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[奇談綴り]嫌だけど、しょうがない

ある日、夢をみた。
ある友人(視える友人とは別の人)と一緒に、賑やかなお祭りの出店のような場所を歩いている。
行きたいところがあるというのでついていくと、そこには小さなお社があった。
大きさで言うと、摂社ぐらいだろうか。
大きな神社では近隣の神社を移設したり、氏子の願いに応じて有名な神社を勧請して、主祭神と同じ敷地に祀っていることがある。
それを摂社、末社というのだが、一般的には主祭神の建物より大幅に小さくて、小さい祠ぐらいのことも多い。
夢のお社はそのぐらいの小ささで、とても古い感じがした。

そんな大きさに関わらず、ものすごい数の人々が参拝している。
友人と一緒に列に並び、参拝して…そこで少しシーンが飛ぶ。
いつの間にかお社を離れているのだが、そばにいる友人が不思議なことを言っている。

「引っ越せっていうの。こっちに移動しろって言うんだよね。」
言われて目を向けると、駐車場のような、砂利を敷いた広い敷地が広がっている。
「引っ越すのは嫌なの。でも、しょうがないんだよね……。
嫌なんだけどさ。」
どうやらものすごく嫌なようで、なんども「嫌なんだよね」を繰り返す。
こちらは特に感想がないので、ただふんふん頷きながら聞いている。

ふと、声が友人ではないような気がして傍らを見ると、誰も居ない。
友人を探して周囲を見渡すと、オシドリのような鴨のような鳥がたくさん飛んできた。
クチバシがぐいっと曲がっていて少し気味が悪い。
それにしてもたくさん居るな………。

と、いう所で目が覚めた。

変な夢を見たなあ、と思ったけれど、夢は夢である。
特に何をどうすることもなく、数日過ごした。

何日かして、件の視える友人から電話があった。
いつもどおり他愛のない用事の電話だったが、その時ふと「そうだ、あの夢の話をしよう」と思った。
いつもとは逆に「そういえば変な夢を見て」と、内容をかいつまんで伝えると、興味深そうに聞いている。
鳥の形がちょっと変だ、という話になった時、急に様子がおかしくなった。

「ねえ、なんでその話を聞かせようと思ったの?」

急に質問が来たので面食らう。
理由なんか特になかった。たまたま変な夢を見て、割と細かく覚えていたから、ちょっと不思議な話として教えようと思った程度だ。
そう伝えても何故か納得しない。

「他に理由は思いつかないの? なんでよりによってその夢なの?」
なんでと言われても…むしろどうした?
変な夢を他人に話したいのって、そんなに珍しいことじゃないよね?
「前から思ってたんだけど、絶対変なところとつながってる。
なんでこのタイミングでそんな夢を見て、わざわざ教えてくれるの?」
なんでって…わかんないよ。深い意味なんてない。そっちこそなんでそんなに理由が気になる?

「いや…ちょっと…今関わってる件を思い出して。
道路の拡張で移転することになった神社に関わってて、夢の特徴がその神社にピッタリ合うんだよね。だからびっくりしちゃって…。
ねえ、ホントになんで?」

こっちが聞きたいわ…。
つまり、そっちが関わってる神社が私に夢を見せて、それを伝えさせられてるって思ってるわけ?
「うん…自覚ないの?」
自覚どころか全くもって意味不明だわ。ワザワザこっちに夢を見せる意味ある?
「うーん、わかんないし細かいことは教えられないんだけど、神社の特徴が同じだからさ…。」
自分にとっては変な夢というだけなんだけど、そんなに一緒?
「うん、引っ越しっていう所であれ?って思ったんだけど、その後の鳥の話でね…。
そう気がついてよく考えたら、特徴が全部一致してるから、怖くなっちゃって。
ねえ、他になにか言ってなかった?」

そこまで言うならどこの神社か教えてくれていいよ?
『嫌だ、引っ越したくない、でもしょうがない』しか言ってなかったけど。
「ホント変なとことつながってるよねえ…。自覚ないんだ?
でも教えてもらってよかった。」

ちょっと、なにそれ?
変なとこってどこ? あと、どこの神社かぐらい教えて!!
「それは教えられないんだよね。じゃあまた!」

この話に落ちはない。
神社の場所も詳しい理由も教えてもらえなかったし、なんでそんな事に関わっていたのかも話してくれなかった。
なので、移転がうまくいったのかもよく分からない。
ただ、声の調子は一貫して「嫌だけどしょうがないから引っ越しする」という感じだったので、引っ越しは出来たのではないだろうか。

鈴を振るような響きをもった、小さな女の子のような印象の声だった。

オカルト的には、主祭神ほどの存在が直接人間に話しかけることはほぼ無いと言われているので、話しかけてきたのはおそらく神使か、それに準ずる存在だろう。
移転に直接関わっている関係者ではなく、こんなに遠いところまで「嫌だ」と言いに来るとは、よほど引っ越しが嫌だったのだろう。
となると、そんな場所に渋々引っ越しさせたわけで、その後がちょっと怖いところではある。
まあ…嫌だと知れたわけで、対策はとったと思うんだけれど。

後年、有名な神社の遷宮の場所をいくつか見る機会があったが、移転先は砂利敷で、あの夢で見た駐車場だと思った場所とよく似ていた。

そんな、夢の話である。

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