[奇談綴り]会えない人
社会人になってから仲良く遊ぶようになった友人がいる。
もともとは二人組みでつるんでいる事が多い人達で、二人とも東京が地元なので、それぞれの友人もかなりかぶっているのだそうだ。
私をいれて三人で遊ぶのも面白いんだけど、もうひとりよく遊ぶ人がいるから、どうせなら紹介しちゃって四人で遊びたいよね、という話をよくしていた。
二人が楽しそうにしているのでいい人なのだろうと、機会があったら紹介してもらうことにした。
ところが、なかなか会えない。
二人それぞれに予定をたてて、食事会や家飲み会を開いて呼んでくれるのだが、一緒に誘っているはずのその人が来ない。
誘うとOKで、楽しみにしてる、という返事なのだそうだが、現場に来ない。
忙しいのかもね、という話でスルーしていたのだが、正直だいぶ違和感があった。
ある日、一人が引っ越したので、引越し祝いの家飲み会をしようと誘われた。
その会えなかった人も前日から泊まっているとかで、なるほどこれなら今日は会えそうかな、と思っていたのだが、着いてみると居ない。
「なんかね、急に高尾山に用事があるって言って、朝早く出て行っちゃったの。どうしたんだろうね。」
私ももうひとりもポカーンとした。まるっきり意味がわからない。
「え? 二人で来るって言ってあったんだよね?」
「うん…なんか今朝急に出ていっちゃって…。」
二人にとっては私より古くからの友人である。
私は正直「あっこれ、ものすごく拒否られてるな」と思ったのだけれど、二人は単純に心配しているようだ。
その日はごく普通に新居をお祝いして解散になった。
私には言わなかったが、二人とも思うところがあったのだろう。それ以降、紹介するという話は立ち消えた。
それから数年。
久しぶりに友人宅に遊びに行った時のこと。
最近ちょっと大人数のグループで温泉に行ってとても楽しかった、という話題で盛り上がった。
すごく良かったからそのうち一緒に行こうよ、とアルバムを出してくれたので、お茶を飲みながらなんとなくめくっていく。
友人は追加のお茶とお茶菓子を用意しにキッチンへ移動して、そのまま観光地の楽しさなどを説明してくれる。
皆浴衣で笑顔でとても楽しそうで、なるほどいい温泉だしいい仲間なんだな、と楽しく眺めていたのだが、あるページを開いた時、異常が起きた。
浴衣でゴキゲンな集合写真の中、ひとりだけ顔が真っ黒で目が光っている人がいたのだ。
慌ててアルバムを閉じる。
アルバム自体はごく普通のもので、特におかしなこともない。
写真だって変なものは写っていなかった。さっきのページを開くまでは。
見間違いかと思ってそっと開くと、多少薄くはなっていたが、やはり一人だけ黒くて目が光っている。
表情が全くわからないが、この状態で目を黄色く光らせている相手が笑っていることはないだろう。
さて、どうしようこれ。
写真の続きを見ることを諦めてアルバムを閉じる。なぜかハッキリと「会えなかったあの人だ」と思った。
オカルトマンガで見たことがあるけど、本当に顔が塗りつぶされるんだな…。
完全に威嚇だよね、これ。
そういえば最近言ってこないけど、紹介されたらヤバそうだな。明らかに嫌われてるし。
しょうがない、ちゃんと伝えるか…。元々オカルト大好きだから、アタマから否定はしないだろうし。
キッチンから戻ってきた友人に、件のページを開いてまず説明を聞いてみた。
友人にはごく普通の写真のようで、楽しげに「こんなことやあんなことがあってね!」と教えてくれる。
「その集合写真にさ、前紹介してくれようとしてた人、いるよね? この写真のこの人。」
「うん、居るよ、その人だけど…って…え??? なんで分かるの?! 会わせてないし、教えてないよね?」
当たっちゃったよ…やっぱりか。
というわけで、私にはその写真のその人の顔が真っ黒で見えないこと、真っ黒どころか目が光っていて怖いことを伝えた。
友人は驚いていたが、なにせ最初に本人を当てているので、嘘だと突っぱねることもできない。
「残念だけど、紹介は諦めてくれるかな」というと、残念そうに頷いた。
たぶん、頑として会わなかった原因は嫉妬だと思う。
あからさまに嫌がると大好きな友人達に嫌われかねないからOKはするけれど、ものすごく邪魔だと思っていたのではないだろうか。
小中学校でよくある「勝手にグループに入ってこないで!私の友達なんだから!」の超強烈バージョンのような感じ。
書いていて思ったのだけど、敵に姿を見せたくなかったから、黒く塗りつぶされた姿だったんじゃないか、という気がしている。
姿を見られて反撃されたくないから、写真ですら顔を見せなかったのでは。
確認のしようがないけれど。
顔が黒く潰れた写真を見たのは、今のところこれが最初で最後である。
写真の気味悪さよりも、会ったこともない友人の友人をそこまで嫌えることのほうが気味悪いな、と思った出来事だった。