キャプテン・スカーレットは14回くらい死ぬ

「キャプテン・スカーレット」というテレビ番組をご存じだろうか?

詳しくはwikiをご参照いただきたいが、「サンダーバード」を制作したジェリー・アンダーソンが制作した特撮人形劇で、1967年から本国イギリスで、日本では翌年から放映された。
「サンダーバード」の後を継ぐ作品として、より人間的な人形と、サスペンスに主眼を置いたストーリー展開に挑戦した野心作である本作は、本国イギリスでは成功したものの、日本では壊滅的な失敗作となった。
どのくらい壊滅的かと言うと
・「サンダーバード」プラモデルのヒットを承け、社運を賭けて大々的にプラモを発売した今井科学が売れ行き不振のため倒産
・同じく玩具を販売したバンダイ(現バンダイナムコ、まだ今ほど巨大なメーカーではなかった)も倒産の噂が流れ、火消しのために倒産した今井科学の業務を引き継ぎ、健在をアピール
・結果、今井科学のプラモデルの金型とノウハウを吸収したバンダイは、後のガンプラブームで巨大メーカーにのし上がる
と、日本の玩具/プラモデル業界史に大きな1ページを残すほどの失敗作であった。

物語は2068年の火星からはじまる。地球防衛機構スペクトラムの火星探検隊は、未知の異星人・ミステロンの基地を発見。うっかり先制攻撃をかけてしまい、逆に壊滅させられる。さらに地球人への報復を宣言するミステロン。
ミステロンは神の如き力(科学?)を有しており、人間や物体を破壊することで複製し、「ロボット」として自由に操ることができる。第一話冒頭でいきなりミステロンにぶっ殺され、ロボットにされた我らが主人公、キャプテン・スカーレット(他のキャラクターにならって「スカーレット大尉」と呼称されるべきだがなぜか彼のみこう呼ばれる)であったが、タワーから落ちて死んだ際に機能不全を起こし、生前(オリジナル)の自我を取り戻した。さらに他のロボットにはない「死んでも生き返る」「近くにミステロンがいると何となくわかる」という能力をも身につけ、スペクトラムの切り札としてミステロンのゲーム(陰謀)に勇敢に立ち向かう!
……ぶっちゃけ、オリジナルのスカーレットは「完全に」死んでおり、最終回まで活躍するのは、ミステロンの作った複製(ロボット)である。しかも死んでも生き返るのをいいことに、スペクトラムの「人権のない便利な備品」として扱われるのがこの作品の見所である。
また、ヒーロー物としては異常なほど主人公サイドが「負ける」のもこの作品の魅力? だ。何しろいきなり第2話で、アジア連合共和国事務総長暗殺の阻止に失敗した上、スカーレットも死ぬのだから手が込んでいる。
スペクトラムの勝率とスカーレットの死亡率を求めたかったので、星取り表を作成してみた。

話数はスーパー・ドラマTVでの放映順に基づく。
全32話(ただし第31話は夢オチのため除外)のうち、ミステロンの計画成功は6回、スカーレットの死亡はざっくり14回(生死不明は基本的にいっぺん死んだものとする)。スカーレット死亡+ミステロン計画成功が3回もあるのは笑い所だろう。
ミステロンの計画成功率…約19%(スペクトラムの勝率が約81%)
スカーレットの死亡率…約45%
となった。

夢オチの第31話では、ミステロン円盤の大群がクラウドベースを急襲し、スカーレットを含むスペクトラムの全員が死亡する。実際のところ、ミステロンが本気で侵略を開始したら、この夢の通りになるであろう。
自分たちの計画をわざわざ暗号めいた言葉で事前にスペクトラムに伝えることといい、明らかにミステロンの目的は侵略ではなくゲームである。となると、スカーレットは「ハンデ」としてミステロン側から与えられた、特別なコマなのでないかとも考えられる。

ぶっちゃけ「キャプテン・スカーレット」は
「今日はスカーレット、どんな死に方するかなー(ワクテカ)」
「またも負けたかスペクトラム」
と言いながら楽しむ、ブラックなコメディ作品だと思う。イギリス作品だし。残念ながらレンタル・配信等には恵まれないので見るのは困難だが、機会があればぜひお楽しみいただきたい。
最後に、筆者が一番好きなスカーレットの死に方をご紹介しよう。
「脳手術を控えた重要人物・ティエンポ将軍を暗殺すべく、ミステロンは執刀する医師をロボットにすり替えた。手術はクラウドベースで厳戒態勢の中行われたが、執刀医(ロボット)は脳を目茶苦茶にして患者を殺害、勝ち誇る。ところが…
『ひっかかったなミステロン。お前が手術したのは、キャプテン・スカーレットだ!』」
お後がよろしいようで。


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