見出し画像

[奇談綴り]生き物を飼うのが下手

猫が好きだから飼うのに向いているかと言うと、そうとは限らない、という話。

叔母は猫が好きで、夫婦で高級な血統書付きのチンチラを飼っていた。
昭和の青森の話である。
猫は外にいるのが普通、拾ってくるのが普通、という時代だった。

叔母は猫を非常にかわいがっていたのだが、そういう時代だったので、今の時代の猫飼いのみなさんが聞いたら激怒するようなことをやらかした。
つまり、外に出したのである。

叔母にも言い分があって「トイレ以外に粗相をしたからおしおきとして家の外にだした」ということだった。ほんの数分で家に入れようと思ったのに、もう居なかったそうだ。

やったらいけないことのオンパレード過ぎて頭が痛い。
まず、完全室内飼いで一度も外に出たことのない血統書付きの、体もそんなに強くない猫を、真冬の青森の外に出したこと。
完全に虐待である。
次に、猫がその場所にずっといると思い込んだこと。
これは人間もなんだけど、寒い場所に怒鳴られて放り出されて、そのままうずくまってるわけがない。自分が同じことをされたら虐待だと警察に行くと思う。
対象が猫なのでそのまま行方不明になったけど。

一週間すぎ、一ヶ月すぎても猫は見つからなかったが、叔母夫婦は諦めずにあちこちに広告を出して探していた。
そうしたところ、奇跡が起きた。
概ね半年後、数キロ離れた農家さんから「おたくの猫ではないか」と問い合わせがあり、本当に叔母の猫だったのだ。
田んぼの用水路にハマって動けなくなっていたらしい。猫は恐怖と疲労で自我が破綻してぬいぐるみのようにぼーっとしていたけれど、さすが完全無欠の血統書付きである。薄汚れていても漂う高級感に、野良ではないだろうと保護して、飼い主が探しているかもしれないと広告に気をつけていてくださったんだとか。
猫は叔母の手元に戻り、数年で性格も戻り、そのまま天寿を全うした。

その叔母が、離婚した後またチンチラを飼った。
一度遊びに行ったのだが「人がいると出てこないから」と玄関を開けっ放しで用事を足し始めて、そこに出てきて普通に外に行こうとしたので慌てて奥の部屋へ戻してドアを閉める、ということがあった。
飼い方に不安を感じたのだが、特に虐待ではないためこの時点でできることは何もなかった。
このチンチラはその後、ものすごく若いうちに、おそらくFIPで亡くなった。
病気に関しては叔母のせいではないのだが、他の親戚に言わせると部屋のあちこちにカビが発生しており、猫を飼う環境では無かったのではないか、という意見だった。

わたしが「叔母の猫が病気で死んだ」という話を聞いたのはお正月の帰省の時だった。
秋頃の話で、聞かせてくれた別の叔母はよほど鬱憤がたまっていたのだろう、実に細かく熱心に語ってくれた上に、爆弾をおとした。
「あの子、なんでかうちの畑に亡骸を持ってきて埋めたいっていうのよ!! 意味がわかんないけど持ってきちゃったものはしょうがないからOKしたんだけどさ! 自分の自治体で処理してもらえばいいじゃん!!!」

叔母達は遠く離れて暮らしているので、今話してくれている叔母と、猫の叔母の家は約40km離れている。
猫の叔母の住む自治体は県内で一番大きな街でもあるので、望めば自治体でも火葬できたし、ペットの葬祭業者も溢れている。
それをひとまわり田舎である実家に持ってきて埋めたいというのは、なるほど意味がわからない。

呆れて反応できずに居ると、途中から話を聞いていた祖母が「それかぁあ!!」と大声をだした。見ると普段穏やかな祖母がぷりぷり怒っている。
それには事情があった。

ある時から、祖母の足元に白い猫がまとわりつくのだそうだ。
生きた迷い猫かと思ったがどうやら違う。
白くてふわふわの猫が、ふうっと出てきて足にまとわりつくので、生物ではないとわかっても反射的に避けようとしてしまい、危なくて仕方がない。祖母は習慣として毎日お題目を唱えているのだが、それでも消えない。
どういうことだろうと悩んでいたのだそうだ。

「あのやろう(本当にそう言ったw)何をやらかしてるんだ、もう一生猫など飼ったらダメだ!!呼び出せ!!そして猫を連れて帰れ!!!」

祖母に勝てる人間など身内にも親戚にも居ない。
私は帰省を終えて自宅に帰ったが、叔母は祖母に呼び出され、ガンガンに説教された。
そして「お前は二度と猫を飼うな!!連れて帰れ!!!!!」も改めて本人に言い渡されたそうだ。
とはいえさすがに掘り起こすわけには行かないので、埋めた場所で線香を焚いて着いてくるようにねんごろに話しかけて帰宅し、自宅にきちんと祭壇を作ったそうである。

叔母は「もう飼わない。叱られてなんだかスッキリした」と言っており、祖母が猫に悩まされることも無くなったそうだ。
叔母が猫を埋めた場所には先に天寿を全うした中型犬2匹と猫が2匹埋まっており、そこに気の弱い他所の猫を埋めたと聞いて、死んだ後も大変やな、と思ったものである。

叔母が猫を好きだというのは本当だと思うのだが、飼うのが壊滅的に下手だったのかもしれない。
その後は言った通り飼うのを諦めて、他の叔母の猫に構ってもらっているそうである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?