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自閉症の息子と動物達の絆

我が家の自閉症の息子は幼い頃から生き物が大好きだ。幼稚園は歩いて2分の場所にあったにも関わらず、帰り道にはアリやテントウムシを見つけては、自分のお弁当の残りのニンジンをあげたりしながら熱心に昆虫観察を行うため、1時間くらい家に帰りつかないこともしょっちゅうあった。

また、当時から収集癖があったのか、団子虫などを見つけてはポケットに沢山集めて帰って来た。ある時、洗濯機からカラカラと石のような音がして、なんだろうと思っていると、息子のズボンのポケットから大量のカタツムリが洗濯されて出てきたこともあった(ごめんなさい、カタツムリさん!)

小さい頃から犬が大好きで、良く行っていた近所の図書館にいつも遊びに来てた、自分より大きなセントバーナード犬にも、まったく怖がることなく抱き付いていったりして、いつも見ている私の方がヒヤヒヤしていたことを覚えている。

仲良しだったセントバーナードと2歳の息子

また、時には道行く白鳥やカモ、カラスとも良く話しをしていた。カラスの鳴き声を上手に真似るので、カラスもまるで息子を仲間と認識しているかのようにお互いカーカーと鳴きあっている光景を見るのが何とも微笑ましかった。

白鳥とのコミュニケーション(白鳥は威嚇してる?)

もちろん動物園の年間パスポートも毎年かかさずに購入し年に何度も通った。彼は動物園の決まったルートを歩くのが大好きだった。時にはカメラを持ち歩き、なかなかいい写真を撮ったりもする。気に入った動物の前では軽く30分は観察を続け、名前を付けたりして楽しんでいた。私達は出かける時や旅行の時は必ず動物と触れあえるところや見れるところをメインに行き先を決めるようになっていった。

彼には兄弟姉妹がいなかったので、私たちは彼が4歳になってすぐ、ミニチュアシュナウザーの仔犬を家に迎えることになった。彼らはすぐに、まるで兄弟のように仲良くなり、時には喧嘩もしながら、今まで一緒に成長してきた。

パパの帰りを一緒に待つ4歳児と仔犬

現在息子は13歳、犬は早いものでもうすぐ9歳になる。犬というものは繊細に人間の感情やニーズを察知する不思議な能力を持ち合わせている。

息子が感情のコントロールが難しくなった時、私たちは良く犬に助けてもらう。その時の状況にもよるが、息子はだいたい犬を抱きしめたり撫でたりしているうちに自然と落ち着くことが多い。自分でもそれが1つのストラテジーになっていて、朝起きにくい時にも犬をベッドに呼び、不安が強くトイレに1人で行くのが怖い時にも犬を呼ぶ。

犬も良くわかったもので、9年の付き合いの中で、自分が息子にとって家族にとって、どういう役割を果たすべきかをしっかりと認識している。呼ばれたら嫌がらずに息子の側に行き、じっと傍に寝そべったり、ぺろぺろ舐めたりしながら彼を助けて、私達の方に顔を向けて「どう、これでいい?」と言う表情を示してくる。

ミニチュアシュナウザー男の子

そのほかには、8歳で学校に行かなくなり、心を完全に閉ざしてしまっていた時、来てくれていたコンサルタントの趣味の乗馬に一緒に連れて行ってもらっていた。彼はすっかり馬の虜になり、週に一度決まった馬での乗馬を楽しむようになっていった。当時コンサルタントとは顔も合わそうとしなかった彼が、乗馬を教えてもらうことを通して彼女に心を開いていったのだ。

週に1度森の中の乗馬を楽しんだ

動物が心を開いてくれる物語で、ふと、何年か前に見た「シャチの見える灯台」という映画を思い出した。自閉症の男の子が野生のシャチと心の交流をはかる実話をもとにしたスペイン/アルゼンチン映画。野生の動物にさえ、彼らの心を癒す力が宿っていることにとても感動した。

なぜ自閉症の彼らは動物達に心を開くのだろうかと自分なりに考えてみた。

もちろん、科学的には、彼らのフワフワした温もりや鼓動が伝わって、接する人の副交感神経を優位にしてくれるために、交感神経優位になっていた怒りや興奮などの感情のコントロールがしやすくなる。また、動物と触れ合うことでオキシトシンホルモンが分泌され血中のストレスホルモンが減少して穏やかになる、、などという根拠は想像出来る。

でも、私は少なくとも我が家の犬と息子を見ている限り、もっとそれ以上の科学を超えたところにその癒す力が宿っている気がしてならない。例えば犬には、人の困っている気持ち、感情を読むセンサーが備わっているように感じる時がある。そして、可愛がってくれる人に対して全面的に尽くそうとする優しさも持ち合わせている。

また、自閉症の子どもにとっては、言語でのコミュニケーションが難しい分、動物との間には、何か言葉を越えたコミュニケーションがあるのかもしれない。

余談になるが、デンマークには盲導犬以外で、犬を用いたセラピーを提供している団体があるので、ここで少し紹介してみたいと思う。

一つはBesøg hund(訪問犬)と呼ばれるサービスでTrygfonden(信託ファンド)で賄われているボランティア団体が運営している。これは、ボランティアをする人が、その団体でトレーニングを終えた犬と一緒に、派遣される施設を訪れることが出来る活動だ。

私が勤務している老人施設でも週に1回利用していて、毎週水曜にニッキーという名の犬がニコニコと訪問してくる。その犬は、ほぼ老人の顔を覚えており、誰が自分を撫でたがっているかもまるでわかっているかのように、一通り部屋をまわって帰って行く。そして、それを待っている老人の顔にも、普段誰にも見せることのない笑顔をもたらしてくれる。そして、ニッキー自身もそれを楽しんでいるように私には見える。

もう一つはServicehund(主に精神、身体に障がいを抱えている人たちの介助犬)を提供しているServicehundeforeningen(サービス犬協会)。

私自身あまり詳しく知らなかったのだが、息子が最初の特別学校に通い始めた頃、良く我が家の飼い犬を連れて行きたがった経緯から調べるようになったのだ。一度問い合わせをしてみたこともあるが、どうやら18歳にならないと申し込みそのものも出来ないとのこと。

街でも最近、盲導犬と同様にServicehundのタグをつけて一緒にお買い物に来てたり、電車に乗っていたりする、お仕事中の犬を見かけるようになってきた。不安やパニック障害のある人たちに付きそうヘルパーのような役割と言える。

アニマルセラピーの分野はまだまだ日本でもデンマークでも発展途上にあるのかもしれない。もっと多くの自閉症を持つ子供たちに浸透して、彼らの社会参加の助けになっていけばいいなぁと願っている。


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