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短冊たち

(7月7日の夜に)

パオの鼻がピンク色になりますように。
ほかの動物も飼育員さんもお客さんもいなくなって、もう長いことパオはひとりぼっちです。ときどき空をピンク色に染めるフラミンゴたちは、パオをこわがって地上に降りてきません。
だけどもしパオの鼻がピンク色だったら、パオは上手に鼻を持ち上げて空にあいさつするでしょう。それを見たフラミンゴたちは、地上に仲間がいると思って降りてくるはずです。
パオは賢い象ですから、そこから先はきっとうまくやれると思います。
パオの鼻がピンク色になりますように。


石にいい寝床が見つかりますように。
せせらぎできれいな石を見つけました。ミルクを垂らしたみたいな緑色で、太陽にかざすと少し透けます。持って帰ってキャンディの缶の中にティッシュを敷いて、石を寝かせました。いい心地だと石はいいました。僕は缶の蓋を閉めて水屋の奥にしまいました。
それからいろいろあって、いまあの家にはべつの家族が住んでいます。一度だけ忍び込んで水屋の奥をたしかめました。缶はありました。開けるとティッシュのふとんのうえに、ちいさなくぼみだけが残っていました。
石にいい寝床が見つかりますように。


明日、雲に乗り遅れませんように。
山でいちばん高い木のてっぺんにうちはあります。母は街へでかけたきり。きょうだいたちはキツネと遊びに行ったきり戻りません。僕がお腹をすかせていると、木の根元の方から誰かの声がして、朝一番に雲がここを通るから、それに乗っていけば街につくと教えてくれました。
だけどほんとに朝早く、一度きりだから乗り遅れないようにね。
親切な人はねんをおします。
明日、雲に乗り遅れませんように。


しっぽがぱちぱち燃えますように。
今夜はこの学校に子供たちがいる、さいごの七夕です。私のころは、頃はこどもたちにまじってきつねもたぬきも一緒に勉強したり、遊んだりしていたものです。七夕の夜は狐たちが蛍の火をしっぽにまとって、緑色の狐火をおこします。狐火はぱちぱちとみんなをつつんで、だれがきつねでたぬきでひとだったのかわからなくなります。
蛍も少なくなってしまったし、やり方もほとんど忘れてしまったけれど、子どもたちに一度だけでも見せてあげたいのです。しっぽをもつさいごの先輩として。
しっぽがぱちぱち燃えますように。


街が海から戻りますように。
家やビルや電信柱がみんなして海に行ったきり帰ってきません。人々は原っぱでみんな順番こに家やポストのかわりをやっていますが、そろそろひんやりしたコンクリートのビルや何を考えているのかわからない信号機が恋しいと口を揃えます。
このまえ街から写真が届きました。海辺の街として楽しくやっているそうですが、カモメの糞で汚れ放題でした。
街が海から戻りますように。


トラのしましまをもらえますように。
トラみたいなかっこいいしましまがほしい。うでとせなかとあしとかおに。
あきちゃんがどうぶつえんのトラにたのんでくれるといった。
トラのしましまをもらえますように。


今夜は泥のように眠れますように。
私は少し前までひんやりした部屋の中の、真っ白なふとんの上に寝かされていました。いつも甘いにおいがしていました。
ある朝目覚めると、私は地面の上にいました。まわりはごつごつした茶色い石たちばかり。とっさに身体が欠けていないか確認しました。そんな仕草をまわりの石たちがくすくす笑います。昼となく夜となく、大きな大きな生き物がものすごい音を立てて頭の上を通り過ぎます。おかげでいつも寝不足です。
空の高いところを雲が流れてゆくたび、あんな布団で眠れたらと思います。
まわりの石たちがいうには、今夜は月に一度だけ、あの生き物が通らない日なのだそうです。
せめて今夜は泥のように眠れますように。

お店の準備やら何やらであまりお金がありません。おもしろかったら、何卒ご支援くださると幸いです。