柴嵜正一を知るための読書案内

1989年の中村橋派出所警官殺害事件の犯人とされる現確定死刑囚の柴嵜正一が登場・考察・言及されている本を紹介します。
新たに発見した本があれば都度更新し追加していきます。
また、これらの本全てでも柴嵜や事件を把握するには少し不十分だと思いますので、判決文やWikipediaも併せて読むのがオススメです。「Wikipediaは信用できない」という方は出典欄にある新聞記事などを辿ってみてください。

なおAmazonのリンクを貼っていますが、アフィリエイトによる収益等は一切受け取っておりません。

『捜査一課秘録』

厳密には柴嵜が「登場」する書籍というのは非常に少ないのですが、これはその貴重な一冊です。

全編に渡って警察側の視点から凶悪事件を追うという内容ですが、そのうちの一章にまるまる事件が取り上げられています。
柴嵜の取り調べでの発言や態度、逮捕に至る軌跡は把握してる中ではこの本が最も詳しいです。興味がある人なら必読。

また、この本で明かされていることですが、実は柴嵜の取り調べを担当したのは、麻原彰晃を担当したのと同じ刑事さんでした。
この本は半分くらいがオウム真理教について取り上げられているので、そちらに興味がある人も是非。

『警視庁刑事いのち輝く―憂国刑事(ムサシヒラタ)の武士道人生!』

『捜査一課秘録』に、「宮本武蔵の末裔の管理官、平田富彦」という刑事さんが出てきますがその人自身が書いた本です。
出版社が既に倒産しており、図書館にもあまり置かれていないようなので、ちょっと読む手段が限られてますが、事件に関心があるならば是非手にしていただきたい一冊です。

遺留品(柴嵜が犯行時に着ていた服など)や、柴嵜の供述が少し詳しく載っています。
供述が『捜査一課秘録』に比べて、少々砕けた口語っぽくなっているので、イメージが変わるかもしれません。
また、『捜査一課秘録』では平田富彦が柴嵜に対し「ひ弱な少年」と表現しており、実際こちらの本にも同じ表現が使われているものの、前者が同情的な視点を排除しているのに対し、後者は警察が抱くには意外な感情が綴られています。
(勿論捜査員の人全員がそういう風に思った訳ではないでしょうが)警察から見た柴嵜という点でも興味深い内容です。

他にも「東電OL殺人事件」についても書かれているので、冤罪問題に興味がある人にもおすすめです。

『警視庁捜査一課殺人班』

そこまで大きく取り上げられていませんが、しっかり載っています。先に紹介した二冊よりドライな文章で、警察側の捜査について詳しいです。
大規模・異例な捜査が行われたこと、様々な証拠が絡み合って逮捕に繋がる様はこの本が一番わかりやすく書かれていると思います。

柴嵜のことについてはあまり言及されていませんが、「事件発生直後にアパートで聞き込みをしたが、警察はその時無関係の住人と心証を得て見逃した」という結構衝撃的なエピソードが明かされています。その時、柴嵜がどのように対応したかが書かれているので、気になる人は読みましょう。

『「おたく」の誕生!! 』

事件捜査よりも柴嵜正一について手取り早く知りたいという人は、まずこの本からがおすすめです。
別冊宝島の「おたくの本」の文庫版ですが、文章の内容に変わりはないので読むのはどっちでもいいです。

初公判の傍聴に赴いて書かれたコラムが掲載されていますが、当時の報道や警察関係者の書籍にも載っていなかった、柴嵜の裁判中の様子や事件直後の逃走〜その日の朝の行動が詳しくてとても貴重。余談ですが柴嵜の裁判のことについては本当に情報が少ないです。

当時の週刊誌や新聞の報道から引用して事件前の暮らしについても紹介されていますが、結構詳しいです。ただこれでも不十分なのでご注意を。

(それと細かいですが柴嵜の貯金の額がこの本だと約50万円のように読めるのがちょっと気になる。実際は約80万円の預金通帳が部屋から発見されていたのですが。しかしこの貯金の額も記事によってはかなりばらつきがあり……見た中では最高で100万円、最低で50万〜30万円です。「預金通帳が発見された」という具体的な新聞記事が存在するので、私は約80万円という説を支持しています)

また執筆者である朝倉喬司の考察も面白いです。柴嵜自身が後の裁判で語った動機や母親との面会でのことが残念ながら抑えられていないのですが、それでも。

『浮遊する殺意―消費社会の家族と犯罪』

岸田秀と山崎哲による対談本。「自己表現としての犯罪」という章に取り上げられています。

情報不足が否めないものの、その考察については鋭いものを感じます。対談本なので文章も読み易く分かりやすいです。朝倉喬司のものと比較するとこちらは柴嵜の事件以前の行動に対する分析が多いです。
もしこれを読んでいる方が「柴嵜はどうしてあんなことをしたんだろう?」という疑問を抱いているのであれば、考察に役立つかもしれません。

