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[奇談綴り]悪意と呪詛の境目

後輩ちゃんからの誘い

ある日、後輩ちゃんから「G先生の対面鑑定に一緒に行きませんか?」というメッセージが届いた。
後輩ちゃんというのは前職の後輩で、オカルト好きでたまたま同じ作家さんを応援していたので、退職してからもその作家さん関連のイベントに一緒に行く仲である。
G先生というのがその作家さんで、本職が拝み屋なのに人気怪談作家というなかなかに情報量の多い作家さんである。

G先生は地方が活動拠点なのだが、たまに東京に出張鑑定にいらっしゃることがある。
この出張がなかなか面白くて、心霊系の相談でもいいし、人生相談で拝んでもらうのでもいいし、作品の話でも、本になっていない怖い話でも、なんなら雑談でもいい。
要は規定の料金で先生の時間を買いさえすれば、公序良俗に反しない限りごく普通に会っていただけるというファンサービスを兼ねたような鑑定になっている。
しかもこの鑑定、複数人でもいいのだ。
一人にかけてもらえる時間は少なくなるが、2~3人でも対応してもらえる。太っ腹と言うか心が広い。

後輩ちゃんから来たのはそういう対面鑑定へのお誘いだった。
実はメッセージを見た直後は正直断ろうかな、と思っていた。この誘いのあった時期はひときわ予算不足で、半額とはいえ時間と予算をかけていくのはなかなか厳しいなと思ったのだ。

「実は去年2回入院してしまって、仕事運と健康運を拝んでいただきたいなと思って」

続けて届いたメッセージを見て驚いた。
後輩ちゃんはまだ若い。それが短期間に2回も入院するというのはなるほどただごとではないので、拝み屋に頼ってみたくなるのもよく分かる。むしろめっちゃ事情が聞きたい。
早速OKの返事を出し、予約は後輩ちゃんにお願いして、鑑定の前にちょっといいランチを食べながら事情を聞かせてもらうことになった。

後輩ちゃんに会うのは2年ぶりぐらいになるのだが、本人を見て驚いた。
痩せてひと回り小さくなって、表情も平板だった。あまりにも印象が違うので声をかけるまで2~3回見直したぐらいである。
食事をしながら簡単に事情を聞いたのだが、ざっくりいうと今いる会社でハラスメントを受けている、という話だった。

私も後輩ちゃんも転職して違う会社にいるのだが、後輩ちゃんが指導役としてついている若手が「先輩が怖い」といって仕事をしてくれないのだという。
しかも「関係ない部署の同僚と一緒に『先輩のここが怖いリスト』を作ってメールで一斉送信する」らしい。なんだかまともな社会人とは思えない。
度々上司にも相談しているそうなのだが、この上司も曲者で、本来は両方から話を聞いたうえで指導役を変えることも考えるべき事案なのに「君が指導役なんだから頑張ってよ」と丸投げである。
使えねぇ…。

後輩ちゃんの状況と対面鑑定

聞きたいことはまだまだあるがランチは長居ができないので、指定の時間に対面鑑定に向かった。
さて、さすが本職の拝み屋、相談のプロである。私がぼんやり聞くよりも、もっと細かく情報を引き出してくれた。
後輩ちゃんが一番気にしているのは「呪いでもかけられてるんじゃないかと思うぐらい運が悪いし体調が悪い」ということだったが、先生の答えは「そういう事も考えられる状況だね」というものだった。

呪詛と悪意はとても境目が曖昧で、ただの悪意でも、例えばぬいぐるみを相手に見立てて殴るとか、その程度のことでも呪詛が成立することがあるんだとか。
呪詛かどうかはともかく、悪意をぶつけられていることは確かなので、呪詛返しを行うことで多少改善するかもしれない、という話だった。

後輩ちゃんはできればもうその人の指導役はやめたいということで、すぐ効果のあるものとして呪詛返しと、縁切りの祈祷をお願いすることになった。

「秋頃に習い事の最中の事故で肺が潰れて入院して、そのあと鬱になって入院したんです。どっちも自分のせいではあるんですけど、本当にひどい目に遭いました。」

ちょっとまって!
ライトに説明してるけど肺挫傷は重症ぉおおおお!!!!
あなたの言ってる事故では普通そんな事にならないんだけど!!!!!

思わず先生に視線を合わせると、難しい顔で頷いた。
声に出して話し合ってはいないけど「一線超えやがったな」という感じのアイコンタクトだった。
こんなん完全に呪詛じゃねえか。可愛い後輩になにしてくれやがる…!

