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掌編小説

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犬街ラジオなどで朗読したうちリクエストがあったものを中心にテキストを載せています。
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#掌編小説

ペテロの墓穴

あの頃、駅の北側にはまだぬかるんだ空き地が広がってて、その境界にはロープ一本貼ってあるだけやった。俺と、たかゆきと、しーちゃんと、ペテロは、学校から空き地に突撃してドロドロのサッカーボール追っかけたりぬかるみをほじくったりして毎日遊んでた。 落とし穴を掘るシャベルはしーちゃんが学校の用具倉庫からパチってきた。人殺せそうなやつ。掘った穴の入り口を木の枝でバッテンしてゴミ袋被せて土被せたら完成。せやけど落ちる奴がおらんかったからみんなで一回ずつ落としあった。穴は湿ってて、みん

ロストステップ

物語がいつも正しい順序で綴られているとは限らない。 親より子供が先に亡くなることも、運命の人と結ばれないことも、今日出会ったばかりの人と旧知の友のように打ち解け合うことも、物語の順序に入れ違いが起きているからだ。それを乱丁という。 人の一日が眠りと眠りで区切られた一ページで、人生がそのページを綴じた一冊の本である限り、乱丁は誰にでも起こりうる。たとえば私の場合は、こうだ。 / 最後のホームルームが終わり、まだ帰りたくない仲の良いもの同士が廊下や下駄箱の周りに集まっている。

文献狩り

目測20メートル先の水場に小型の文献が現れる。 司書は弓に矢をつがえる。ピュ、という音が私の耳をかすめて、次の瞬間、文献の体が大きく跳ねる。司書は茂みから躍り出て二の矢をつがえる。後ろ足を引きながら逃げ去ろうとする文献の長い首を矢が射抜く。 「今です、これを。喉を狙って」 そう言って司書は私に匕首を手渡す。手の中にずしりと鉄の重みを感じながら、私は文献に近づく。 まだ温かい、しかし手の中で急速に熱を失っていく文献を閲覧する。唇をめくって歯茎に記された著者と出版年を確認。 腹

の は ら

カナがいじられる理由は片手の指では数えきれへん。男やのに女みたいな名前や。ほんでどんくさい。ズボンからいっつもしょんべんの匂いがする。すぐ鼻くそほじって食べる。筆箱の中にひらった虫入れてる。それも死んでるやつ。あと、これはみんなあえて言わへんけど、日本語が下手や。 とにかく全部がなんかおかしい。  せやから、カナの筆箱かくしたり、背後から飛びげりかましたり、ランドセルうばって中に砂注ぎ込んだりするんは当たり前のことやった。 俺も最初はそうやってやっててんけど、担任

木枯らし少年

「木枯らし1号!」 そう呼ばれて、もうほとんど腰を浮かせていた小林一郎少年はパイプ椅子の上に尻餅をついた。いや、聞き間違いだろう。小島徹の次は、間違いなく小林一郎のはずだ。そうすると、壇上から校長先生がもう一度、はっきりとした口調で 「こがらし、いちごう!」 と読み上げた。小林少年は今度こそ立ち上がって、それと入れ違いに、黒い筒を手にした小島少年が隣の席に腰を下ろした。 小林一郎少年は、こうして木枯らし1号少年になった。春と呼んでも差し支えない、うららかな三月だった。