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国際結婚とは原風景の違う2人が出会いその風景を理解し合うこと

人は誰もが心の奥底に、それぞれが懐かしい原風景を持っている。それは幼い頃に走り回った野原や空き地だったり、夏祭りの盆踊りの風景だったり、夕陽が沈み行く山々の景色だったり、一面真っ白な雪景色だったり。

その風景を思い出すことによって、人は懐かしい子供の頃、青春時代にタイムスリップして、少し切なくなり、でもどこか心が温かくなるものだ。

50代も半ばに近づくと、ふとした時に、自分の生きてきた景色を共有出きる誰かが居てくれればいいなぁと思うようになってきた。

小学生の頃からの親友が、何年ぶりに会っても直ぐにあの頃の仲にタイムスリップ出来るのはそんな共通の原風景が手伝っているのかもしれない。

でも、残念ながら、私たちのような国際結婚において、夫婦2人の持つ原風景は全く異なっている場合が多い。

私と主人の出会いは東京。2人ともまだバリバリと仕事をしていた30代の頃。実は何気に少し映画のような出会いではあるのだが恥ずかしいのでそれはまた別の機会に。

主人の出身はデンマークとドイツの国境から車で30分の南ユトランド半島にある小さな田舎町。デンマークロイヤルファミリーの避暑地にもなっていて、夏になると皇族の家族達がその小さな街にあるお城に泊まりに来る。夏休みは街で普通にアイスクリームを食べながら歩いている皇族家族を見かけることもあったらしい。

彼の家があった場所は海の近くの緑ばかりの住宅地。小中学校も高校も街に1つしかないからほとんど街中が知り合いみたいな感じだったみたい。

ドイツとの国境は、戦争で侵略したりされたりの歴史があり、何度もテリトリーが少しずつ変わっているので、義母の世代では学校ではみんなデンマーク語とドイツ語の両方を習わされたとのことだった。

地元の人々はのんびりしていて、いなか訛りのデンマーク語で気さくに誰にでも話しかけてきてくれる。

私はそんな小さな主人の故郷がとても気に入っている。

一方、私の産まれ育った場所は海と山に挟まれたとある神戸に近い住宅地。幼い頃、日本地図もまだ良くわからなかった私は、日本中のどんな人たちが住んでいる街でも、南には海があり、北には山があると信じていた。

ある時家族で電車に乗って私が車窓から山を眺めていた時に、あの山の向こうにはまだ街が沢山あって、そしてそのまたもーっと北の向こうには、海(日本海)があると父に教えてもらった時の衝撃を今でも覚えている。

そんな街を、美味しい食べ物を、そして何よりも関西人の気質を私の主人もとても気に入っている。

出会った最初の頃は、お互いの背景に思いを馳せるなどという高尚なことは出来ず、自分たちの中にある、どうしても分かり合えない部分、どうしても共有出来ない感覚というものに目が向いていたように思う。そして、その共有できない部分を見つめれば見つめる程寂しさや孤独も感じていたのかもしれない。

私にとって結婚当初一番難しかったのは、2人の間に勃発する問題が、2人の性格からくるものなのか、それとも、2人の育った環境や文化が影響しているものなのかを見極めること。

ともすると、私はなんでこんな性格の人と一緒になったのだろうと思って見たりもしたが、ある時、あ、これって主人だけじゃない!この地方の人の特徴だったんだ!っていうことに気づいたりもした。

結婚して16年もの月日が経つと、少しずつ自分の原風景と相手の原風景の色が混ざり合ってきて、違う色に見えていたものが、混ざり合った2人の色として自覚出来るような感覚が持てるようになってきたように思う。

私は青が嫌いなの!俺は赤が苦手なんだよ!そう言いあっていた私達だけれども、最近お互い相手の色も悪くないなぁと思えるようになってきた。

そして2人の間には、青と赤の混ざり合った鮮やかな紫色の新しい文化が育って来ていることにも気づく。

自分の背中のリュックサックには、生まれ育った原風景だけではなく、日本の文化はもちろんのこと、その土地に関わる様々な諸霊の想い、ご先祖様の願いや苦しみ、そんなものまでもが一杯詰まっているような気がする。

そして主人もまた同様に大きなリュックサックを背負って私と出会った。

そんな2人が長い年月をかけて、少しずつリュックサックの荷物を降ろし始めて、代わりに2人で築いてきた新しい価値観を詰め込んでいく。

そんな作業が出来るようになれば、原風景を共有しないけれど、国際結婚も悪くないなぁと思える。

そして、その新しい荷物の入ったリュックサックを背負って、それぞれが時々寄り道や回り道をしながらまたこれから何年も一緒に山登りを続けていく。

まだまだこれから先も、沢山の違う景色を見ながら進んで行くのかもしれない。登り着いた山頂からの景色がどんな風に見えるのか今から楽しみだ。

#創作大賞2024 #エッセイ部門

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