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[奇談綴り]犬の家出の仲介
家出した犬を無事に家に戻してから1年ほど経った頃だろうか。
その日も学校に行くために、いつもどおりに家を出た。
とても晴れた日で、周囲は同じように登校する生徒でそこそこ賑わっている。
ふと、ふくらはぎに冷たい感触があった。
雨でも降ってるのかな、と空を見上げても、雲ひとつ無い晴れである。
周囲にも、たとえば水撒きのような、水滴に関係ありそうなものは見当たらない。
変だなあと思いながら歩き始めると、やはり冷たい感触が続く。
ポツン…ポツン、と、どこからか滴った水滴が当たるようなタイミングだ。
「なんだこりゃ?」
さすがにおかしいと思い、立ち止まって空や周囲を見渡し、ふと振り返って足元を見ると。
ちょうどふくらはぎに当たる位置に、犬の鼻がある。
中ぐらいの大きさの犬が、ふくらはぎにちょっとずつ鼻を付けながら着いてきていたのだ。
犬は「あ、気がついた?」みたいな顔をしてこちらを見上げている。
犬には見覚えがあった。
近所に住む同級生宅の犬に違いない。昔はよく遊びに行って、構ったりしたものだ。
外飼いではあるがガッチリとブロック塀で囲われた庭先で、いつも鎖に繋がれていて、勝手に出歩けないようになっていたはずなのだけど。
ちょっと困って周囲を見渡したが、同級生の姿は見えない。時計を見るともう遅刻寸前だ。
遅刻をとるか犬を取るか。
今ここで放って学校に行ったら、おそらく着いてくるに違いない。大騒ぎである。
「あーもう! おいで、一緒にお家に帰ろう!」
遅刻は諦めて、首輪は外れていなかったので、軽くつかむようにして、同級生の家まで走る。
犬は散歩の途中ででもあるかのように、一緒になってうれしそうに走る。
近所なのでものの3分ほどで到着し、呼び鈴を鳴らすと、同級生のお母さんがでてきた。
「あれまあ、どこにいたの?! 逃げてて探してた!」
どこにも何も、今さっき後をついて来ていただけなので、それしか言いようがない。
完全に遅刻の時間なのであいさつも早々に引き渡し、学校まで走った。
走りながら考える。
この時間なら飼い主である同級生だっていただろうに、なんで自分に着いてくるかな?
里子の家が斜向かいだけど、まさか里子のやつ「あそこに行けば仲介してくれる」とか話を広めてるんじゃなかろうな。
結局ギリギリ遅刻で叱られたわけだが、犬を連れて行ったら同級生もろとも有名人になっただろうし、余計に叱られただろうし、まあしょうがないかな、と諦めた。
しばらくの間は「まだ他の犬が来るんじゃなかろうな」と不安だったが、それ以降仲介を頼まれることはなかった。