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[奇談綴り]忌み言葉(忌詞)

「神域で言ってはいけない言葉がある」というのをご存知だろうか。
大抵は罵詈雑言とか悪口の類なのだけど、場合によっては普段使わないだけで特徴のない言葉であったりするようだ。
恐ろしい話は専門のサイトに譲ることにして、私が「忌み言葉」を意識するようになった経験を書いておこうと思う。

高校生の頃の話。
当時は文化部だったのだが、担当教師がドライブ好きで、長期休暇になると週に何度か、部員の中から行きたい生徒を募って校外学習の体でドライブに行くのが常だった。
長くても片道2時間以内で、行った先で何をするわけでもないし、寄り道をするわけでもなく帰ってくる。
それでも暇を持て余した高校生には楽しい余興で、元々人数の少ない部活のことで、だいたい同じメンバーで集ってはドライブに繰り出していた。

ある日、本当になんとなく、片道3時間近くかかる岬まで行ってみよう、という話になった。
遠い場所ではあったけど、田舎のことで渋滞があるわけでもない。
快適にドライブして、いつもより少し遅くなる程度で帰ってこられるだろう。

その日は物凄い晴天で、ドライブにはもってこいの天気だった。
いつものように先生と私を含めた部員が4人、合計5人でドライブに繰り出した。
途中の大きな街でトイレ休憩をとった以外はずっと車である。
さすがに飽きてきたのか、皆、なぜか行く先の岬の悪口で盛り上がり始めた。
岬には神社があり、たしか岬自体が御神体のはずだった。
徐々にヒートアップする悪口に嫌気がさして止めるように言ったのだが、まったく聞いてくれない。
残りの30分ほどの道のりを、聞きたくもない罵詈雑言に囲まれて進んでいった。

さて、ようやく岬の駐車場に着いたのだが、何かがおかしい。
数分前まで雲ひとつ無い青空だったはずが、急に雲で埋まり始めた。
皆気にせず車を飛び出していったのだが、私は荷物の置き場に手間取って遅れていた。

雲はどんどん濃くなり、すぐに土砂降りになった。
これで外に出るのはキツイな、と躊躇しているうちに、ドシャーン!と落雷があった。
外を見ると、雨を避けて走って戻ってくる先生と同級生たちが見え、その後ろの方にドンガラガッシャンと雷が落ちている。
さすがに多少距離があったが、それでも危険な事に変わりはない。
せっかく車から出はしたが、数歩も歩かないうちに車に戻り、ついで先生と同級生達も逃げるように戻ってきて、ほうほうの体で車を出した。

逃げるように駐車場を出て一般道路に戻った頃。
後ろを見ると、岬は何事もなかったかのように晴れている。雲など一つもない。
ポカンとして「晴れてる」というと、皆振り返って驚き、先生もバックミラーで確認して「え? なんで?!」と驚いた。

驚きはしたものの、そこはおバカな高校生の集団である。
「こえー!」「さっきの話で怒ったのかな?」などと更に怒られそうな話で盛り上がってしまった。
結局は気のせい、タイミングが悪かった、という話になったのだが、それにしてもほんの数分で雷雲が出たり消えたりするものだろうか?
駐車場では周囲の景色がみえないほどの雲だったのに。

雷が本当に怖かったので、それ以来その場所には行っていないし、神域では失礼な言動が無いように注意するようになった。
行ったらまた雷で怒られてしまうだろうか。

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