600V CVTなど、それぞれの仕様にそった加工をされます。
線をより合わせる
引き伸ばされた銅線は、マシンを使ってロープのようにより合わされ、さらに層を重ねます。
この工程によって、一本の電線でより多くの電気を流せるようになり、電線の丈夫さやしなやかさも増すのです。
銅線が規格通りの太さになっているかは、職人さんの手で検査されます。
「ノギスを使って電線の太さを測っています。慣れてくると、製品が規格通りかどうか、数字で見なくとも感覚で掴めるようになってきますね。でも、もちろんしっかり測っています。簡単そうに見えますが、新人さんが入ってきてから、この作業に慣れるまで早くとも半年はかかりますね。もちろん、毎日これだけをやっている訳じゃありませんよ。」
職人さんの「当たり前」
線の上から樹脂をかぶせる作業でも、その日の温度や絶縁材となる樹脂の状態の見極めなど、繊細な感覚が欠かせません。
被覆や押出(おしだし)をはじめ、電線を作るさまざまな工程には経験値が必要です。それを仕事にする人たちは、自分の担う作業が特別なことにならなくなるまで、日々真剣に向き合っています。
富士の麓のきれいな水で
被覆をした線を冷やすため、矢崎さんでは富士山のふもとの井戸水を循環させて使っています。きれいな水に、電線もなんだか気持ち良さそうです。
タンデムライン
矢崎さんの工場は、いくつもの工程を切れ目なく同時進行する「タンデムライン」が採用されています。高いところから見てみると視界の全てに機材があり、迫力があります。
びっくりしたのは、頭の上にも電線のための通路があったこと!
次の工程にスムーズに進めるよう、線も休まず走っているのです。
やわらかさは役に立つ
主力製品の柔らかい電線は、一見普通の電線と同じ見た目をしています。
しかし、触ってみると力の弱い私でもぐんにゃりと曲げられ、そのまま跳ね返ってきません。そもそも、なぜ柔らかい電線を作ったのでしょうか。
矢﨑 航 社長にお話を伺いました。
「柔らかい電線は、仕事で電線に触れる方々が安全で、より楽に仕事ができるよう開発しました。さまざまな人が扱いやすく、分電盤など狭い場所に取り付けるためぎゅっと曲げても身体などに跳ね返らないので安全です。最初は思ったより数が出なくてヒヤヒヤしたのですが、使った人がファンになってくれて、今ではこの会社の主力製品の一つです。」
電線は金属でできているので、硬いのが当たり前。この常識をひっくり返す柔らかい電線は、もしかすると電気工事の未来を広げ、新しい常識を作っていくのかもしれません。
「沼津製作所では、およそ700名もの人たちが働いています。工場での勤務は3つのシフトを1週間ごとに交代します。朝早い日もあれば夜から働き始める日もあり、慣れるまではなかなか大変です。
そしてその中には、親子で働いている方や職場で家族になった方も多くいます。私自身も父と祖父から社長のバトンを受け取っています。親から自信を持って子に薦められる会社を作れているのかなと思うと嬉しいですね。
私自身、この仕事に誇りを持っています。だからこそ、働く時間ができるだけ充実したものになる会社を作りたいですし、ここで働いている人たちのことは家族のように思っています。」
晴れた日に遠くから富士山のシルエットを眺めるように、壁の内側の電線や、その先で働く方々のお仕事知ると電線の見方も変わります。
工場では、人と機材が一つになってものづくりをしていました。ものづくりをすることは、ものを作れる自分自身を作ることから始まるのかもしれません。
写真左から、今回の取材にご協力いただきました岡部電線事業部長、筆者、ウェルにゃん、草谷沼津製作所長、酒井電線開発センター長です。
沼津製作所は室伏さんにご案内いただきました!
皆さま、本当にありがとうございました!