あと、当時は世間からどういう風に事件が見られていたのかという空気にも触れることができます。

ただ最初に言った通り、そもそもの情報不足がどうしても否めないので、柴嵜を知るのにこれだけ読むというのはおすすめ出来ないです。

『事件としての住居!』

住居のアパートに注目して考察しているかなり珍しい本です。

「動機には興味がない」とのことなので約2ページ分と、ほんの少し言及されているだけですが、何気にこれも事件前の生活について結構細かく書かれていますね。

『読売報道写真集1990』

1989ではなく、1990です。
コラムが掲載されてたり、目新しいことが書いてある訳では全くないのですが、事件現場の中村橋派出所の写真やこれでしか見れない柴嵜の写真が載っているので一応紹介。
おそらく、現状手に入る中で最も高画質です。

『犯罪地獄変』

先に紹介した書籍たちとはうって変わって、こちらはサブカル色が強く、悪趣味・不謹慎めな内容。柴嵜と事件について書かれたコラムが掲載されていますが、無論それもそういうノリです。

好き嫌いが分かれそうなノリで、それを抜きにしても事件に対する事実誤認が流石にちょっと多く、不十分なため、「単純に事実を知りたい」という方にはお勧めできないです。
ですが、柴嵜愛(?)溢れるコラムは読み物として面白いですし、柴嵜正一に興味を抱いている人が読めば、共感できる部分が少なからずあると思います。
あと、事件前後の一人暮らしの朝食メニューが詳しく載ってるのは、私が知ってる中ではこの本が唯一ですね。

おまけ:『青の炎』

あの『悪の教典』や『新世界より』の貴志祐介作品です。
事件名や名前こそ出ませんが、明らかに柴嵜のことを言っているシーンがあります。

「数年前、若い男が、拳銃を奪おうとして交番を襲撃し、巡査を刺殺した事件があった。そのとき、犯人が使ったのが、このナイフだった。ガーバーのマークⅡというのは、人を脅すのではなく、確実に刺し殺すためのナイフなんだよ」
貴志祐介『青の炎』より

設定としては別の事件なのかもしれませんが、これは明らかに柴嵜のことですよね。
これだけではなく、どうも主人公の秀一や起こる事件は柴嵜が元ネタ(の一つ)なのではないか?と思わせられる点が色々あります。
ガーバーのマークⅡという同じ凶器が出てくること。暴力的な養父の存在、シングルマザーの母と妹、名前も秀一と正一で似ている……細部はかなり違う事も多いですが、果たして偶然なのでしょうか……
養父の殺害をマークⅡを握りしめながら決意する秀一のシーンなんかは特に柴嵜の影響があるんじゃないか?と読んでいて感じました。

仮に全て偶然だとしても、少なくとも作中で言及されていること、貴志祐介が事件を認知していることは確かだと思うので、おまけとして取りあげました。
今更私が言うまでもないですが、名作なので未読の方はぜひ読んでみてください。

ちなみに秀一の「モデル」という表現はちょっと違うかなと思ったので、「元ネタ」という言葉を選びました。
柴嵜を意識しているキャラはもう一人別にいて、それは秀一のバイト先の店長の神崎という登場人物ではないかと勝手に思っています。

・カンザキ→シバザキ?
・年齢が29歳→死刑判決時の柴嵜の年齢も29歳
・秀一の高校の先輩→同じ凶器を使った殺人の先輩?
これ以外は特に似てないので、こじつけと言われても仕方がないですが……もし柴嵜を意識したキャラなら、神崎が(暴力的な養父の事で)悩んでいた秀一に対して「相談に乗るよ」と気にかけているシーンはなかなかエモーショナルですね。

終わりに:とりあえず判決文を読もう

これ以外にも事件が言及されていたり、紹介されている本というのはあるのですが、「柴嵜正一を知る」という目的であれば、まぁわざわざ読む必要はないかなと思います。

他の版では修正されてるのかもしれませんが、以前図書館で「20世紀にっぽん殺人辞典」を借りたら、一切かすりもしない名前に間違えられてました。なんで?
あと「別冊歴史読本 殺人百科データファイル」も、最初に出た方には一応載ってるんですが「新・殺人百科データファイル―明治・大正・昭和・平成殺人の貌101」になると、省かれてしまっていました。(図書館で一回見たきりなので、記憶が間違っていたらすみません)

事件そのものの知名度が他の有名事件に比べると低く、殺人事件について取り扱った書籍でも省かれがちなので、関心を持ったのに資料にたどり着けなくて困っている人などに、このnoteが役立てば幸いです。

それと、繰り返し強調しますが出版されている書籍だけではどうしても不十分なのが残念ながら現状です。やはり、まず「一審の判決文」を読むのが一番いいです。

柴嵜の詳しい生い立ちから自衛隊を辞めた理由、犯行動機に繋がったと思われるかなり内面的な思想についても書かれています。あんまりお堅い文章でもないですし、判決文を読んでから、書籍や報道記事を読むのがベストでしょう。

一審の判決文についてはお金を払えば自宅にいながらネットで読めるサービスがあるっぽいですが(あやふや)
私は国会図書館で無料で読みました。コピーもできます。
それと、現在のWikipediaの記事はこの判決文をベースに書かれている物なので、とりあえず今はそれを読むのが手っ取り早いですね。尤も、あそこはいつ変わったりするか分かりませんが。

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