日記/平衡と豚汁
先日、仕事で太陽系のはじまりについて講義を受ける機会があった。星雲、つまり宇宙の塵芥がもやぁっと集まったゾーンがある。それは星が死んだ後のカスの集まりなので、ある種の平衡状態といえるだろう。ある時そこに波風が立つ。例えば近くで超新星爆発が起こる。もやぁっとした集まりに不均衡が生じて、その一部がぐるぐる回転し始める。複雑な重力と遠心力が生まれ、やがて太陽が生まれ、惑星が生まれる。そのうちなんだかんだ細かい出来事の積み重ねで生命なんかも生じるということだ。
え、それってめちゃくちゃ脳だ。
僕の脳の中、いつももやぁっとした思考の塵芥が充満して平衡状態を保っている。たまに何かの偶然で対流が起こって、平衡が崩れてぐるぐる回って絵ができたり歌ができたりする。ぐるぐるとは中心に向かう重力と周囲を遠ざける遠心力、つまり集中状態だ。ぐるぐるが大きいほど寝不足になり生活に支障をきたすが得られるものも大きい。中心で若い太陽が輝きだせば周囲にぽこぽこ惑星も生じる。
だけど最近ぐるぐるがちょっと足りないな、と思う。いろいろやらせてもらってはいるが、ぐるぐるが持続せず雑然とした平衡状態に引き戻されてしまう感じだ。いや、ぐるぐるはしているけど、そのぐるぐる込みで全体として平衡状態に収まってしまっているんだろうか。まあなんだか、もやぁっとしている時間が長いように感じる。
自分の脳には、対流を起こしてくれる他者が欠如しているのかもしれないとはよく考える。外からの刺激がなければ、塵芥で塵芥を掻き回したとて思考が堂々巡りするだけだ。この文章のザマを見よ。
とはいえ現状、外的刺激が少ない生活は自分で選んだことなのでブータレても仕方がないのである。せめて、生活の中で出会った他者の気配を塵芥の平衡に沈め込んでしまわぬよう、脳ではなく目や耳や心を研ぎ澄ませていたいものです。
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商店街の空きテナントだったところに期間限定の野菜の直売所ができた。仮設店舗の中は殺風景で薄暗く、揃いの黒いTシャツを着たイカつめのおっちゃんたちが接客しているので、一見何かな?という感じ。モリモリ盛られたプリプリのトマトやらナスやらがひと籠200円とか300円とかで売られている光景に心惹かれつつ様子を伺っていたのだが(安すぎて逆に怪しい。洗剤とか売りつけられるのでは)、ある日ツイッターで流れてきた夏野菜の豚汁のレシピに目が止まりようやく観念した。
ふわとろ長なすとプチトマトとキュウリ1ダースを買って(洗剤は売りつけられなかった)、なすとトマトは豚汁に。ふわとろ長なす、しっかり火を通すとその名のとおりとろとろに溶けて美味。キュウリは塩を振って丸のままおやつに。少々野趣があるが問題なし。それぞれ大量にあるのでしばらくリピれる。満ち足りた野菜生活だ。
夜、テナントの前を通るとシャッターに張り紙を見つけた。赤と黒のマジックで「予告 8/6(土)店頭にて もも・スイカ大特売 りんごあめ 12:00頃より販売します!」との走り書き。こんなにワクワクする文字列なかなかないだろ。やっぱり怖い。