"電気海月のインシデントは令和の日本に指し示すべき新しい日本映画" 堤幸彦監督×萱野孝幸監督特別対談
2019年5月に横浜で電気海月のインシデントを上映した際の堤幸彦監督と萱野孝幸監督の舞台挨拶での特別対談を文字起こししたものです。
**Q.電気海月のインシデントの感想を教えてください **
堤 まず前作のカランデイバを見させていただいて、3時間越えの作品でとてもパワーがあって、自主映画にしが出来ない暴力があった。
萱野 そうですね、いろんな人から止められつつ(笑)
堤 興味をもった人は絶対見た方が良い。
面白いとか面白くないとかじゃない、これをよく九州人作ったな、というものすごいパワー。 声を大きくしたり、映像を力強く作ったりとかそういうことではなく、本当に強いものを見せてもらった。
その後にこの『電気海月のインシデント』を見せていただいて、褒めろと言われればこれから1時間くらい喋れる素晴らしい作品でした。
萱野 ありがとうございます。
堤 構成脚本がうまい。 そしてご自身でお撮りになられてる映像がとてもうまい。スーパーメジャー級ではないにしろめちゃくちゃ絵がかっこいい。
カメラって固定で使うか動かして使うかで非常に思想性が問われること。その辺も非常にうまい。
そして何よりキャスト、よくぞこんなに目力の強い役者がごまんと福岡にいることにものすごく驚いた。
そしてもちろん音楽のこと、またハッカーのディティールも凄いですよね。いったいいつこんな準備をして作り上げたんだと質問ぜめしたくらいすごい作品だなと思って、勝手に応援団長を名乗り出てます。
キャラクターについて
堤 目をCGで描いてるんじゃないかと思うくらい目力が強かった(笑)
視線を動かさなかったりするのってなかなか大変な演出ですよね。
萱野 あー、確かに。
堤 だいたい目線で逃げちゃうけど、今回は真っ向勝負だった。
役者「監督から目を動かすなと言われた」
堤 電気海月のインシデントのキャストはハズレなし。
この世界観に引き込まれるとどのキャラクターもみんな面白く見えてしまう、これは萱野マジック。
その中でも敢えて1人挙げるとすれば武松(役者:荒木)、カランデイバにも出てる。
早く続編を見たい。
Q.お互いに質問などあれば
堤 構成は最初からこうなってたの?
萱野 第一項の時はもっとストレートな話にしようと思ってたんですけど。
堤 回想とかは無く?
萱野 そうですね。
ハッカーの説明をしてるうちに尺が長くなっちゃったので、これをどうにかコンパクトにする必要がある、ってなった時に明らかに分かりやすい”語り部”を作った方がコンパクトに出来るなと。
堤 それがこの萱野ワールドに引き込む良い効果だったよね。
この手法は難しい、失敗するとダサいんですよ。
萱野 ダサいですよね(笑)
堤 非常に効果的でしたね。
Q.萱野監督のこだわりについて
萱野 ハッカーの技術はちゃんと描きたい、出来るだけ演出で逃げたくは無かったので技術監修の方についてもらいました。
さらに生身の人間がこういうことをやってる(ハッキングなど)、この人たちはもしかしたら福岡の街だとか日本のどこかに実在するかもしれない、という実在感に拘りましたね。
堤 そのリアリティ凄いよね。
セリフの間の取り方とか喋り方とか、きっとこういう感じだろうなと思わせる。
映画言語とかドラマ言語とか演劇の言い回しとかとは違うやり方で発想されてる演出があって、見習いたい。
萱野 そこは意識的にやってますね。
キャスト選びのポイント
堤 その人しか持ってない色彩とか温度みたいなものを見たい。そういうものは10秒もあれば分かる。
萱野 それは直感ですか?
堤 直感ですね。
萱野 日々何を考えて生きてるのか、どんな本を読んでるのか、どんな映画を見てるか、そんなところを見てますね。
**
Q.今回オール福岡ロケの作品でしたがそこは大事なところだったのかー**
萱野 絶対福岡じゃないと撮れないもの、とかではないのかもしれないけど、じゃあ絶対東京じゃないと撮れないのか、と思った時にそうじゃない。
堤 そこの曖昧さというか、今時東京であることにほとんど意味は無い。便宜上東京で撮ってるだけ。地方に行くとお金がかかるから。
この作品ではたまに聞こえてくる福岡弁とか、平成の映画でありながら昭和のトーンやロケーション、しかし扱ってるテーマが非常に現代的という違和感が堪らない。
萱野 題材が題材なので(ハッカーもの)なので、ピカピカテカテカした近未来感を出さないようには意識しましたね。
堤 令和の日本に指し示すべき新しい日本映画。それが福岡から来たのが凄い。
(おまけ)Q.最後のシーンについて
堤 生きてるに決まってるよ、パート2やらなきゃいけないんだもん(笑)
萱野 これは実は諸説あるんですけど...(笑)キャストも知らなかったりするんですけど、実は証拠があって、結論としては生きてるんですよ。
どっちかというと死んじゃったかな、っていう余韻を残して終わってるんですけど、実は映画開始冒頭1秒に答えが写ってます。
堤 なるほど。
萱野 初見で気がつく人はよっぽど勘が良いかたまたまその箇所を見ていたかでしょうね。