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掌編小説

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犬街ラジオなどで朗読したうちリクエストがあったものを中心にテキストを載せています。
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2021年8月の記事一覧

虹のむこうに

玄関を開けると小さい老人がちょこんと座って待っている。慈郎は私に飛びついてきたりしない。もうそんな歳じゃない。 お母さんは買い物だろうか。制服を着替えて「散歩行こうか」というと、慈郎はよぼよぼした動作で自分からハーネスに腕を通す。 猿を飼いたいって駄々こねて動物愛護センターから引き取った時、慈郎はもうおじいちゃんだった。友達はみんな飼ってる、て言ったのはちょっと大袈裟だったし、ちゃんとお世話するから、なんて本心から言ったわけじゃない。それでも毎日散歩とご飯はそんなにサボってな

こどもの証

 明石っ子レコードにアクセスできる条件は二つ。  1、明石市で生まれ育ったこと。  2、十五歳以下のこどもであること。  私は1をクリアしていないから、天体観測室に入っていったてらすとニニをいつも階下の展望室で待つことになる。記述と閲覧を終えた後のふたりは、私にどこかよそよそしくなる。私は私で、外の景色に夢中で階段を降りてきたふたりにも気がつかないみたいな、小さなフリをする。小さな私たちが暮らす小さなまち。その向こうには海。そこにかかる、今は使われていない大きな橋を指でなぞる

群青の子

 じゅりあんが目を閉じると、まぶたの内側に色とりどりの魚の群れが現れる。楽しそうに海の中を跳ね回る数万匹もの魚たちを遠巻きに見ている1匹がじゅりあんだ。魚影を掴まえるように筆を振るう。きらきらと色を変える魚魚魚魚魚を追いかける追いかける追いかける追いかける追いかけるあかあかあかあかだいだいむらさきあおおおおおおおおきみどりゆうぐれ。  海面のはるか上の方から呼ばれた気がして、イルカが息継ぎをするように目を開ける。振り向くと呆れ顔の母親が立っている。  じゅりあんは口がきけな