「わあ、かわいい後輩に何してくれやがるんですかね。うっかり呪いたくなりましたよwww」
「そういう事をオープンに言う人は呪いにならないんですよねw 私が返しときますから大丈夫ですよ!」(意訳:素人がいらんこと考えないで任せなさい)

先生はあえて呪詛という言葉は使わずに、返しをするための詳細を後輩ちゃんと詰め始めた。
『呪詛返し』は呪詛を飛ばしている相手の情報が多ければ多いほど成功するらしい。それは悪意の返しであっても同じだそうだ。
相手の氏名、住所、年齢…後輩ちゃんは分かることをできるだけ先生に伝えていく。
それで判明したのだけれど、なんと同県人 _(:3」∠)_
現住所は違うが出身は同じ県で間違いないらしい。そりゃあ同じ県に生まれただけだから色んな人が居るのは理解できるけど、凹む。
その割に名字に覚えがないのが気になった。田舎なんてエリアである程度名字が決まっているものだけれど、県内では珍しい名字だった。それだけではなく、記憶のなにかに引っかかっている気はするのだけれど、思いつけない。

腑に落ちない顔で首をかしげているので、後輩ちゃんも先生も気にしてくれはしたのだが、思いつかないのでしょうがない。
それに『返し』の依頼元は後輩ちゃんである。私のひっかかりはさておき、後輩ちゃんの件は拝んでもらって後からお守りも送ってもらうことで話が終わった。
縁切りというか仕事運も拝んでくれるそうなのだけど、縁切りはこのあと専門の神社でも祈願するということになったので、そこまで付き合った。

驚きのつながり

さて、色々終わって帰宅した私は、やはり相手が同県人であること、それにしては名字に覚えが無いことが気にかかっていた。いやほら、田舎って一般的ではあっても特定の名字が多かったりするんですよ。例えて言うなら仙台近辺に佐々木が多いとか。
なので、ネットの名字由来辞典に頼って調べてみることにした。
最近ほんとに便利だよね!かなりの珍名でもスルっと由来が出てくるからね!
自分の名字で試したら、割と正確に情報でてくるよ!すごい!

当然というか、やはり地元由来の名字ではなかった。由来として近隣の県のある地域が示されたのだが、そのエリアを見たときに、脳内に一人のおばあさんの顔が浮かんだ。

それは祖母の友人のひとりで、たまにご自宅にもお邪魔することがあり、そこそこ可愛がってくれた人だ。
他県から移住してきて生まれた元の方言をずっと使っていた人で、話は1/4ぐらいしか理解できなかったが、気の良い方だった。なんと、そのおばあさんの出身地が名字の由来として書かれていたのだ。

いや、まさか…そんな話ある?

脳内で何度か名字を繰り返す。嫁いだのではなくご夫婦で移住したと聞いたので、夫さんも同じ地域の出身のはずだ。
当時は屋号や地名で呼び合っていたので名字を聞いたのは1~2回程度で、しかも小学生だった。興味もなかったし覚えていない。
だがお歳暮の手配を頼まれた身内がそんな名前を呼んでいなかっただろうか。
あわてて県内の電話番号検索を使ってみる。
昨今は個人のデータは載っていないが、商売人と言っていい家なのでそちらの番号は載っているだろう。

結果、県内には私の記憶にある地域を含めて1~2件しか存在しないことがわかった。
ヤバい…まさかの知人の身内疑惑だ…。何この偶然…というか偶然なのか?いや、別にヤバくはないか…ただなんだか怖い。
全く見知らぬ人ならともかく、細いながら縁があるというのは、なんというかとても困惑する。

その後、後輩ちゃんに先方の家業を確認したところ「なんで知ってるんですか?!そのとおりですよ!」と言われてしまい、ますます疑惑が深まった。
ただこれは後輩ちゃんの件についてはプラスに働くこともあるかもしれない。
つまり、これ以上なにかしてきた場合、言葉は悪いが先方の実家を人質に交渉出来るということだ。
東京で出会った全く情報を与えていない、チョロい人間として舐めていじめているはずの人間から「そちら〇〇町の〇〇あたりで〇〇をなさっているお宅で、〇〇県から移住してきた方の身内ですよね?」なんて言われたらとても怖いであろう。
世代が変わっているのに元の出身地まで調べ上げるとか、調査会社を使ったとしても怖い。完全にストーカー状態である。
まさかの名字だけで特定したとかもっと怖いwww

ちなみに、その相手が今住んでいる街には自分の身内がいるので「ああ、いい場所ですよね。あのへんに〇〇があって…」などという情報も出せる。
まあこの辺はgoogle mapを使えば簡単なのであまり威嚇にはならないだろうけど。

後輩ちゃんには「もう無いと思うけど、もし今後なにかしてきたら詳しい住所と家業を伝えて威嚇するように」と伝えておいた。
縁切り神社のご利益のお陰か結局転職になったのでもう会うことも無いと信じたいが、保険はあった方がいい。
それほどねっとりとえげつない方法でハラスメントしてくる人だった。ラノベかよ!現実では初めて聞いたよ!!

いつもながらこの話には落ちがない。
知人の身内かどうかも状況証拠の範囲を出ないし、それっぽい夢なども見ない。
もし私の思う通りの人物だったとして、後輩ちゃんに絡む前に自分たちでなんとかして欲しいなと思った次第である。
うん、できれば何とかしてあげて、オバちゃん。(※大昔の小学生当時ですでにお年寄りだったので流石に故人)
だいぶやばいよそのコ。

私の気持ちはスッキリしないが、後輩ちゃんは本人が驚くほど色々スムーズに動くようになったらしい。一緒に行った甲斐があるというものである。
それだけでも良かったと思える一件だった。



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